4 月齢三
昨日の雨は朝にはまだ残り、オレには似合いの薄暗さだろうと思う。
昨日の午後は、結局鍛錬と称した鬼ごっこで終わってしまった。勿論三人が鬼だったが、オレが見つかる訳はないだろう。イルカの傍で、授業中も職員室での休み時間もずっとイルカを見ていたのだから。
全てが可愛い。やはりオレと同じように思うのだろう、やたらと話し掛け触ろうとする男がいる。そんな汚い手で触るんじゃない。イルカはオレの、オレだけのものだ。くそっ閉じ込めてでもオレのものにしなくては。
さて、と頭を切り替えて、今日は子ども達に雨の中での戦闘待機の仕方でも教えてやるかと、光の射さない雨雲の空を見て決めた。
午後も早い時間に解散とし、オレは一人上忍待機所で昼寝をしてイルカの授業の終わりを待った。夢の半分は妄想で、しかしそれは喧騒によって突然現実に引き戻された。
アカデミーの方で叫ぶ声、人の集まる足音。何事かと半分朦朧としながら聞くと、起爆札の暴発事故だと云う。生徒が教師を脅かそうと悪戯を仕掛けたのだ。
何だつまらん、と目をつむると若い女教師が、とか火事が、とか聞こえてオレはもしやと跳び起き走った。
アカデミーの二階の倉庫となっている部屋の前は、煙と炎と人間でごった返していた。
手前の廊下でその原因だろう生徒達が、イルカ先生イルカ先生と泣き喚いている。
部屋の中は引火による火事で様子が見えなかった。イルカの名を叫べば、此処ですと叫び返す男の声。出入り口近くにイルカを引きずり出す影が見え、オレはそいつからイルカを奪い取り、廊下の片隅に運び出して寝かせた。
生徒達が駆け寄り、大声でまた泣き喚くのでオレは黙れと一喝し、イルカの体を確かめた。微かに残る意識の下でも生徒達の心配をしているのにオレは舌打ちして、耳元で誰も怪我はありませんと告げれば僅かに笑顔になり、意識を失った。オレはイルカのベストを脱がせ、焼け焦げた服の上から触ってみたが骨折も裂傷も無いようで、ホッとして傍らのガキどもに心配はないと告げると、また泣き出した。お前らのせいだろうがと心の中で毒づき、こいつらを殺したいと本気で思ってしまった。
先程イルカを助けていた男が傍に寄って来て、イルカはと煙でやられたらしい掠れた声で聞いて来た。無事だと言ってそいつの顔を見れば、イルカに色目を使っていた奴だ。こいつも殺したいリストに入れてやろうか。
火事も沈下して医療班が到着すると、怪我人は順に運び出されて行った。イルカも担架に乗せるというのでオレは断り、自分で連れて行くとイルカを抱き上げて歩き出せば、誰もオレにはそれ以上強く言えず、カカシブランドの有り難さを噛み締める。
イルカを抱いて病院までゆっくり歩く。色んな意味でこれは効果的だろうと、イルカの心配はしながらオレは浮き浮きしていた。雨は上がっていたが、雲は厚く日は見えなかったので夕方の空は薄暗かった。
ふとイルカの右手に滲む血が見えて、その乾いていない指先を無意識にオレは舐めていた。一本ずつ丁寧に、イルカを味わうように。
身じろぎしてイルカが目を覚ました。指を舐めるオレに気付くと、指を引こうと慌てて身をよじったが、体中の痛みに力が抜けていくようだ。
安心させるようにオレは優しく抱き直し、イルカを腕に閉じ込めた。オレの顔に目をやり、頬を染めて逸らす仕種のなんと可愛いことか。
顔を、と俯くのに聞き返せば見せていいのですかと、震える手でオレの袖を握り締めている。ああイルカの指を舐めるのに夢中で気付かなかったが、マスクは顎まで下ろしてあったんだ。
最高に男らしい笑顔を見せて、内緒ですよとわざわざ顔を近付けてやると、身をよじって離れようと抵抗する。怪我人でしょと少し怒った声を出すと、びくっと体を震わせごめんなさいと泣きそうになって、オレは嗜虐心に下半身が疼くのが堪え切れない。
気を逸らそうと、まだ血の滲む指先をまた舐めしゃぶると、イルカが息を吐いて目を潤ませた。指先は刺激に敏感な所だから、色事に疎いイルカでさえ感じているだろう。そう多分、性的なものを。
イルカが纏う匂いが、今、違うものに変わった。うなじに艶を漂わせて、イルカがおんなの顔を見せ始めたのだ。
しかしまだだ、まだ早い。
気取られないように欲望に蓋をして、オレは空を見上げた。細く白い薄笑いは、オレを鏡に写したようで、月に向かい笑いかけずにいられない。
昨日の雨は朝にはまだ残り、オレには似合いの薄暗さだろうと思う。
昨日の午後は、結局鍛錬と称した鬼ごっこで終わってしまった。勿論三人が鬼だったが、オレが見つかる訳はないだろう。イルカの傍で、授業中も職員室での休み時間もずっとイルカを見ていたのだから。
全てが可愛い。やはりオレと同じように思うのだろう、やたらと話し掛け触ろうとする男がいる。そんな汚い手で触るんじゃない。イルカはオレの、オレだけのものだ。くそっ閉じ込めてでもオレのものにしなくては。
さて、と頭を切り替えて、今日は子ども達に雨の中での戦闘待機の仕方でも教えてやるかと、光の射さない雨雲の空を見て決めた。
午後も早い時間に解散とし、オレは一人上忍待機所で昼寝をしてイルカの授業の終わりを待った。夢の半分は妄想で、しかしそれは喧騒によって突然現実に引き戻された。
アカデミーの方で叫ぶ声、人の集まる足音。何事かと半分朦朧としながら聞くと、起爆札の暴発事故だと云う。生徒が教師を脅かそうと悪戯を仕掛けたのだ。
何だつまらん、と目をつむると若い女教師が、とか火事が、とか聞こえてオレはもしやと跳び起き走った。
アカデミーの二階の倉庫となっている部屋の前は、煙と炎と人間でごった返していた。
手前の廊下でその原因だろう生徒達が、イルカ先生イルカ先生と泣き喚いている。
部屋の中は引火による火事で様子が見えなかった。イルカの名を叫べば、此処ですと叫び返す男の声。出入り口近くにイルカを引きずり出す影が見え、オレはそいつからイルカを奪い取り、廊下の片隅に運び出して寝かせた。
生徒達が駆け寄り、大声でまた泣き喚くのでオレは黙れと一喝し、イルカの体を確かめた。微かに残る意識の下でも生徒達の心配をしているのにオレは舌打ちして、耳元で誰も怪我はありませんと告げれば僅かに笑顔になり、意識を失った。オレはイルカのベストを脱がせ、焼け焦げた服の上から触ってみたが骨折も裂傷も無いようで、ホッとして傍らのガキどもに心配はないと告げると、また泣き出した。お前らのせいだろうがと心の中で毒づき、こいつらを殺したいと本気で思ってしまった。
先程イルカを助けていた男が傍に寄って来て、イルカはと煙でやられたらしい掠れた声で聞いて来た。無事だと言ってそいつの顔を見れば、イルカに色目を使っていた奴だ。こいつも殺したいリストに入れてやろうか。
火事も沈下して医療班が到着すると、怪我人は順に運び出されて行った。イルカも担架に乗せるというのでオレは断り、自分で連れて行くとイルカを抱き上げて歩き出せば、誰もオレにはそれ以上強く言えず、カカシブランドの有り難さを噛み締める。
イルカを抱いて病院までゆっくり歩く。色んな意味でこれは効果的だろうと、イルカの心配はしながらオレは浮き浮きしていた。雨は上がっていたが、雲は厚く日は見えなかったので夕方の空は薄暗かった。
ふとイルカの右手に滲む血が見えて、その乾いていない指先を無意識にオレは舐めていた。一本ずつ丁寧に、イルカを味わうように。
身じろぎしてイルカが目を覚ました。指を舐めるオレに気付くと、指を引こうと慌てて身をよじったが、体中の痛みに力が抜けていくようだ。
安心させるようにオレは優しく抱き直し、イルカを腕に閉じ込めた。オレの顔に目をやり、頬を染めて逸らす仕種のなんと可愛いことか。
顔を、と俯くのに聞き返せば見せていいのですかと、震える手でオレの袖を握り締めている。ああイルカの指を舐めるのに夢中で気付かなかったが、マスクは顎まで下ろしてあったんだ。
最高に男らしい笑顔を見せて、内緒ですよとわざわざ顔を近付けてやると、身をよじって離れようと抵抗する。怪我人でしょと少し怒った声を出すと、びくっと体を震わせごめんなさいと泣きそうになって、オレは嗜虐心に下半身が疼くのが堪え切れない。
気を逸らそうと、まだ血の滲む指先をまた舐めしゃぶると、イルカが息を吐いて目を潤ませた。指先は刺激に敏感な所だから、色事に疎いイルカでさえ感じているだろう。そう多分、性的なものを。
イルカが纏う匂いが、今、違うものに変わった。うなじに艶を漂わせて、イルカがおんなの顔を見せ始めたのだ。
しかしまだだ、まだ早い。
気取られないように欲望に蓋をして、オレは空を見上げた。細く白い薄笑いは、オレを鏡に写したようで、月に向かい笑いかけずにいられない。
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