「引退したら何がしたいか、ですか。」
「上忍のカカシ先生だといつか引退できたら、って事でしょうけど。」
適度な酔いにろれつが回らなくなり、挙げ句にしゃっくりが出だすとイルカはあと五分で眠りに落ちる。
パターン法則を学んだのは、会瀬を重ねて十回目だ。いや会瀬なんて色っぽいもんじゃない、ただの飲み会だ。…二人だけでそれからも更に足の指も使うほどの回数を重ねているが、色気のないただの飲み会だ。
「もし引退できたら、イルカ先生に求愛します。」
さらりと言ってみた。
本当は心臓ばくばくで、手が震えて握ったコップのビールが溢れ出しそうだ。
でもイルカはそれには気が付かずオレの言葉に驚いて目を剥き、ついでに口を開けたままでしゃっくりも止まっている。
「えと、『きゅうあい』って、愛を求めるって意味の?」
たっぷり十二秒後漸く動き出したイルカの頭は、それでも言葉が理解できずオレに聞き返した。
「そうです。」
頷いてやるとイルカは首を傾げてにこりと微笑んだ。
「今でも構いませんよ。」
今度はオレが理解不能に陥る番だ。
「え?」
「カカシ先生が死んだら後を追う位の覚悟で愛してますから。引退まで待つ気はありません。」
そう言い切ったイルカの清々しい顔を見て、オレは泣きそうになるのを堪えて唇を噛む。
「嬉しくて泣けるなんて初めてだ。」
笑おうとすれば顔が歪んで、みっともない顔になった自覚がある。
「だってカカシ先生が引退するまでずっとずっとずーっと待って、運良く引退できたらなんて、貴方に都合のいい事嫌なんです。」
「何です、運良くなんて不吉な。」
「自分がそう思ってるんでしょうが。だから求愛は引退できたら、なんですよねーえ。」
酔っているからか絡むイルカはしどけなく、一日の終わりにほつれた髪が色っぽい。
「男らしくない。」
横を向いて拗ねた肩が震え、またイルカのしゃっくりが再開する。
「聞いちゃったけど、その言葉は取り消しますか。それでなかった事にしたら、明日にでも適当な誰かと結婚しちゃいますよ。勿論カカシ先生の事は忘れて、後も追わないし。」
しゃっくりの合間に一気に言って、イルカは唇をへの字に曲げた。眠そうな目をしばたたかせながら、オレの言葉を待つ。
「前言撤回しなければ、誰とも結婚しないで待っててくれるのかな?」
狡いとは思うが、イルカを縛りつけておきたい。
「嫌です、待ちません。」
「待って…くれないの。」
「だから!」
とうとうイルカが泣き出した。
店の片隅とはいえ周りにはよく知る常連達がいて、イルカを泣かしてんじゃないとオレを責め立てる。
酔ってるから、と彼らに言い訳するとイルカが駄々をこねるように嫌嫌とかぶりを振った。
「もういい、帰る。」
立ち上がった勢いでふらついたイルカを慌てて支え、オレはそのまま腕に囲って離す気はないと言ってやった。
「イルカ先生は頑固者だから、本当に明日誰かと結婚しそうだよね。それは困るからねぇ…。」
「困る理由がないでしょ。」
「貴方を愛してるからに決まってるじゃない。誰にも渡さないからね、覚悟があるならオレのものになりなさい。」
「だから、覚悟なんてとっくにしてるって言ってるじゃないですか。」
しゃっくりも止まり、眠気は何処かへ飛んで行ったかイルカは力を籠めてオレを睨む。
「後悔しない?」
「後悔させる気なんですか?」
「死ぬ迄後悔させない気はあるけど。」
「宜しい。」
イルカが満足そうに笑ってオレの首に腕を回した。
ふと気づくと店の中はいつの間にか静まり、オレ達に注目していた。それはただの好奇ではなく純粋に応援してくれる、仲間の目だった。
イルカに口づけて皆を証人として、オレの求愛は成功したのだった。
「イルカはオレのものになったからね。」
肩を落とした奴らがいた事など、オレは知らない。
「上忍のカカシ先生だといつか引退できたら、って事でしょうけど。」
適度な酔いにろれつが回らなくなり、挙げ句にしゃっくりが出だすとイルカはあと五分で眠りに落ちる。
パターン法則を学んだのは、会瀬を重ねて十回目だ。いや会瀬なんて色っぽいもんじゃない、ただの飲み会だ。…二人だけでそれからも更に足の指も使うほどの回数を重ねているが、色気のないただの飲み会だ。
「もし引退できたら、イルカ先生に求愛します。」
さらりと言ってみた。
本当は心臓ばくばくで、手が震えて握ったコップのビールが溢れ出しそうだ。
でもイルカはそれには気が付かずオレの言葉に驚いて目を剥き、ついでに口を開けたままでしゃっくりも止まっている。
「えと、『きゅうあい』って、愛を求めるって意味の?」
たっぷり十二秒後漸く動き出したイルカの頭は、それでも言葉が理解できずオレに聞き返した。
「そうです。」
頷いてやるとイルカは首を傾げてにこりと微笑んだ。
「今でも構いませんよ。」
今度はオレが理解不能に陥る番だ。
「え?」
「カカシ先生が死んだら後を追う位の覚悟で愛してますから。引退まで待つ気はありません。」
そう言い切ったイルカの清々しい顔を見て、オレは泣きそうになるのを堪えて唇を噛む。
「嬉しくて泣けるなんて初めてだ。」
笑おうとすれば顔が歪んで、みっともない顔になった自覚がある。
「だってカカシ先生が引退するまでずっとずっとずーっと待って、運良く引退できたらなんて、貴方に都合のいい事嫌なんです。」
「何です、運良くなんて不吉な。」
「自分がそう思ってるんでしょうが。だから求愛は引退できたら、なんですよねーえ。」
酔っているからか絡むイルカはしどけなく、一日の終わりにほつれた髪が色っぽい。
「男らしくない。」
横を向いて拗ねた肩が震え、またイルカのしゃっくりが再開する。
「聞いちゃったけど、その言葉は取り消しますか。それでなかった事にしたら、明日にでも適当な誰かと結婚しちゃいますよ。勿論カカシ先生の事は忘れて、後も追わないし。」
しゃっくりの合間に一気に言って、イルカは唇をへの字に曲げた。眠そうな目をしばたたかせながら、オレの言葉を待つ。
「前言撤回しなければ、誰とも結婚しないで待っててくれるのかな?」
狡いとは思うが、イルカを縛りつけておきたい。
「嫌です、待ちません。」
「待って…くれないの。」
「だから!」
とうとうイルカが泣き出した。
店の片隅とはいえ周りにはよく知る常連達がいて、イルカを泣かしてんじゃないとオレを責め立てる。
酔ってるから、と彼らに言い訳するとイルカが駄々をこねるように嫌嫌とかぶりを振った。
「もういい、帰る。」
立ち上がった勢いでふらついたイルカを慌てて支え、オレはそのまま腕に囲って離す気はないと言ってやった。
「イルカ先生は頑固者だから、本当に明日誰かと結婚しそうだよね。それは困るからねぇ…。」
「困る理由がないでしょ。」
「貴方を愛してるからに決まってるじゃない。誰にも渡さないからね、覚悟があるならオレのものになりなさい。」
「だから、覚悟なんてとっくにしてるって言ってるじゃないですか。」
しゃっくりも止まり、眠気は何処かへ飛んで行ったかイルカは力を籠めてオレを睨む。
「後悔しない?」
「後悔させる気なんですか?」
「死ぬ迄後悔させない気はあるけど。」
「宜しい。」
イルカが満足そうに笑ってオレの首に腕を回した。
ふと気づくと店の中はいつの間にか静まり、オレ達に注目していた。それはただの好奇ではなく純粋に応援してくれる、仲間の目だった。
イルカに口づけて皆を証人として、オレの求愛は成功したのだった。
「イルカはオレのものになったからね。」
肩を落とした奴らがいた事など、オレは知らない。
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