朦朧としながらもイルカは世話を焼いてくれる子供らに、ごめんねありがとうと何度も礼を言い続けた。
幼い子らとイルカの踏み込めない雰囲気に、カカシは様子を見ているだけだった。
やがて大きく息を吐いたイルカは時間を掛けて起き上がり、近くの壁に横向きに頭と肩を凭れ掛からせると小さな声でカカシに詫びた。
あまりに小さな声だったものだから聞き取る為についと膝を進めようとしたが、二人の子らはじっとカカシを睨み付ける。
「私が何かをしたわけではないぞ。」
「嘘だってば。」
ナルトは言い訳のような言葉に納得しない。
「ナルト、止め、なさ…い。」
帯に挟んだ手拭いで口元を押さえ、イルカはまた大きく息を吸って吐いて漸く落ち着いた。
「すみません、今回はちょっと夢見が厄介なんです。」
正直に話しておいた方がよい、期待が膨らみすぎて後で結果に不満が残る事もある。
「何故なのだ。」
まだ具合の悪そうなイルカに無理はさせたくないが、主君からの命は絶対だ。カカシは先を聞きたくてここに来たのだ。
「…他人事ではないので。」
曖昧に、どうとでも取れる言い方で打ち明ける。
「イルカ殿には…、少しばかり辛いであろうな。」
やはりカカシは、イルカが主君の子と自分を重ねたと捉えたようだ。
イルカは返事をしない。否定も肯定もしない狡い自分が嫌になるが、まだどう関わっているのか解らない為に迂闊な事は言えないのだと言い訳をしながら保身に走る。
「すみません…。」
何を誰に謝るのだ。
イルカはカカシの顔が見られない。真っ直ぐ見詰めてくる迷いのない信頼に、逃げ出してしまいたいのに囚われて動けない。
「イルカ?」
聡いサスケがたもとを引いた。
「あの、ご無礼をお許し下さい。この子達は、近所の子でございます。」
昼間は誰もいないから好きにさせている。訳あって成長が遅いが、二人とも七つになると付け足す。
「確かに小さいな。」
カカシはひょいと立ち上がり、正面からナルトを見下ろした。カカシは異人の容姿そのままにひょろりと縦に伸びて、どこの家でも気を抜くとやたらと欄間に頭をぶつけている。
「私は六尺もあって困っているのだ。」
町なかでも頭一つ抜きん出るしまた容貌のせいでも目立つし、じろじろと遠慮のない視線のお陰で猫背になって俯いて歩くのだと文句を言う。
「贅沢な奴だ。」
「おれに分けてくれってば。」
お互いに無い物ねだりだ。カカシの腰に飛び付くナルトと、カカシを見上げて口が開いたサスケにイルカは笑顔になった。
「やっと笑いましたね。貴女は笑顔がいい。」
左右に子供らを座らせて、カカシはイルカの顔を覗き込む。
全身ではにかんだイルカに、カカシは突き動かされたように問い掛けた。
「イルカ殿は、嫁入り先は決まっておられるのか。」
「え?」
「イルカはどこにも行かねえ!」
代わりにナルトが答え、カカシの前に立ちはだかる。サスケもカカシに飛び掛かろうと腰を浮かせた。
「なっ、何をそんなにいきり立つのだ。」
カカシは二人が怒る理由が解らず、イルカに目で助けを求めた。
「夢見のお陰で政略の縁談が参ります。まつりごとを夢見で動かせる、と思われていらっしゃるようで。」
肩を落とし小さく笑うイルカは諦めた様子で。サスケが膝に置いた拳を震わせた。
「それではイルカは幸せになれない。」
皆が黙り込む。
いたたまれない空気に外から流れ込む喧騒だけが楽しそうで、カカシは唇を噛むイルカを抱き締めて笑顔に戻してやりたかった。しかしそれをできる関係ではないから、せめて言葉で。
「たとえそれが…貴女の幸せが、真昼に流れ星を見付ける位難しいとしても。」
カカシがゆっくりと顔をイルカに向けた。
「見付けられない事はない、と思います。」
難しい比喩だったかな、と子供らに笑い掛ける。
絶対に無理だなんて思うな。昼間でも流れ星を見付けようと頑張れば、きっと見付けられる筈だ。
「じゃあおれらも見られるんだな。頑張るってば!」
解ってないなウスラトンカチが、とサスケが溢した言葉にカカシが微笑む。いいじゃないか、気持ちの問題なんだから。
こそりと言えばサスケの顔も晴れて、二人はくすりと笑い合った。
少しだけ心が軽くなったカカシは、姿勢を正し深くイルカに頭を下げた。
「イルカ殿、無理は申しませんが松田様からどんな結果であれ受け止める、と言伝てされておりますので。」
どうか、最後まで見ていただきたい。
「そんな、お侍様があたしなんかに頭を下げないで下さいませ。」
困った。カカシといい主の松田といい、気軽すぎてついこちらも砕けた物言いになってしまう。
いずれにしても自分も全てを知りたいし、とぱんと頬を叩いてイルカは気合いを入れた。
幼い子らとイルカの踏み込めない雰囲気に、カカシは様子を見ているだけだった。
やがて大きく息を吐いたイルカは時間を掛けて起き上がり、近くの壁に横向きに頭と肩を凭れ掛からせると小さな声でカカシに詫びた。
あまりに小さな声だったものだから聞き取る為についと膝を進めようとしたが、二人の子らはじっとカカシを睨み付ける。
「私が何かをしたわけではないぞ。」
「嘘だってば。」
ナルトは言い訳のような言葉に納得しない。
「ナルト、止め、なさ…い。」
帯に挟んだ手拭いで口元を押さえ、イルカはまた大きく息を吸って吐いて漸く落ち着いた。
「すみません、今回はちょっと夢見が厄介なんです。」
正直に話しておいた方がよい、期待が膨らみすぎて後で結果に不満が残る事もある。
「何故なのだ。」
まだ具合の悪そうなイルカに無理はさせたくないが、主君からの命は絶対だ。カカシは先を聞きたくてここに来たのだ。
「…他人事ではないので。」
曖昧に、どうとでも取れる言い方で打ち明ける。
「イルカ殿には…、少しばかり辛いであろうな。」
やはりカカシは、イルカが主君の子と自分を重ねたと捉えたようだ。
イルカは返事をしない。否定も肯定もしない狡い自分が嫌になるが、まだどう関わっているのか解らない為に迂闊な事は言えないのだと言い訳をしながら保身に走る。
「すみません…。」
何を誰に謝るのだ。
イルカはカカシの顔が見られない。真っ直ぐ見詰めてくる迷いのない信頼に、逃げ出してしまいたいのに囚われて動けない。
「イルカ?」
聡いサスケがたもとを引いた。
「あの、ご無礼をお許し下さい。この子達は、近所の子でございます。」
昼間は誰もいないから好きにさせている。訳あって成長が遅いが、二人とも七つになると付け足す。
「確かに小さいな。」
カカシはひょいと立ち上がり、正面からナルトを見下ろした。カカシは異人の容姿そのままにひょろりと縦に伸びて、どこの家でも気を抜くとやたらと欄間に頭をぶつけている。
「私は六尺もあって困っているのだ。」
町なかでも頭一つ抜きん出るしまた容貌のせいでも目立つし、じろじろと遠慮のない視線のお陰で猫背になって俯いて歩くのだと文句を言う。
「贅沢な奴だ。」
「おれに分けてくれってば。」
お互いに無い物ねだりだ。カカシの腰に飛び付くナルトと、カカシを見上げて口が開いたサスケにイルカは笑顔になった。
「やっと笑いましたね。貴女は笑顔がいい。」
左右に子供らを座らせて、カカシはイルカの顔を覗き込む。
全身ではにかんだイルカに、カカシは突き動かされたように問い掛けた。
「イルカ殿は、嫁入り先は決まっておられるのか。」
「え?」
「イルカはどこにも行かねえ!」
代わりにナルトが答え、カカシの前に立ちはだかる。サスケもカカシに飛び掛かろうと腰を浮かせた。
「なっ、何をそんなにいきり立つのだ。」
カカシは二人が怒る理由が解らず、イルカに目で助けを求めた。
「夢見のお陰で政略の縁談が参ります。まつりごとを夢見で動かせる、と思われていらっしゃるようで。」
肩を落とし小さく笑うイルカは諦めた様子で。サスケが膝に置いた拳を震わせた。
「それではイルカは幸せになれない。」
皆が黙り込む。
いたたまれない空気に外から流れ込む喧騒だけが楽しそうで、カカシは唇を噛むイルカを抱き締めて笑顔に戻してやりたかった。しかしそれをできる関係ではないから、せめて言葉で。
「たとえそれが…貴女の幸せが、真昼に流れ星を見付ける位難しいとしても。」
カカシがゆっくりと顔をイルカに向けた。
「見付けられない事はない、と思います。」
難しい比喩だったかな、と子供らに笑い掛ける。
絶対に無理だなんて思うな。昼間でも流れ星を見付けようと頑張れば、きっと見付けられる筈だ。
「じゃあおれらも見られるんだな。頑張るってば!」
解ってないなウスラトンカチが、とサスケが溢した言葉にカカシが微笑む。いいじゃないか、気持ちの問題なんだから。
こそりと言えばサスケの顔も晴れて、二人はくすりと笑い合った。
少しだけ心が軽くなったカカシは、姿勢を正し深くイルカに頭を下げた。
「イルカ殿、無理は申しませんが松田様からどんな結果であれ受け止める、と言伝てされておりますので。」
どうか、最後まで見ていただきたい。
「そんな、お侍様があたしなんかに頭を下げないで下さいませ。」
困った。カカシといい主の松田といい、気軽すぎてついこちらも砕けた物言いになってしまう。
いずれにしても自分も全てを知りたいし、とぱんと頬を叩いてイルカは気合いを入れた。
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