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8 月齢七
オレ達の行き先は霧隠れの里だった。此処は里として忍びを人とも思わぬ使い方をするという。オレにはちょうどいいんじゃないかと、里抜けしたら此処へ逃げるかと思ったりもした。
オレとアオバは昼間はお決まりのように行商人に扮して、里の地形や家の配置等を確かめ夜の行動に備えていた。
木ノ葉の情報は相当量流出していたようだが、機密と言えるものは殆ど無く、だが少しでもイルカに関する情報もあるならば、それを知ってる奴は全て始末してしまおうと思った。ちょっと時間が掛かるだろうな。うーんイルカに会えないのって辛いけど、その分を殺しに向けちゃえばいいんだしなぁ。溜まった性欲は少ーしだけすっきりするし。
さあ行こうか、とオレは自分を切り替えて写輪眼のカカシになる。

カカシのいない木の葉の里で、カカシの部下の三人の子ども達とイルカは呆けていた。子ども達は自主鍛練以外にする事がなく、イルカはカカシがいないからで。
最近は授業以外に仕事もなく、イルカは自宅で採点するためにテストの束を鞄に押し込むと、早々に帰ろうと席を立った。そこへ職員室を覗き込んだ紅が、ちょうどいいわとイルカの腕を掴み、アスマとガイを待たせている玄関へ引きずって行く。行くわよと両脇を上忍達に挟まれ、イルカは声も出せずに飲み屋へと連れて行かれた。明日あたりは上弦の月かなぁとぼーっとしながら拉致される姿に、月は素っ気ない。
酒をついでつがれて、イルカもふわふわとし始めた頃、アスマが淋しいのに慣れとけよ、と小声で呟いた。
何の事かとキョトンとした顔のイルカに、ガイがカカシは暗部上がりだからまだそっちの仕事も入って来るんだと、顔を近付けて酒臭い息を吐いた。いきなり消えて忘れた頃に平然と戻って来るんだぞ、だから勝負もままならん。と拳で卓を叩き熱くなる。
確かに今までも、長いこと姿が見えなくて何となく淋しいと思う事はあった。カカシと話をするのは楽しいし、お茶に誘ってもらうのは自慢したい位嬉しい事だし。
でも何故私に、という顔をしていたのだろう、アスマが今カカシと一番近いのはお前だ、と指さす。
イルカはあ、と声を出してしまった。そう、カカシと約束した事を思い出したのだ。ガイが言ったように過酷な任務が今でも多いのだろう、あの夜も人を殺したと言っていた。そして、カカシの側に居るとイルカは誓ったのだ。
…あれは自分の意思だ。
アスマが言うのは単に側に居て欲しい時に居ない事、側に居たいのに居られない事だけなのか。酔いは回っているのに、頭は冴えて来る。
紅がイルカの頭を抱え、そんな顔をしないの、と髪を撫でるのが気持ち良くて目をつむってしまう。
カカシの生い立ちは噂で聞いてるわよね、と頭の上で声がして、ぴくりと肩が跳ねた。
英雄でありながら英雄と呼ばれなかった父親。それはその父が仲間と任務の板挟みとなり、最後にとった行動の為。
幼いカカシが見た血塗れの父の姿は、どれほどの衝撃だっただろうか。私は両親を失いはしたけれど、その頃多分まだカカシ先生よりは幸せだったと思う。泣かないの、私。泣いちゃいけないの、と歯を食いしばるイルカは、アスマと紅が冷めた目で笑い合うのを知らなかった。これがイルカの母性に訴える為の罠だとは。
だって今日はカカシの奢りだもん、と空の一升瓶を転がす紅は、次の手を考えながら笑いに歪んだ赤い唇で、また高価な酒を注文した。
酔って眠ってしまったイルカをガイに背負わせ、アスマと紅はイルカのアパート迄歩く。先頭を切るのはカカシの馬鹿でかい忍犬だ。例え紅の家でも連れて行くなと、歯を剥き出して唸るその犬にカカシの執着ぶりが伺えて、アスマは今日の事は任務報告書のように仔細をしたためておいた方がいいのかと思っていた。
少しの間だがぐっすり眠ったイルカは玄関先で目を覚まし、寝呆けたまま家に入る。忍犬がでかい図体の割に器用な口と前脚で、イルカの靴を脱がせたり支えて歩かせたりするのを見れば、この犬は本当はカカシが化けているんじゃないかと疑ってしまう程だ。
朝が早いからと帰路に着いたガイの姿が見えなくなると、悪い二人は道端で腹を抱えていつまでも声を潜めた大笑いをし続けたのだった。
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