お前さあ、煙草止められないのか。
んー無理かなあ。いいだろ、どうせ俺はソトには出ないんだし。

休憩の度に喫煙所で一人きりただ煙草を吸い続けるイルカ。
すがるように目は煙を追い、消えるまで息を詰めている様は仲間の目にも痛々しい。
待ち続ける何か、を誰も知らないがイルカはその時を待ち続ける。そしてそれは時折訪れイルカを満たし、絶望させて去る繰り返しのようだ。

ソトに出ない。
戦うために里外へ派遣される事はない、という事。
イルカはナルトを庇って背中に付けた傷が元で、長期任務に就けなくなった。日常的に不安はなく、アカデミーで生徒を相手に実習する程度なら完全に回復したと見えるだろう。

ナルトが卒業しあれから一年近くたち、その間にイルカは煙草を吸い始めた。酒の席ではたまに吸うのを見かけたが、その時だけだった。今は一箱二箱と空の箱を握りつぶす日もあれば、一本も吸わない日もあるようだ。

イルカは教え子達を通して、上忍師のカカシとかなり親しくなった。気づけば家が近く遭遇率が高いために、会えば必ず短くとも会話を交わす。
都合が合えばそのまま飲食店に赴いて。
大概カカシはソトの任務からの帰りで、イルカはアカデミーか受付からの帰りで、体は疲れていたけれど貴方といるのは心の疲れが取れるからとカカシが嬉しそうにするから、いつの間にかイルカの胸にはカカシの笑顔が住みついた。
カカシはイルカを遠くから見つけて手を振るようになった。普段冷静なカカシがそんな事をするのは、イルカに一番に会いたいと思うようになったからだ。
何故かはカカシにも解らない。報告に行って受付で会えればそれで気がすむし、いなければいったん家に帰りイルカが帰宅するだろう時間に、夕飯の買い物がてらに商店街から公園辺りをうろつく。
大抵公園で見つける。それはイルカが煙草を吸っているその煙と匂いで判るのだ。
甘い匂いは女が好むものだ。軽くて煙草嫌いにもあまり疎まれる事がないから変えたんです、と言っていた。
確かにアスマの煙草はきつくて紅は顔をしかめていたっけ。
とカカシは今日もイルカの丸まった背中を見つけて、公園の片隅のベンチに近付いた。

ただ今戻りました。ねえ、貴方が煙草を吸うのは俺がソトに出ている間ですよね。
ゆっくりイルカの隣に座って、顔を見ずにカカシは聞く。
そうですかね。とイルカは吐き出した煙を目で追い続ける。
お疲れ様でした。ご無事で安心しました。
掠れた声で、イルカも前を向いたまま頭を下げた。
煙はね、里で貴方を探すための目印です。帰る俺への合図だと思っていいんですよね。
まだ目は合わせずに、カカシは少しイルカに擦り寄った。肩が触れる。
俺を見つけてくれるなら、ソトから見えるように吸い続けますよ。
とイルカはカカシの肩に頭を乗せた。
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