5

五日目

さて十日間という短い括りの真ん中、ほぼ折り返しとなりました。
いかがでしょう、お相手の方とは軽にお話しできるようになりましたか。
無理ですか、そうですよね短期間でゼロから恋人になろうと言うのは無謀な話だと、書いている私も思います。
ですが、このページを読んでいらっしゃるということは諦めてはいないという決意の表れなのですよね。
ならば大丈夫、自信を持ってください。あなたは必ず成功します。
今日の課題もお互いを知ることです。昨日よりも密にさりげなくお相手の心に入り込めるでしょうか。
では今日もその方との会瀬と会話が弾みますように、それが無理でもひとことご挨拶だけでも交わして明日へ繋げられますように、お祈りしております。


カカシは朝起きた瞬間から、一日中昨日のイルカとの会話を思い出していた。
任務終了報告の際に会えただけでも嬉しかったのに、イルカからの誘いで食事ができたのだ。その帰り道に内緒のきっつい任務に呼び出されたのは、幸せは小出しにした方が良いとの神の啓示だったと思っておけば良い。
また今夜会えるしぃ、…と身体をくねらせるカカシの半径数メートルには誰も寄り付けなかった。こんなのが先生だなんて恥ずかしくて死んじゃう、というサクラの泣き言を他の上忍師達が聞かされて頭を抱える。
さてさてこちらアカデミーと受付では。去り際に明日も貴女の夜を予約していいですかと、クサイ台詞を吐いたカカシに勢いで頷いたイルカは律儀に約束を守った。
思わず頷いてしまう程真剣なカカシに誠実という言葉を当て嵌めて、カカシより数段は魅力的な様々な誘いを断腸の思いで断ったのだ。そっちに未練はあるけどカカシ先生と先に約束したんだもの、と。
そうして夕方。今日もイルカと歩きながら話すのは、七班の三人の様子とサツキの事だ。
「へえ、あいつ三年で卒業できたんですか。なるほど優秀だ。」
「色々とあって入学は確か十才位でしたから、年下に混じって苦労したようです。」
「俺は逆で、年上に混じって苦労しましたよ。一年で卒業させられましたけど、昨日の店の主人は優しくしてくれた一人です。」
あ、と思い出してイルカが目を泳がせた。
カカシは言葉を探すイルカにいいんですよ、と事も無げに明るく笑いかけて話を変える。サツキの任務の際の様子を教えてやった。話せない事も多いが、サツキの任務に対する姿勢やカカシの忍犬を可愛がる様子にこくこくと頷くイルカの笑顔が眩しい。
ちょっとムカつくのはサツキへの自分の嫉妬からだ、我慢我慢。イルカの笑顔が他人の為だなんて悔しいが、それでも側にいられるんだもの。
デレた変態は、顔が隠されていなければイルカも逃げ出したかもしれない。それに恋人になる為の方法論なぞ当てにするが女百人切りとも噂される、ウブなんだか爛れてんだかよく判らないカカシだ。
混んだ店内では中央のお洒落な大テーブルに詰めて並ぶ相席しかなく、それも二人の両脇には酔って騒ぐ可愛い装飾に不似合いなオジサン達がいる。
イルカ側がどっと沸いて思わずカカシに身体を傾け、酒盃がころりと中身を卓にぶちまけた。
「あん、やだ。」
オジサンが振り回す腕を避けて、カカシの胸に僅かに縋るのは始めて見る姿だ。
押し倒してえ!とほんの少しの酒だというのに、カカシはイルカに発情しかけた。パンツの中が痛い。
だがイルカの行動は無意識だろう、肩を掴んで酔っぱらいから離し自分に引き寄せたカカシに身体を強張らせてそれを証明する。
「あっ、ごめんなさい。」
酒を溢した事に漸く気付いたが羞恥を誤魔化したいのか、卓が綺麗になってもイルカはお絞りで拭き取る作業を続けている。気にしすぎて息が詰まる。
人も増えすぎた。カカシは腰を上げる。
「出ますかね。」
人いきれに息苦しそうに顔を染めたイルカに、好きな所にしがみついてとカカシは笑う。出口までもはぐれそうに混みあっていては躊躇する間もなく、イルカはカカシの手を握った。
ぐいと引かれて暖簾の外に出たイルカは、勢いでそのままカカシに抱き留められた。
「すご、ひとが、」
「すみません、まさかこんなに混むとは思わなかったから。」
口約束の予約で何かの慰労会が開かれたらしい。店側も聞いていた人数ならばと了承したら、椅子に座れない程集まったのだと追い出されたような形の二人に、申し訳なかったと清算の際に次回の割引券を数枚くれたのだ。
まだ時間は早い、もう少し一緒に。とカカシは焦る。
「イルカ先生、こんばんは。」
あ、はたけ上忍もいらしたんですね。サツキがにこにこと頭を下げた。
「サツキ、どうしたの。」
「ご飯を食べて帰ろうかと思って、一楽に行くんです。」
「えーいいなあ。」
「じゃあご一緒に行きませんか。お邪魔でなかったら是非。」
勝手に話が進められて、カカシはぽつんとおいてけぼりだ。しかし今の店ではろくに食べられなかったから、ねっとイルカに微笑まれて頷いてしまった。

サツキは七班の子ども達に頼まれて邪魔しに来たのだ。夜は流石に出歩けないからと頼む。何故サツキが了承すると思ったのか、そこはやはりイルカを取られたくない子どもなんだな、と笑いはしたが面白そうと乗ったからには掻き回したい。
カカシを応援したいようなしたくないような、結局サツキもまだ子どもだ。
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。

コメントフォーム

以下のフォームからコメントを投稿してください