「ふられましたぁ。」
へらっと笑って、イルカはビールの瓶をラッパ飲みした。
「それはまた、御愁傷様。」
あははと笑い続けるイルカから、カカシは瓶を取り上げた。
うそだって知ってる。同僚の女に告白されて、男が好きだと言ってアンタがふったって。それもうそだろうけど、相手がオレだったら嬉しいなあ。
ほくそ笑みながら、その瓶をカカシもラッパ飲みした。
「オレもね、どうやら捨てられたらしいですよ。」
空になった瓶を、カカシは脇に転がした。
「お疲れ様です。」
イルカが頭を下げれば、酔いが回ってがくんとテーブルに額がこんにちは。
うそだって知ってる。あんたに縋るくのいちを、女じゃ勃たないと言った事を。俺で勃つと嬉しいけどな。
イルカは持ち上がらない頭をテーブルに付けたまま、酒のお代わりをカカシにねだった。
「次はぁ、純米酒ぅ。」
火照った頬がテーブルに熱を伝えて、代わりにひんやりと冷たく気持ちよくなる。
目を瞑ると、上からカカシの声が落ちてきた。
「ねえ、明日困るんじゃないの。」
んふふ、とイルカは上機嫌になって笑った。優しい声が自分を心配してくれる。嬉しくて。
ふう、とカカシは呆れたような息を吐いた。
こんなにも無防備な姿は、自分にしか見せてくれないと知ってはいるけれど。…ちょっと、いやかなり、ドキドキする。
「明日は、休み…。」
「え、授業はないの?」
テーブルがあたたまったから、イルカは反対側を向いてまた頬を冷やす。
カカシの声が近い。薄目を開けて見れば、顔を傾けイルカの正面にいた。
思わずぎゅっと目を瞑る。自分の言葉に純粋に驚いただけで、カカシに他意はないだろう。
「たまには休みたい…なあって。」
こんなに近くでカカシの顔を見て、心臓が口から飛び出しそうだ。
眉を寄せて覗き込んでいた。酔い潰れた自分を、決して放り出しはしない人。
だから、お願いだから、酔いが醒めるまで―半分はフリだけど―このまま一緒にいてほしい。
「オレも休みたいなあ。」
カカシは壁に凭れて、ぼうっと天井を仰いだ。
イルカといられるなら、任務なんて一回くらいは休んでしまいたい。たとえその後で、十倍背負わされたとしても。
「まあそうは言っても、夜通し飲んでもオレ達が休んだ事はないよねえ。」
身体を起こしたカカシはテーブルについた肘の先の手のひらに、顎を乗せてイルカの後頭部を見詰める。今度は額を冷やしているらしく、顔は下を向いていた。
「イルカ先生、帰らないと駄目でしょ。」
日付はとうに変わっている。この店は朝の六時までは開いているけれど、まさかここからアカデミーに出勤なんてさせられない。
残念だけど、とカカシが肩を叩くとイルカは突然犬のように唸り出した。
「うそつき、そんな事、思ってないのに。」
ぐずぐずと鼻声で。
「何を?」
何かあったのだろう、今までイルカが酔ってカカシに絡んだ事はなかったが今日は最初から飛ばしていた。
「残念だなんて。」
「思ってるよ。」
「うそつき。」
「アンタこそ。」
「何がです。」
「そうやって酒で誤魔化して。」
「俺は、何も。」
「ほら、うそつき。」
スパーンと襖が開いて、うるせえと怒鳴り声が聞こえた。
「お前ら両方ともうそつきだ。何で自分の気持ちにうそをつく。」
またスパーンと襖が閉まる。
二人とも酔いが醒めた。
「イルカ先生、好きです。」
「カカシさん、好きです。」

うそつきどもは、翌日職場にうそをついて休んだとか。
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