7 月齢六
オレが殺した奴は他里からのS級の間諜だったとイビキに聞いた時、思わずオレが殺ったと自慢しそうになってしまった。
奴とつるんでいた、オレが半殺しにした男から裏が取れて、アカデミーから情報が流れていた事が判ったのだ。あいつが教員となったのはほんの数ヶ月前で、異動による欠員補充だと聞いた。何処から入り込んだものか。
まあこれからイビキがその仲間って奴から全て聞き出す筈だから、それによってオレも動く訳だ。既に打診されているので、後は連れを探すだけだった。
受付に行き、中を覗けばイルカが座っていた。目が合うと昨日はご馳走様でした、と礼を言われ、隣の若い中忍が何で、と驚きのけ反った。オレはソファで報告書に記入しているアオバに声を掛け、今日からの予定を聞いた。こいつは特別上忍だから一芸に秀でているし、状況判断力もある。
アオバの返事を待ちながらイルカ達の会話を盗み聞くと、オレ達が親しい事に驚いているようだった。たかが食事だと慌てるイルカに、そいつは上忍に誘われる事自体がですよと力を込めている。当たり前だろうイルカだけだ、オレが誘うのは。というかオレは単独行動しかとらないと思われているし、女だって寝るだけなら連れ歩く必要もないだろう。ましてやオレに釣り合わない小汚い薄汚れた奴らなんか。
イルカの隣の阿呆面のお前、阿呆になる菌を撒き散らすなよ大声がうぜーし。
明日から暫くアオバには大きな任務はないと分かり、後でまた連絡すると言い置いてオレはイルカに近付き、わざと隣の若造に聞こえるように昨日はどーもと話し始めてやった。
イルカはオレのもんだ、解ったかこの野郎。
夕方まで詰めているというイルカにその頃又来ますと、暗に帰るなと約束させ、オレは火影の呼び出しを待った。
やはりオレに指名が掛かった。漏れた情報は全て収拾する。抹殺も許可された。では、とオレもアオバを指名し、夕方の出発迄にと細かい打ち合わせを始め、気付けば出発迄一時間もないがまだイルカの上がる時間でも無い。
イルカの顔を見に行くと、目を輝かせ喜んだように見えたが、これから任務なのでと言えば、その目は驚愕と不安の色に変わった。これから、という言葉で夜の極秘任務と知れたようだ。机に手をつき腰を上げたイルカの様子に、隣の若造が暇ですからと帰宅を促してくれた。よしよし空気の読める奴だ、阿呆呼ばわりは撤回してやろう。
オレはイルカの手を取り歩き出した。もはや手を握るのは日常となり、イルカも驚きもしない。手始めにこうしてオレ達の仲を見せ付けて、周知の事実としてやるのだ。イルカの意思で行動している、と思わせるのがポイントだ。解ったか、イルカはオレのものなんだよ。
イルカのアパート迄の僅かな時間、オレは本当は話しちゃいけない任務の事をかいつまんで話した。木の葉の里の為、それからあなたの為にと。
イルカは帰属意識が強く、木の葉の為という言葉が効果的だとオレは知っている。天涯孤独の身ゆえ、里が全てなのだ。そして無意識に子ども達に求めるのだ、愛を返す事を。血を吐くほど求めるのだ、自分への愛を。
オレの笑みがどす黒いものに変わる。その対象をオレ一人とするために、イルカの関心を更にこちらへ向けなければと、オレは口元を晒して立ち止まり、いない間にオレの顔を忘れないで下さいとイルカを見つめた。
いない間って―とイルカが言葉の意味を察して顔色を失った。
そんなに長い間ですかと俯く肩が微かに震え、一人になるのは怖いですと漏らした声に、オレはイルカの心に住み着き始めたオレという悪魔を誉めてやる。
でも任務ですからとイルカから目を逸らせば、どうかご無事でとオレの背中に縋り付いて泣きそうな声を出した。
オレは振り向き、では無事に帰れるおまじないでも掛けて下さいと明るく振る舞ってみる。駄目で元々だと思ったが、何か言ってくれるかもしれないと。
突然ベストの衿を引かれ、背伸びしたイルカが真っ赤な顔を近付けてそっと唇を重ねて来た。触れるだけのものでも今のイルカには精一杯だと解るから、舌を突っ込みたいのも舐め回したいのも我慢して、柔らかい感触を味わった。
必ずあなたの元に戻ります、と言って布で顔を隠すとオレは忍犬を一匹呼び出しイルカに付いているように命令した。あの死んだ馬鹿野郎に関係したのだ、もしもを考えろとイビキにも言われていた。だがその真実を告げる訳にもいかず、淋しくないようにと取って付けたような言い訳に素直にうなづき、イルカには大きすぎる犬を撫でている。こいつは敵と認識すると噛み殺しもするなかなかいい奴だから、留守番には最適だ。
未練を振り切るように後ろも見ずに待ち合わせ場所に跳んだ。夕暮れの朱い山の稜線近くに大分太った月が見え、オレ達はそれを背中に里の外へ出た。
オレが殺した奴は他里からのS級の間諜だったとイビキに聞いた時、思わずオレが殺ったと自慢しそうになってしまった。
奴とつるんでいた、オレが半殺しにした男から裏が取れて、アカデミーから情報が流れていた事が判ったのだ。あいつが教員となったのはほんの数ヶ月前で、異動による欠員補充だと聞いた。何処から入り込んだものか。
まあこれからイビキがその仲間って奴から全て聞き出す筈だから、それによってオレも動く訳だ。既に打診されているので、後は連れを探すだけだった。
受付に行き、中を覗けばイルカが座っていた。目が合うと昨日はご馳走様でした、と礼を言われ、隣の若い中忍が何で、と驚きのけ反った。オレはソファで報告書に記入しているアオバに声を掛け、今日からの予定を聞いた。こいつは特別上忍だから一芸に秀でているし、状況判断力もある。
アオバの返事を待ちながらイルカ達の会話を盗み聞くと、オレ達が親しい事に驚いているようだった。たかが食事だと慌てるイルカに、そいつは上忍に誘われる事自体がですよと力を込めている。当たり前だろうイルカだけだ、オレが誘うのは。というかオレは単独行動しかとらないと思われているし、女だって寝るだけなら連れ歩く必要もないだろう。ましてやオレに釣り合わない小汚い薄汚れた奴らなんか。
イルカの隣の阿呆面のお前、阿呆になる菌を撒き散らすなよ大声がうぜーし。
明日から暫くアオバには大きな任務はないと分かり、後でまた連絡すると言い置いてオレはイルカに近付き、わざと隣の若造に聞こえるように昨日はどーもと話し始めてやった。
イルカはオレのもんだ、解ったかこの野郎。
夕方まで詰めているというイルカにその頃又来ますと、暗に帰るなと約束させ、オレは火影の呼び出しを待った。
やはりオレに指名が掛かった。漏れた情報は全て収拾する。抹殺も許可された。では、とオレもアオバを指名し、夕方の出発迄にと細かい打ち合わせを始め、気付けば出発迄一時間もないがまだイルカの上がる時間でも無い。
イルカの顔を見に行くと、目を輝かせ喜んだように見えたが、これから任務なのでと言えば、その目は驚愕と不安の色に変わった。これから、という言葉で夜の極秘任務と知れたようだ。机に手をつき腰を上げたイルカの様子に、隣の若造が暇ですからと帰宅を促してくれた。よしよし空気の読める奴だ、阿呆呼ばわりは撤回してやろう。
オレはイルカの手を取り歩き出した。もはや手を握るのは日常となり、イルカも驚きもしない。手始めにこうしてオレ達の仲を見せ付けて、周知の事実としてやるのだ。イルカの意思で行動している、と思わせるのがポイントだ。解ったか、イルカはオレのものなんだよ。
イルカのアパート迄の僅かな時間、オレは本当は話しちゃいけない任務の事をかいつまんで話した。木の葉の里の為、それからあなたの為にと。
イルカは帰属意識が強く、木の葉の為という言葉が効果的だとオレは知っている。天涯孤独の身ゆえ、里が全てなのだ。そして無意識に子ども達に求めるのだ、愛を返す事を。血を吐くほど求めるのだ、自分への愛を。
オレの笑みがどす黒いものに変わる。その対象をオレ一人とするために、イルカの関心を更にこちらへ向けなければと、オレは口元を晒して立ち止まり、いない間にオレの顔を忘れないで下さいとイルカを見つめた。
いない間って―とイルカが言葉の意味を察して顔色を失った。
そんなに長い間ですかと俯く肩が微かに震え、一人になるのは怖いですと漏らした声に、オレはイルカの心に住み着き始めたオレという悪魔を誉めてやる。
でも任務ですからとイルカから目を逸らせば、どうかご無事でとオレの背中に縋り付いて泣きそうな声を出した。
オレは振り向き、では無事に帰れるおまじないでも掛けて下さいと明るく振る舞ってみる。駄目で元々だと思ったが、何か言ってくれるかもしれないと。
突然ベストの衿を引かれ、背伸びしたイルカが真っ赤な顔を近付けてそっと唇を重ねて来た。触れるだけのものでも今のイルカには精一杯だと解るから、舌を突っ込みたいのも舐め回したいのも我慢して、柔らかい感触を味わった。
必ずあなたの元に戻ります、と言って布で顔を隠すとオレは忍犬を一匹呼び出しイルカに付いているように命令した。あの死んだ馬鹿野郎に関係したのだ、もしもを考えろとイビキにも言われていた。だがその真実を告げる訳にもいかず、淋しくないようにと取って付けたような言い訳に素直にうなづき、イルカには大きすぎる犬を撫でている。こいつは敵と認識すると噛み殺しもするなかなかいい奴だから、留守番には最適だ。
未練を振り切るように後ろも見ずに待ち合わせ場所に跳んだ。夕暮れの朱い山の稜線近くに大分太った月が見え、オレ達はそれを背中に里の外へ出た。
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