誕生日の朝を誰かと迎えるなんて、十何年振りだ。
昔両親が健在だった頃の楽しい思い出が大きすぎて誰とも祝う気になれず、誕生日にはいつも一人で過ごしていた。気心の知れた仲間達の前夜から飲み明かそうという誘いすらどうしても頷けなかった俺だが、今年はよりにもよって朝陽のせいで眩しく白銀に輝く髪の男と同衾している。
少しでも身体を動かせば、腰が抜けたような爪先まで僅かな痺れが取れないような、自分のものとは思えない下半身。
この人どころか『男』とは初めてだった。自分が望んだ事とはいえ色んな意味で衝撃的で、途中から酔いはほぼ醒めてしまい記憶もかなり残っている。
喘がされた。あらゆる格好をさせられた。尻を上げた後背位も恥ずかしいが、それより正常位で腰に脚を回して自分からしがみついた事の方が恥ずかしすぎて死ねる。
絶頂が長くてずっと叫んでいた声は、隣近所に丸聞こえだっただろう。もっと、気持ちいい、抜かないで、動いて、……覚えているだけでもちょっと酷いな。なかった事にしたい。それが無理なら全部忘れたい。
昨日までは一度寝たら良い思い出になって諦められると思ってた。けど、無理かもしれない。
一応俺の中で決着は着いたが、今現在の話だ。気持ちを引きずってしまい一度寝たんだからもう一度はありかも、なんて思うようになるんだろうな。馬鹿だよな、酔った挙げ句のお遊びなんだからあり得ないって。今までの関係もぶったぎられて終わっちまう可能性の方が高い。
でもその前に、この男の規則正しい寝息に誘われて眠くなったからもう少し寝るわ。後の事はまたゆっくり考えよう。なんならもう一生、ぐじぐじ引きずって生きていきゃあいいよな。

隣でもそりと動く気配に目が覚めた。
こんなにぐっすり眠れたのは何ヶ月、……何年振りだろうか。多分布団に染み付いたこの人の匂いに安心していたからだろうな。
ちょっと身体中の関節がきしきしとぎこちないのは忍びとして困った事だが、オレの心は幸せという感情に満たされている。溺れそうな位だ。
この人には少しも警戒せずに丸腰で素っ裸になって、オレ自身をぶつける事ができた。初めてだ、ただひたすら行為に夢中になったなんて。
全身の急所丸出しでも怖くはなかった。殺されるならこの人がいいって思ったんだ。そうでなくても死ぬ時はこの人の側がいい。
ね、あなたがオレの事が好きなんだって気付いたの、結構前なんだよ。多分オレがあなたを好きになったのも同じ頃だったから気付けたのかもね。
ふとした瞬間に向けられる好意の種類が同じだと解って、オレがどんなに嬉しかったか。でもあなたはなかなか心をさらけ出そうとはしない。
当たり前だよね、オレだってあなたに自分の気持ちを少しも見せられない卑怯者だったんだから。
それでも昨夜、あなたが先にほんの少し歩を踏み出してくれた。どんなに隠していても不安でいっぱいの目、爪先でにじり寄る程度でも相当の勇気が必要だったよね。
いつものように家まで送る途中、緊張のあまり石につまづいてオレに触れた手は震えていた。酔っているからと言い訳をしてわざと隙を作るあなたの背中に、これで応えない馬鹿はいないと決心した時にはオレの口からは心臓が飛び出す寸前だった。本当に余裕なんか無かったの、今思い出したら汗が出るほどオレの顔は熱い。笑っちゃうね。
あなたが玄関の鍵を開けた途端にオレは勇気を振り絞って、腕を掴むと一緒に中へと入った。抱き締めて口づけて、まだ大分酔いの回っているうちに一度だけで良いって無意識にあなたが漏らした言葉に、オレの身体中の血液は一気に頭に回ったんだよ。一度だけなんて冗談じゃない。一生離してやらないって無理やり身体に覚え込ませようとしたのは反省するけどね、オレの腕の中から抜け出す事は絶対に許さないよ。

ああ起きたのかな、気まずそうな気配がしてる。話をしたいからこっち見てくれないかな。あー布団に潜っちゃった……駄目か。うん、これでどうだろう。
「せんせ好き、愛してる。一生一緒にいて欲しい。」
ほらまん丸い目がオレを見た。じゃあもうひとことね。
「誕生日おめでとう。誰よりも一番先に言いたかった。」
なんで、って驚き掠れた声。
だって水平線の向こうを越えて地球を一周する位愛してる、たった一人の人の事だよ。
オレが知らないとでも思ってた?
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。