俺が思うに、例えるならば朝は白。昼は薄水色。夜は濃紺。

カカシさんは何色だろう。

イルカは閉じた目の奥でカカシの笑い顔を思い出す。

毒は左の二の腕の皮膚から浸透し、視力を奪った。
解毒は完了したが、効果はまだ表れない。
包帯はいらないと言ったが、他人に理解させる為に着けておけと叱られたから頭に巻いている。
それだけだ。見えずともさほど不自由はないのは忍びだから。

だが、色が判らない。
色なんか記憶にあるんだから林檎は赤だと判るだろう、そう言われたが感覚は違うのだ。
上手く説明出来ず、諦めてイルカは口を閉じた。
皮膚感覚で色が判る人がいた。指先で些細な色の違いを読み、それはまぶたの裏に見えるのだという。
もし目が見えるようにならなかったらその人のように指で、いや体で色を感じたい。あの人の色を、抱き締めて感じたい。
病院のベッドに腰掛けて、イルカはとりとめもなく考える。大部屋の窓際で、僅かに開けられた窓から入る風は生ぬるく髪を擽った。

風は何色だ。

ああ、やる事ないからって元々色のないものに当て嵌めるなんて、俺も何だかなぁ。

ふん、と鼻で笑ったイルカは夕方の町の喧騒を追い出すために窓を閉めた。途端に部屋の中の物音と会話が耳に入る。
六人部屋のベッドはイルカを入れて五人分埋まっている。毒に侵された者ばかりが集まり、今回の接近戦の相手の戦略をうかがわせた。
火の国の国境の、まさか活火山から攻め入るとは思わなかった。木ノ葉の里はまるきり逆にありすぐ駆け付けられない、忍びなら何処からでも侵入できるから用心した方が良い、との進言を聞いてもらえなかった。その結果、侵入を許した。

火の国城下町では、週一で定期的に見回りを依頼されていた。今年はイルカはアカデミーで担任を持たないため、頻繁に駆り出されていた。
運が悪かった、としか言えなかった。イルカの力不足ではない証拠に、この相部屋の三人が上忍で二人が中忍だ。但しイルカだけ毒の種類が違い、視神経を侵した。

イルカ先生、と僅かに開けられたドアから聞こえ、見えもしないのに勢いよく振り向いた。だってカカシさんの声だったから嬉しくて、と聞かれもしないのに言うからカカシはイルカの背がしなる程抱き締めた。
ひゅうと指笛と熱いねぇとからかいの声が飛ぶが、カカシは軽く上げた手で払うように答えた。
何を考えていたの、とカカシは共にベッドに腰掛けてイルカの耳にゆっくりと、男前だと誉められる声を流し入れた。
くすぐったい、とごまかしながらイルカは恋人の出現に逸る鼓動を落ち着けようと胸に手をやった。息を吸って吐いて。
カカシさんの色は何色かなあって。

はあ、と返されたのは当たり前だ。イルカは目に見える白銀や青や赤ではないイメージの色を考えていたのだと、温かなカカシの両手を取った。

暫くしてイルカの眉がしかめられ、肩を落として俯いた。カカシはそんなイルカをじっと待つ。いとおしいと目を細めて。
色が浮かばないんです、あ、違う浮かびすぎて決められないんだ。とイルカは鼻を掻いた。
うーん、と腕を組んでまた悩みだしたイルカを見て、カカシは何もそこまでと笑いが零れる。
と、イルカがいきなり顔を上げて立ち上がり、判った判ったとカカシの首に抱きついて頬や鼻にキスをした。
まさか他人のいる病室でこんな大胆な行動に出るとは思わなかったから、カカシは全く動けなかった。見えないから周囲に人がいるのを忘れてしまったのだろうか、同室の四人はイルカならやりかねないと笑いを噛み締めている。

あのね、カカシさんの色はねとイルカは何だか子どものようだ。

虹色なんですよ。

何を言うのだと、カカシは嬉しそうなイルカに目を見張った。
青空、緑の森、夕焼け、どれもカカシのようだと頬を染め、だから虹なんですと熱く語る。意味は解らないが思ってくれる事自体が嬉しくて、カカシは立ったままのイルカの手を引いて腕に囲った。

そんなあんたはね、きらきら輝いて眩しくて、光の色ですよ。
イルカの口が尖りそんな言い方じゃ解りません、と不服そうに言う。

お前らな、それは気持ちの色なんだから、考えないで感じろ。

二人の倍近い年令の上忍は、ぶっきらぼうだが優しい声で言う。
お互いを思いやる気持ちの色なのだと。

その言い方はいいですね、とイルカが頷いてありがとうございます、と上忍の方へ向かって頭を下げた。

あ、そうそう今朝の検査の結果では、解毒の効果が出始めたから一週間以内に視力は戻るらしいです。
カカシの弾んだ声は踊り出すのではないかと思う程浮かれていた。

今すぐ帰れと追い出した四人は、お互いの色は何色だと考え始めたらしい。
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