一
ゆびきりして、行ってきますと手を振った。
カカシはイルカを無傷で帰すと。
イルカは無傷で帰ると。
カカシの部下の三人と、それぞれ約束して任務に出た。
それは人手が足りないからと応援部隊を要請されたものだが、誰が同行するかについてはイルカの知識が豊富だからと、カカシの推薦があったからだ。
内容は、人質の奪還と敵の殲滅。麻薬と毒のはびこる小国へ。
上忍三人に中忍のイルカが一人という編成は奇妙だが、イルカ以上の薬と罠の専門家はいない。過剰と思われる程の準備はしておいた方がいいと。
久しぶりだと少し浮足立つ自分を諌めて、イルカは準備をした。
あらゆる事態を想定しなければならないからと、二日で何十種という薬を調合して、小さな玉に丸めた。主に解毒のだ。
各症状に対する使用法も纏めて書き付ける、自分がいなくても使えるようにと。それは不測の事態でも任務を遂行しなければならない、という非情な掟の為だが当たり前の事だと思う。
こっそりと遺書を机の引き出しにしまう事も忘れない。感謝の言葉のみが綴られているのは、イルカの心が穏やかだからだ。
足手纏いにはなりたくない。女だからと庇われたくもない。
しかし現実には他の三人は男で、上忍だ。敵わないだろうがあがいてみたい、と寝る間を惜しんで罠のおさらいもする。
取り敢えず身を守るための接近戦用のものを幾つかと、やたらと使用出来ない大規模なものをひとつ。自爆覚悟なら集落をなくす事も出来よう。
昔病院だったか学校だったかの、取り壊しに試させてもらったよね。あれは最高にいい気分だった。
口元が緩んだが直ぐに引き締めると、時計を見上げて寝ておかなければとイルカは伸びをした。
明日の支度は枕元に。きっと覚えていないだろうけれどカカシさんに貰ったクナイをお守りに、と一番上に置いて。
イルカは夢を見た。教師になる少し前に、かなり気負って戦闘に参加して怪我を負った時の。
自分は罠の専門家だと、初めて任されていい気になった結果だった。札の暴発で、右手の小指を粉砕骨折した。今はもうほぼ完治はしたが、力を籠めるとつって思い通りに為らない。小指を使う印の形は代用出来る場合が多いし、自分ごときには殆ど必要は無かった。
ただ困ったのは生徒達との約束の為のゆびきりだったが、正直に話して左手を使う事にした。
ごめんね、と言いながら右手を使わないもうひとつの理由を心に。
本当はあんな所にイルカを連れて行きたくはないが、他に出来る者もいない。それに気心が知れているから阿吽の呼吸で動ける、と自分に理由を作ってカカシはイルカを推薦した。
自分は少なからず彼女を好意的に思っている。それは忍びとして、友人として、異性として。……本当はどれだ?
応援任務の依頼を告げにイルカの元を訪れ、内容確認をし準備出発について相談して、やはり自分が彼女を推薦したのは間違いではなかったとカカシは満足した。頭がいいのだ。
久し振りなので緊張します、と頬を染めたイルカはそれでも落ち着いて分をわきまえていた。俺の言葉の裏を読んでくれたようだと、カカシの目は細められる。
危険を承知で行くけれど一緒に里に戻りたい、と今の気持ちを正直に話せば約束ですかと覗き込まれた。
もしやあの時の事を覚えているのかと、一瞬たじろいだが差し出したのは左手の小指。部下達から聞いていた右手を使わない理由は、俺の為ではないかと期待させるような事で。
勿論上手く動かないのは知っているけどもうひとつ秘密があるみたいなのよね、と女の子が話す。右手の小指を庇う仕種は訳ありと見たわ。
ゆびきりです、と言われて意識を戻す。
「必ず帰って来ましょうね。」
左手のゆびきりが右手に替わるのはいつだろう。もしかしたら一生このままかもな。カカシは自嘲気味に笑うとでは宜しくと握手をして去ったが後ろ姿を見られている事に、それでも気にしてくれてるんだと少し嬉しい自分だった。
何年前になるか。もう五年にはなろうか。いつ、という記憶は曖昧だが何を、という記憶はいまだ鮮明である。爆発に巻き込まれ死ぬ寸前だったイルカを救い出し、張り倒してから気付いた右手の小指の大怪我。
ごめんなさい、もし指があったらその時はもう一度改めてお礼を、と気丈にも左手のゆびきりをしてから気を失ったイルカに…俺は惚れたのかもしれない。本当は左手のゆびきりは約束に為らないんです、ごめんなさいと唇を噛んで痛みを堪えるその強さはいい、と思ったのだ。
面を着けていた頃だから顔は判らないだろうが、頭は誰が見ても俺だと気付くだろう。と期待したが肩すかしを喰らった。
ゆびきりして、行ってきますと手を振った。
カカシはイルカを無傷で帰すと。
イルカは無傷で帰ると。
カカシの部下の三人と、それぞれ約束して任務に出た。
それは人手が足りないからと応援部隊を要請されたものだが、誰が同行するかについてはイルカの知識が豊富だからと、カカシの推薦があったからだ。
内容は、人質の奪還と敵の殲滅。麻薬と毒のはびこる小国へ。
上忍三人に中忍のイルカが一人という編成は奇妙だが、イルカ以上の薬と罠の専門家はいない。過剰と思われる程の準備はしておいた方がいいと。
久しぶりだと少し浮足立つ自分を諌めて、イルカは準備をした。
あらゆる事態を想定しなければならないからと、二日で何十種という薬を調合して、小さな玉に丸めた。主に解毒のだ。
各症状に対する使用法も纏めて書き付ける、自分がいなくても使えるようにと。それは不測の事態でも任務を遂行しなければならない、という非情な掟の為だが当たり前の事だと思う。
こっそりと遺書を机の引き出しにしまう事も忘れない。感謝の言葉のみが綴られているのは、イルカの心が穏やかだからだ。
足手纏いにはなりたくない。女だからと庇われたくもない。
しかし現実には他の三人は男で、上忍だ。敵わないだろうがあがいてみたい、と寝る間を惜しんで罠のおさらいもする。
取り敢えず身を守るための接近戦用のものを幾つかと、やたらと使用出来ない大規模なものをひとつ。自爆覚悟なら集落をなくす事も出来よう。
昔病院だったか学校だったかの、取り壊しに試させてもらったよね。あれは最高にいい気分だった。
口元が緩んだが直ぐに引き締めると、時計を見上げて寝ておかなければとイルカは伸びをした。
明日の支度は枕元に。きっと覚えていないだろうけれどカカシさんに貰ったクナイをお守りに、と一番上に置いて。
イルカは夢を見た。教師になる少し前に、かなり気負って戦闘に参加して怪我を負った時の。
自分は罠の専門家だと、初めて任されていい気になった結果だった。札の暴発で、右手の小指を粉砕骨折した。今はもうほぼ完治はしたが、力を籠めるとつって思い通りに為らない。小指を使う印の形は代用出来る場合が多いし、自分ごときには殆ど必要は無かった。
ただ困ったのは生徒達との約束の為のゆびきりだったが、正直に話して左手を使う事にした。
ごめんね、と言いながら右手を使わないもうひとつの理由を心に。
本当はあんな所にイルカを連れて行きたくはないが、他に出来る者もいない。それに気心が知れているから阿吽の呼吸で動ける、と自分に理由を作ってカカシはイルカを推薦した。
自分は少なからず彼女を好意的に思っている。それは忍びとして、友人として、異性として。……本当はどれだ?
応援任務の依頼を告げにイルカの元を訪れ、内容確認をし準備出発について相談して、やはり自分が彼女を推薦したのは間違いではなかったとカカシは満足した。頭がいいのだ。
久し振りなので緊張します、と頬を染めたイルカはそれでも落ち着いて分をわきまえていた。俺の言葉の裏を読んでくれたようだと、カカシの目は細められる。
危険を承知で行くけれど一緒に里に戻りたい、と今の気持ちを正直に話せば約束ですかと覗き込まれた。
もしやあの時の事を覚えているのかと、一瞬たじろいだが差し出したのは左手の小指。部下達から聞いていた右手を使わない理由は、俺の為ではないかと期待させるような事で。
勿論上手く動かないのは知っているけどもうひとつ秘密があるみたいなのよね、と女の子が話す。右手の小指を庇う仕種は訳ありと見たわ。
ゆびきりです、と言われて意識を戻す。
「必ず帰って来ましょうね。」
左手のゆびきりが右手に替わるのはいつだろう。もしかしたら一生このままかもな。カカシは自嘲気味に笑うとでは宜しくと握手をして去ったが後ろ姿を見られている事に、それでも気にしてくれてるんだと少し嬉しい自分だった。
何年前になるか。もう五年にはなろうか。いつ、という記憶は曖昧だが何を、という記憶はいまだ鮮明である。爆発に巻き込まれ死ぬ寸前だったイルカを救い出し、張り倒してから気付いた右手の小指の大怪我。
ごめんなさい、もし指があったらその時はもう一度改めてお礼を、と気丈にも左手のゆびきりをしてから気を失ったイルカに…俺は惚れたのかもしれない。本当は左手のゆびきりは約束に為らないんです、ごめんなさいと唇を噛んで痛みを堪えるその強さはいい、と思ったのだ。
面を着けていた頃だから顔は判らないだろうが、頭は誰が見ても俺だと気付くだろう。と期待したが肩すかしを喰らった。
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