バレンタインデーはそこかしこでチョコレートが、文字通り飛び交う。忍びの里だしな、チョコ位飛ぶよな。
今日何故か俺は、帰りに待ってますからとカカシ先生から呼び出された。
受付が終了し指定された場所、校舎の裏に行ってみた。薄暗くはあるが、忍びの目には関係無い。
辺りを見回しまだ来ていないのかと思ったら、大木の陰にカカシ先生はいた。幹に抱きついて肩で息を吐き、どこか辛そうだ。樹に腰を擦り付けて小刻みに動いているような様子は、もしかしたら何かの術に掛かったからではないのかと心配になる。
だとしたら、病院に連れて行かなきゃならないだろう。落ち着け、俺。
もしも武器を使われたりしては危険だと考えて、離れたまま俺はそっと声を掛けてみた。
しかしそんな心配も無くカカシ先生は慌てて俺の前に走ってきて、直立不動のまま何かを言いたそうにするが声が出ないようだ、身振りも滅茶苦茶だ。大変だ、どうしたらいいんだ。
敵の術に掛かったんじゃ無いですか、と俺はうつむき気味のカカシ先生の顔を覗き込んだ。眉を寄せて苦しそうな顔は赤い。
カカシ先生は目を背けながらも何でもないです、術には掛かっていませんとしっかり否定した。そして一度唇を噛んで下を向き、よしと拳を握って顔を上げ真っ直ぐ俺の顔を見た。
これを受け取ってください、と突き出された包装されていないただの紙箱は、力を籠めて握られていたのか少し歪んでいる。その手はがたがたと震え、中の物が一緒にカタカタ鳴っていた。
俺は恐る恐るその箱に手を伸ばし受け取ろうとして、カカシ先生の指に触れてしまった。
ひぃやあぁ、と天を突くような声がカカシ先生から聞こえたが、俺の方が驚いて叫びたかった位だ。何て声だ…。カカシ先生の僅かに覗く右目が血走っているじゃないか、やっぱり術に掛かったんじゃないのかな。
俺はおろおろするばかりだったが、カカシ先生は大丈夫ですと口布の上から鼻を押さえる。えっ、血の匂いがする。本当にどうしたんだ、カカシ先生は。
大丈夫ですと言い張り箱を差し出すので、俺は取り敢えずカカシ先生から箱を受け取り開けてみた。
中には俺の手のひら大の、バナナみたいなちょっと曲がった茶色の物。あ、チョコレートだ。
俺の声にカカシ先生が恥ずかしそうに体を捻り、上目使いに俺を見た。
初めての手作りなんです。と言われて驚いた。上忍って器用なんですね、と失礼かなと思いながら俺はカカシ先生に笑い掛けた。
初めてにしてはお上手ですねと褒めながら、このいびつな形は何だろうと俺は眺めていた。
型を取るのに苦労したんですよ、とカカシ先生は下を向き股間を撫でていた。

…暗転。

目覚めた時、俺はカカシ先生から貰ったチョコレートと同じ形の物をあらぬ場所で食べていたのだった。
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