一
アカデミー教師イルカと上忍師カカシは、恋人としてオツキアイしている。…という事実が、未だに皆信じられない。
今日もカカシは受付にイルカを迎えに来ているが、あっさり追い払われた。
「明日も朝早いんでしょう、夜更かしは駄目ですよ。」
イルカは上目使いにお疲れ様でした、と笑いながら切り捨てるように言うが、自分はどうだよ無理するんじゃねえ、と聞く者達は思った。
カカシも、一緒に帰ろうとは言えない。報告書の束の下にアカデミーの書類を隠してちょっとした合間に片付ける、その姿が切なくて。
すごすごと猫背を更に丸くして一人淋しく帰るカカシの姿がとても憐れで、仲間達がもう就業時間も終わるから帰れば、と促してもイルカは何処からか明日が期限だという仕事を探してくるのだった。
一昨日、外から帰ってきたので、とお土産はイルカの好きな銘柄の酒。受け取ってさようなら(二人で飲むのにいい量だろうが)。
昨日は名店のショートケーキを差し出したら、隣の席の男と半分こ(二個をその場の四人で分けた)。
今日はサクラに貰ったからと水羊羹の詰め合わせ、職員室で全て消えた(わざわざサクラがイルカ先生とカカシ先生にって持って来たのに)。
そうこうしてお迎え連続六日目に断られた夜、カカシは重箱に詰めた弁当を持って来た。帰れないなら夕食を作って来ましたから、と差し出されたそれには、夫婦箸が添えられていた。
ちょうど休憩時間に入るから、回りの者達は当然二人で食べるのだろうと思っていたら。
「皆、カカシさんからの差し入れだから、ありがたく食べてよね。」
あ、お箸が足りないね、とイルカは割り箸を探しだした。カカシはうなだれて立ち尽くす。
あの、ご一緒に、と誰かがカカシに声をかけようとしたがイルカはにっこりとカカシに笑いかけ、ありがとうございました、とまるで解っていない。
「あ、いえ、喜んでいただけて…。」
空腹を抱えたカカシが上忍仲間に泣きついた事を翌日知った同僚達は、イルカを家に帰すために綿密な計画を立てた。
期限の近い書類は、イルカの授業中に手分けして片付けた。
アカデミーのテストの採点や授業計画や(勿論イルカの受け持ち分も)、任務受付と処理と決済と。
「あ、忘れてたぞ、火影様にも書類は押し付けるなと言っとけ。」
「いや、お前が人質で書類やっつけてこい。」
「んな横暴な。」
「一日休みをやるから。」
「はーいあたし行ってきまーす。」
昼過ぎには全てが終わった。今日こそは一緒に帰そう!と目で合図して、カカシ達の班の帰りを待つ夕方。
「なあお前、はたけ上忍の事どう思ってるんだよ。」
と勇気のある奴がイルカに聞いた。本当に付き合ってるのか、と。
だが逆に、え? と不思議そうな顔をされてしまう。
「毎日差し入れして気に掛けてくれて、だからあたしも頑張れるの。夏休み前の忙しさは解ってくれてるから、申し訳ないけどつい、ね。」
と笑う顔が上気するのは、確かに恋人の事を想うからだろう。けれど…。
差し入れだあ? 違うだろ、土産を持って口実作って、一緒に帰ろうって迎えに来てんだよ!
こいつ、仕事なんか持ち帰ってやりゃいいのに、ただ一緒にいたい男心が解らんのか!
と、女性職員までもが脱力した。
イルカは鈍かったのだ。気は利くし仕事は出来るし性格の良さは折り紙付きで、なによりその性格から来るのか笑った顔がとても可愛いのだ、が。
カカシが声を掛けた時にも、自分が口説かれている事に気付かずにいたのだ。
『二人で』食事に行きましょう、なんて誘いの常套句も流し目の意味も、まるで解らなかった。その食事の席でも艶めいた空気が勿論読める筈もなく、また言葉で伝える事の苦手なカカシは、どれだけ時間を掛けてイルカに心を打ち明けただろう。
彼は大人の中で育ったから、黙っていても思う事は殆ど解ってもらえた。カカシのちょっとした表情で感情を理解出来る大人ばかりが周囲に揃っていたのも、ある意味では不幸だったかもしれない。そのまま大人になり、そのまま周囲の流れも変わらず。
アカデミー教師イルカと上忍師カカシは、恋人としてオツキアイしている。…という事実が、未だに皆信じられない。
今日もカカシは受付にイルカを迎えに来ているが、あっさり追い払われた。
「明日も朝早いんでしょう、夜更かしは駄目ですよ。」
イルカは上目使いにお疲れ様でした、と笑いながら切り捨てるように言うが、自分はどうだよ無理するんじゃねえ、と聞く者達は思った。
カカシも、一緒に帰ろうとは言えない。報告書の束の下にアカデミーの書類を隠してちょっとした合間に片付ける、その姿が切なくて。
すごすごと猫背を更に丸くして一人淋しく帰るカカシの姿がとても憐れで、仲間達がもう就業時間も終わるから帰れば、と促してもイルカは何処からか明日が期限だという仕事を探してくるのだった。
一昨日、外から帰ってきたので、とお土産はイルカの好きな銘柄の酒。受け取ってさようなら(二人で飲むのにいい量だろうが)。
昨日は名店のショートケーキを差し出したら、隣の席の男と半分こ(二個をその場の四人で分けた)。
今日はサクラに貰ったからと水羊羹の詰め合わせ、職員室で全て消えた(わざわざサクラがイルカ先生とカカシ先生にって持って来たのに)。
そうこうしてお迎え連続六日目に断られた夜、カカシは重箱に詰めた弁当を持って来た。帰れないなら夕食を作って来ましたから、と差し出されたそれには、夫婦箸が添えられていた。
ちょうど休憩時間に入るから、回りの者達は当然二人で食べるのだろうと思っていたら。
「皆、カカシさんからの差し入れだから、ありがたく食べてよね。」
あ、お箸が足りないね、とイルカは割り箸を探しだした。カカシはうなだれて立ち尽くす。
あの、ご一緒に、と誰かがカカシに声をかけようとしたがイルカはにっこりとカカシに笑いかけ、ありがとうございました、とまるで解っていない。
「あ、いえ、喜んでいただけて…。」
空腹を抱えたカカシが上忍仲間に泣きついた事を翌日知った同僚達は、イルカを家に帰すために綿密な計画を立てた。
期限の近い書類は、イルカの授業中に手分けして片付けた。
アカデミーのテストの採点や授業計画や(勿論イルカの受け持ち分も)、任務受付と処理と決済と。
「あ、忘れてたぞ、火影様にも書類は押し付けるなと言っとけ。」
「いや、お前が人質で書類やっつけてこい。」
「んな横暴な。」
「一日休みをやるから。」
「はーいあたし行ってきまーす。」
昼過ぎには全てが終わった。今日こそは一緒に帰そう!と目で合図して、カカシ達の班の帰りを待つ夕方。
「なあお前、はたけ上忍の事どう思ってるんだよ。」
と勇気のある奴がイルカに聞いた。本当に付き合ってるのか、と。
だが逆に、え? と不思議そうな顔をされてしまう。
「毎日差し入れして気に掛けてくれて、だからあたしも頑張れるの。夏休み前の忙しさは解ってくれてるから、申し訳ないけどつい、ね。」
と笑う顔が上気するのは、確かに恋人の事を想うからだろう。けれど…。
差し入れだあ? 違うだろ、土産を持って口実作って、一緒に帰ろうって迎えに来てんだよ!
こいつ、仕事なんか持ち帰ってやりゃいいのに、ただ一緒にいたい男心が解らんのか!
と、女性職員までもが脱力した。
イルカは鈍かったのだ。気は利くし仕事は出来るし性格の良さは折り紙付きで、なによりその性格から来るのか笑った顔がとても可愛いのだ、が。
カカシが声を掛けた時にも、自分が口説かれている事に気付かずにいたのだ。
『二人で』食事に行きましょう、なんて誘いの常套句も流し目の意味も、まるで解らなかった。その食事の席でも艶めいた空気が勿論読める筈もなく、また言葉で伝える事の苦手なカカシは、どれだけ時間を掛けてイルカに心を打ち明けただろう。
彼は大人の中で育ったから、黙っていても思う事は殆ど解ってもらえた。カカシのちょっとした表情で感情を理解出来る大人ばかりが周囲に揃っていたのも、ある意味では不幸だったかもしれない。そのまま大人になり、そのまま周囲の流れも変わらず。
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