ついね、じっと見てしまうんだ。いつからだったのかは全く思い出せないけれど。
「イルカ先生、ご飯行かない?」
「はい、喜んで。」
好きなようにさせてもらう。だって悪いことはしてないよ?

カカシ先生がイルカ先生を頻繁に誘うようになり、私達は何かおかしいと気付いた。で、回りくどいのは好きじゃないから三人で直接カカシ先生に聞いてみた。何故イルカ先生をそんなに誘うの?って。
そしたら独り占めしたいから、なんて予想もしなかった答えが返ってきた。でもそう言った本人も自分の言葉に驚いていて、何故こんな事をオレは思うんだろうと呟いた。それについてはあの鈍感なナルトでさえ、まさか自分の気持ちが解らないのかって呆れた顔をしていた。
独り占めしたいという意味についてもう少し深く聞いてもいいか、と詰め寄ったのはサスケ君。物凄くクールに見えて、でもアカデミーの教師の中でイルカ先生は別格に好きなんだと私は知っている。
私はカカシ先生がなんて答えるのか、本心を聞きたかったから黙って見ていた。いつもなら私が一番先に騒ぐと思っていたカカシ先生は、ただじっと見詰められて居心地が悪かったようだ。
私がナルトにも黙っているように指示したから、四人の空間は暫し鳥のさえずりしか聞こえていなかった。
そしてカカシ先生は、結構動揺しているように見えた。
心理戦では私達下忍でも状況をひっくり返す事ができる、と教えてくれたのはカカシ先生だ。どうだろう、ひっくり返せただろうか。
「一日中は無理にしても、」
サスケ君の声は低く落ち着いていて、少し怖いところもある。
「独り占めって、自分だけ見ていて欲しいって事なんだろう。」
私を見て、女は皆そうしたがるだろうと言外に匂わせる。私は頷いた。
「でも女に限らず男だって、恋をしたら大抵はよそ見しないでって思うでしょう?」
私はカカシ先生にうっすらと笑いかけた。圧迫だ。
「いや、オレは、恋ってものが解らなくて。」
言い寄られても相手に好意を持った事など殆どないと、困ったように頭をかいて笑ったカカシ先生に私達は呆れた。のんびりした休日なんて上忍師になって初めてもらったから、どうしても知り合いとつるんで色々教えてもらうしかないのだと言う。
その相手の一人がイルカ先生なんだよ、とカカシ先生はちょっと首を傾げその人を思い出すように目を細めて私達の後ろを見ていた。まるでいつものように、イルカ先生が私達を纏めて肩を抱き教育がなってなくてすみませんとカカシ先生に謝る時のように。
自覚ねえな、とサスケ君が小さく息を吐き出した。イルカ先生馬鹿のナルトは唇を噛んで自分の足の指先を見つめていたけれど、顔を上げるとカカシ先生に恐れ知らずの満面の笑みで突っ込みを入れてしまった。
「だからさあ、それが恋じゃねえの?」
「へ?」
カカシ先生の間抜けな顔が面白かった。半分隠れた顔でも動揺しまくりなのはよく解る。
「え、いや、なんで、だって、あの、イルカ先生男で、」
「それがどうした?」
サスケ君の簡潔なひとことが突き刺さったのだろうか、カカシ先生はそれきり口をつぐんで私達を見詰める。
「悪いことはしてないですよ?」
私の言葉にあ、と右目を見開き肩の力を抜いて、カカシ先生はぼそりと本音を漏らした。
「イルカ先生の気持ちが解らない。」
「だったら聞いたらいいってばよ。」
「……なんて聞くの。」
ナルトって本当に強い。大人のカカシ先生がたじたじなんて、面白いもの見られて得した感じ。
「まずカカシ先生の気持ちを伝えるところから始めないと。練習してみませんか?」
カカシ先生の背中の向こうにイルカ先生が見えたけれど、カカシ先生は動揺が収まらないから気付かない。
イルカ先生が手を振りながらこちらに歩いてくる。カカシ先生を驚かそうとしているらしく、いたずらっ子のように人差し指を口に当てて笑っていた。
さあもう忍びならぼそぼそ呟く声も聞こえる距離だ。
「ほらカカシ、言ってみろ。」
サスケ君いいタイミング。
「あ、うん、えと、イルカ先生……毎日朝から晩まで一緒にいたいんですけど駄目ですか……とか?」
あーなんか違う。それもうプロポーズだと思う、と注意しようと私は口を開きかけた。
でもイルカ先生はあと数歩のところで立ち止まって、あたふたとし始めた。流石にカカシ先生もその気配を感じ取って、勢いよく振り向いた。手を伸ばせば触れる距離に立つ人にどうしたらいいのか解らず固まって、悪いけれど笑いそうになった。イルカ先生は俯き気味の真っ赤な顔でちらっとカカシ先生を見て、小さな声で答えた。
「……はい、こんな俺で良ければ宜しくお願いします。」
今日は奇しくもイルカ先生の誕生日。

そしてちょうど一年後、漸く二人はきちんと新居を構えて一年前のカカシ先生の言葉通りに朝から晩まで一緒にいられるようになったわけ。
「生まれてから二十数年分の誕生祝いにしては地味かなぁ。」
「あのねえ部屋数イコール年齢って、あんた馬鹿ですかね。」
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