見れば見る程綺麗にアカデミーと、連なる忍びの関連施設は中から補強され、ついでに外壁も塗り直された。ここらに被害はなかったが、古くなっていたのでついでにと。
何ヶ月ぶりかに生徒が揃い、アカデミーは活気づいた。カカシが帰るまで半月もあると聞いたが寂しく感じる間もなく、イルカの毎日は慌ただしかった。
季節は自分を置いて去って行く、としんみりしたのは職員室で月めくりのカレンダーがあと一枚になった頃だった。早い時刻から日が傾くのも切なくて人恋しい。
職員室の戸を叩く音に、一番近くの男が顔を上げた。遠慮がちに覗くのは、ここには絶対に用がないだろう顔。
「は、」
男の声が止まった。
注目。ぎち、と椅子を軋しませ教頭が立ち上がった。
「はたけ上忍。」
ざわ、と空気が動いた。驚愕と興味と。
カカシは黙ったまま中を見回して、イルカを見付けるとぴょこりと頭を下げた。注目はイルカへ。アタシ? と自分を指させばカカシはこっくりと頷く。注目はまたカカシへ。
行けよ、と促されてイルカはカカシの元へ歩いた。二十対余りの目が背中に突き刺さるが、誰も言葉を発しない。任務以外に無駄な力を使うのかと全員の聞き耳を感じながら聞くんじゃねえ、とイルカは思い切り戸を閉めた。
職員室から数歩離れた廊下で止まり、イルカはカカシを見上げた。一ヶ月ぶりだが変わらぬ様子に安堵の息を吐く。満面の笑顔でお帰りなさい、と言えばカカシも目を細めてただいま、と返した。
「何かアタシにご用でしょうか。」
「いや、ちょっと話がしたかったから。」
ではお伺いします、と姿勢を正されカカシは躊躇した。長くなるからここでは。今夜の予定は、と聞かれても、イルカは帰るだけですと誘いも理解していない。はっきり言わなきゃ駄目だっけ、とカカシは夕食を奢りますと誘った。
あ、アタシも話がありました、と眉間に皺を寄せたイルカにまた何かお説教かとカカシは身構えた。けれど今荷物を取ってきますとイルカは嬉しそうに走り出し、カカシはイルカがまた解らない。
イルカが質問を受け付ける間もなく出ていってしまい、職員室では全員が一斉に騒ぎだした。窓辺に駆け寄り二人の姿を追えば、カカシが小石につまづいたイルカの肩を抱いてやり、手はそのままに並んで歩いている。
飲みたい、おでん、鍋物、お金、と読唇術に長ける者がちらちらと会話を読んだがまるで色気がないと首を横に振った。
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