「あっ、つ。」
と親指を口に含むと、じわりと鉄の味が広がった。傷口を舌で押さえ、これ以上血液が溢れないようにしても、唾液に更に混じるのが判る。
怖くて傷を見なかった。だがいつまでもこうしている訳にはいかない。明日の授業に使用する為の工作を、作り上げなければ。
幸い目の前には、瞬間接着剤。ティッシュを用意し、口から指を離すと急いでティッシュでくるむ。唾液は拭き取った。親指を掌に握り込んで、空いている指ともう片方の手で器用に(ちょっと自慢)接着剤の蓋を開けた。
一瞬が勝負だ。親指からティッシュを剥がし、血が滲まない内に傷に透明な、どろりとした液を垂らす。少しだけ血が滲んだが、液に押さえ込まれて止まった。

ほう。詰めていた息が長く漏れて、かなり緊張していた事を知る。
指の傷はひりひりとするが、とにかくくっついた事に安堵した。とそこへ、どうしたの、と声を掛けられ振り向くと、呆れた顔が覗いている。

―おおざっぱにも程があるよ。あんたは何考えてんの。
―いや、手っ取り早いかなって。
―俺を呼べばいいでしょうに。
―あ、そっか。でも血は止まったし。
―手当て出来ませんね。自然に接着剤が剥がれるまで親指も曲がらないでしょ。
―あう……。
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