きゃららとまた別の時にはきゃははと、戦地だというのにかまびすしいその一団に、五月蝿いと怒鳴った若い上忍にお前こそ五月蝿いと返されて、かっとなって一歩を踏み出してその上忍は腕を取られた。
「やめなさいよ。」
「カカシ先輩、何で止めるんです。此処は戦場ですよ。」
苛々とカカシを睨む、上忍になって初めての大きな戦いに肩の力が入りっぱなしの男に苦笑いし、腕を掴んだままカカシは一団が去った後に連れて行く。
「此処にトラップがあるの、お前は見抜けるか?」
開けた野原は背の高い雑草だらけで、とてもさっきの一団八人が歩いた場所とは思えない。
確かにこの中でうろちょろしていたのに…。と目を凝らせども人が歩いた形跡は無く。
カカシは男の肩を叩いて見逃して、と優しく目を細ませて笑った。
「夕飯時に聞くからよく見て、理由を考えてごらん。」
カカシがのっそりと緊張感もなく歩く後ろ姿に、若い上忍は渋い顔を作った。
たかが中忍を何故庇う。
あれか、囲い者を連れてきたって噂は本当だったのか。
平凡なアカデミー教師が役に立つわけもないだろうと、誰かが言っていた。足手まといでこっちが殺られたらカカシが責任取って腹切るのか、と嘲笑う者もいた。
聞こえただろうに、カカシは平然と指揮を取っている。先ずは夜襲に気を付けて、周りにトラップね。
そうしてその一団が一日掛けて、陣地の周りに見えない罠を張る。
「中央の食事の竈から半径百歩、出たら死ぬよ。」
カカシの言葉に真剣に頷くのは、共に戦い慣れた者達二十数名。
くだらない、と背を向けた数人はそのアカデミー教師を知らない反カカシだ。
若い上忍はまだ中間でどちらとも見極められなかった。
トラップ掛けが終わるまでは暇だ、カカシに言われて五月蝿い一団の後を離れて付いて見て歩く。
止まない雑談と笑い。苛々も止まらないが、上忍の初舞台をつまらないいさかいで台無しにはしたくない。
集中して彼らの行動を見る内に、男はへえと声に出し関心していた。
手際がいい。仕掛ける手順を見ていれば手品の種明かしのようにどう引っ掛かるのか解るのだが、仕掛け終わったその場は始める前と変わらず草一本も倒れてすらいない。
使われた武器や札に髪の毛の先でも触れば、確実に体に刺さり爆発する。
男はぶるりと体を振るわせた。怒らせれば自分が暗闇で殺される。
いやさっき怒鳴ってしまったから、今夜殺られるかもしれない。
ずりずりと後ずさりして上忍らしからぬ恐怖に、走って人の中へと男は戻っていった。一人にはならないように。

「ん?」
カカシに諌められてからまだ一時間も経っていなかったが、男は解りましたと息を弾ませてカカシの前に立った。
「あの、オレ謝りたいです。」
素直に認めよう、彼らは一流だと。中忍だと馬鹿にした自分を認めよう。
「いいよ、多分解ってるから。」
俺のあの人さあ、とカカシは空を見上げて大きく溜め息をついた。
「昔から悪戯っ子だったから、アカデミーでは子ども相手にやれない事をしたくてたまに志願するのよ。」
あれ全部幼馴染みで、超一流の悪戯っ子。
はあ、とカカシの愚痴を聞くはめになった男はよく解らないが頷いて先を促す。
「仕掛け終わるまではあの人が隊長だと思わないと、ただじゃ済まないよ。」
時間が勿体無いと打ち切らせた時には、怒って仕掛けた分を全て発動させて帰ってしまったのだ。
皆の無事を祈って仕掛けているのに、防御が最大の攻撃になるのが解らないのかと。
「奇襲掛けられて、仕掛けたそれで敵が全員死んじゃった事もあったのに、俺の不用意なひとことで…。」
カカシは項垂れて言葉を切った。
「それで。」
どうなったんだろうか、知りたいと若い上忍は続きを待った。
「まあやっぱり襲われて重傷者出しちゃったからねえ。」
拗ねて拗ねまくってそれ以来大掛かりな時は、おだてて引っ張り出さなければならない。
「尻の下…。」
思わず口をついて出た言葉に、カカシはにっこりと頷いた。
「そ、いいの。あの人と一緒に居られたら。」
いいのか。男も空を見上げた。
「あ、終わったら皆静かになるからね、今だけ我慢して。」

トリップしちゃう程のトラップ中毒なんだよ。

トラップトリップ。
なるほど。
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