忍びの特別研修所。
医療班や暗号解読班やアカデミー教師などを目指す若者達が、同じ建物でそれぞれのクラスに分かれて基礎研修を受けている。
講習以外は男女別の棟で生活をしている。女子達はこれから風呂に入る為に、脱衣所で服を脱いでいるところだった。
イルカは躊躇いもせずに上半身裸になった。途端にうわぁ、と小さな感嘆が後ろで聞こえた。ねえ皆見て、と弾んだ声に何人か集まってくる。
イルカは背中に集まった視線に、眉を寄せて困惑しながら振り向いた。
「なによ、なんで皆私の背中を見てるの?」
すると最初に声を上げた闊達な女の子が一人頷き、胸の前で両手をぱんと合わせた。
「ああそうよね、イルカには自分の背中が見えないもんね。」
ねっ、と隣の子に同意を求める。その子はホントね、と年頃の女の子特有の騒がしさで周りにも同意を求めながらイルカに理由を話した。
「貴女の背中、真っ白なのね。色黒だと思ってたから、びっくりしちゃった。」
イルカは思わずロッカーの小さな鏡を覗いた。顔やニの腕は日焼けで黒い。
教師になろうと決めた最近までは、外回りで上忍を目指していたからだ。しかし何もかも平均点にはなるがそれだけでは無理だと、引導を渡された。ならばと思った特別上忍にも、なれるような突出した特技は一つもなかった。
中忍に昇格したのが少し遅かったからそれも影響したかもしれない。
十の頃から家族もなく一人で生きるイルカが、修行より生きる為の生活を優先させたからだというのは言い訳にしかならないけれど。
「ねえ、これから秋だしイルカの日焼けって抜けてくるんじゃない? 日焼けしててもほっぺた艶々だから白くなったら綺麗よねえ。」
指で頬を撫でられてからふにと摘まれた。あーここのご飯美味しいから太ったな、顔に肉がついたわ。
イルカは頬を摘まれたままにいと笑った。
「それがねえ、残念な事にアカデミーの先生になるから実技で子供を追いかけて他多分真っ黒なまんまよ。」
肩を竦めれば、自然と女子のリーダー格になった子がえーもったいないと口を尖らせた。
「身体のライン素敵だし、それだけ白くて肌が綺麗だと男が夢中になるんじゃない?」
「残念ながら、私は女に見られなくて誰も相手にしないの。」
外回りの戦いで肌を見せる理由はない。寧ろ怪我をしないようにきっちり身体をガードしておかなければならないくらいだ。
同じ年頃の男子から見てシャキッとした性格で色黒で、スタイルはいいが中性的となると恋愛相手よりは仲間意識の方が先に立つらしい。それももう慣れきったが。
「皆見る目がないわね。先生になれたら毎週合コン三昧だと思うから、きっといい人がすぐ見つかるわよ。」
本気で言ってくれるけど、一人前になるまで恋愛は邪魔なだけだからそのうちね。と心で返しながらイルカはありがとうと笑った。
「男が欲情する肌よね。多産だわ。」
誰かのイルカの未来を予言した呟きは、本人には聞こえずに霧散した。

時は流れ、イルカがアカデミー教師となって数年。甘言に乗り騙された教え子のナルトが騙した男に邪魔だと殺されそうになり、巨大な手裏剣からナルトを守る為にイルカは咄嗟にナルトを抱き締めた。背中に手裏剣が刺さる。鎖帷子やベストのお陰で深く食い込むことはなかったが、それでも自然治癒には難しい傷を負った。
火影の命令で、もしもを考えて暗部も出動していた。手裏剣が刺さったままのイルカの顔色が失われ、それを見て真っ先に飛び出したのはカカシだった。
手裏剣をそのままにベストを背中から切り裂きアンダーシャツも手で破く。たまたまガーゼが多めに腰のポーチにあったから、手裏剣を抜いた傷口に強く押し当てた。
白いガーゼが見る間に真っ赤に染まる。そして真っ白な背中の皮膚にも鮮血はじわじわと広がっていった。
血が吹き出してはいないから動脈は傷ついていない。もう少し押さえていれば血は止まるだろう。
まっ白な背中が血で汚れ、それは拭き取れるけれど手裏剣が大きかったからか、傷口はぐちゃぐちゃな切り口で縫ってもきっと後に残る。もったいない。
不謹慎だがカカシは滑らかな背中に醜く残るだろう傷を、いつか舐めてみたいと思った。すうっと指で背骨を撫でられたような感触、これは欲情したのだとはっきりわかる。
気絶しているかと覗きこめば日焼けで真っ黒な顔や腕、そして対象的に真っ白な身体。
悪くない。むしろ上玉だ。
もしもこの子を征服できたら。
先生が死んじゃうと泣き叫ぶ子供を誰かが連れ帰った。こちらもそろそろ血が止まるから、病院に運ばなければならない。
そうして自分でイルカを運び、カカシは恩に着せるように毎日病室に顔を出した。
その後ナルトの上忍師としてイルカの前に現れたのは、単なる偶然だったのだろうか。
お背中痛みませんか、とそっと気遣うカカシにイルカははいと頬を染めた。
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