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三日目

昨日は、あなたとお相手の会話は弾みましたか。次に繋げる事はできたでしょうか。
では今日はそれを踏まえた上で、立ち止まってみましょう。
急いで先に進む必要はありません。なぜならあなたがお相手に存在を認識され、お相手の心の中にいるあなたが大きくなる為です。
立ち止まる、それは具体的には常にお相手の視界に入っていることです。ただ姿を見せ暫く熱い視線を注ぐだけで、用事がなければあなたから話し掛けてはいけません。
そして一日の終わりに、明日の約束を取り付けてみましょう。明日が無理ならいつが良いのか、日にちを決定できればそれまでの間に、お相手の心の中に占めるあなたの割合が大きくなるでしょう。


今日はある農家の所有する山の不法投棄ゴミ収集の任務、での昼休み。
「何だかこれを書いた人、凄いって思えるわ。」
カカシの読む本『十日間で恋人になる方法』をどうにか手に入れて、額を突き合わせて読んでいるのはカカシの部下達だ。
といってもナルトは最初のページで読むのを諦めて、読み上げるサクラの声を聞いている。それでも内容はよく解らないのだろうが。
「何がだ。」
サスケがサクラを横目で見た。女ってやつはまた面倒な事を言い出すんじゃないか、と内心ひやひやしている。
「教科書なのよね。最初にこうしてくださいって、要点を纏めて書いてあるでしょ。それから実例として基礎と応用問題があって、それを答えるわけじゃない。」
「ああ、長文読解だな。この時の相手の心情はとか、何故あなたはそう思ったかなんて、実に良くできてる。」
「でしょ。最後の応用問題なんか、こうなった時はどうすればよいかーとアクシデントへの対応もぬかりないの。」

力ではカカシがイルカに近付くのを阻止できない、だからその前にイルカをカカシが手の出せない場所へ誘うつもりだ。
忍びは裏の裏をかけ。
カカシの言葉に従って、三人でカカシの取る手の先を行こうと思ったのだ。
既に二日目まではカカシに都合の良いように進んでいる。

夕方の報告で、カカシは報告を部下の三人に任せて後ろで見守っていた。
イルカをじっと見詰めて、心でこっち向けと念を送る。だがいざとなると顔を上げたイルカと目が合っても、笑い掛けられず顔を逸らす事もできない。
おぅっふ。と意味のない言葉が出てしまった。
今日は今初めてイルカに会った。報告したらもうこれでおしまいだ。本の通りにはいかない、どうしたらいい。とカカシは切なくイルカを見詰めている。
イルカは離れて立つカカシに声を掛けた。
「カカシ先生、どうしました?」
下忍達は振り返った。くそ、イルカ先生に近付かないように頑張ったのに、さっさと帰れよ変態。
作戦は失敗した。イルカから話し掛けてはこれ以上打つ手がない、とサスケとサクラは目の動きで新たな作戦を練り直しをするためにこの場からの退場を決めたが。
「カカシ先生はまたどっかに行くらしいから、早くしてくれってば。」
あ、気が付きませんで、とイルカは会釈でカカシに詫びて受領印を押した。
とぼとぼと前を歩くカカシを、三人は可哀想と思いながら顔を見合せニヤリと笑った。
確かにね任務は事実だし、とカカシの足取りは重い。まさかナルトが解って邪魔をしていたとは針の先程も思わず、行ってくるからとあっという間に姿を消した。
「ナルト、あんたもやるじゃないの。」
サクラの言葉に照れながら、ナルトは言ってのけた。
「だってイルカ先生はオレと結婚するんだってば。」
はっと鼻で笑ったサスケだったが頑張れよ、とナルトの背中を優しく叩いた。

「ねえ君達、はたけ上忍はどこだい?」
夕闇の校庭の真ん中を突っ切り帰る途中で、不意に三人は呼び止められた。
自分達より幾つか上だろう、きりっとした自信に溢れる笑顔の少年はこれからカカシと任務に出るのだという。サクラが訝しむ。
「カカシ先生はもう行っちゃいましたけど。」
えっ、と肩を落としたサツキと名乗る中忍にナルトが質問をぶつけた。
教師一年目のイルカの教え子で、カカシを尊敬し忍犬使いになりたいのだと聞いた三人は、カカシがどんなにだらしない変態かとそれぞれ同時に捲し立てた。
しかしサツキは、それだけ仲間だと思う君達に気を許しているんだよ、と屈んで目を合わせ三人に頷いて笑った。
カカシを探しに消えたサツキの残した言葉に三人は少ーしだけカカシを見直したが、それでもイルカを魔の手から守るという決意は翻らない。

出入りの途絶えた受付で、イルカはカカシの事を考えていた。
最近よく視界に入る。ナルト達の上司として気にしてはいたが、接点はそれだけだからまともな会話は昨日の犬の件だけだ。
また話したいな、と思わせたカカシは三日目の課題も半分合格だとは夢にも思っていなかった。
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