ぬいぐるみが職員室の机に一つ。
イルカはそれを見おろして悩んだ。何故。なんで。なんのこっちゃ。
皆もいつからあるのか、誰が置いたのかも知らないと言う。
アクシデントの後仮眠を取って、午後の授業のために来てみたらそんな事になっていた。
うみのイルカ。海の海豚。
アタシはよくからかわれたけど、頭がいいことで知られる海洋生物だから好きだと堂々と言っていた。かたどった小物をお土産に貰うこともある。家の鍵にも付いているし、鞄にも鈴がぶら下がっている。
しかし、これは。
大きすぎる。
アタシが抱えても抱き枕になるくらいの大きさで。
いや嬉しいけど、凄く高価だと判る代物で。
取り敢えずこれをどけないと授業の支度ができないと持ち上げてみたら、一枚のメモ書きが添えてあった。
『今日はありがとうございました。』
ああ、と納得した声は周りを振り向かせる程大きかったらしい。どうかしましたか、と聞かれ、いえブレゼントでした、とイルカは嬉しそうに答えた。
あら、どなたかいい人からですの、とからかわれて内緒ですぅ、とイルカはぬいぐるみを抱き締めて頬擦りした。
あまり上手くない字のメモは大事に鞄に仕舞い込み、夕方まで浮き浮きしながら授業をして、イルカは見せつけるようにぬいぐるみを抱えて帰っていった。
その様子をこっそりとイルカの反応を窺っていた一人の暗部が報告し、鼠面の男のピースで本日の任務完了となった平和な一日。
ただ後日、カカシがこの事実を知って頭を抱えた事を、イルカは知らない。
そして。
平和な日々は、突然に。
終わった。

中忍選抜試験の最中に大蛇丸が木ノ葉の里を襲撃し、三代目火影の命が奪われた。
火影は里を守り命を落とした―と聞いた時に、イルカは半狂乱になったが、しっかりしろと仲間に頬を叩かれた。後でどれだけ泣いてもいいから、お前にできる事を最優先しろと。イルカは多少なりとも治療のチャクラを練る事ができるため、負傷した忍びを助ける役割が与えられている。
阿鼻叫喚の地獄絵は記憶に残るあの時と重なり、吐き気をもよおす程だったが、奥歯を噛み締めイルカは一人でも助けたいと瓦礫の下に声を掛けて回った。自分にできる事を。
戦火の中心で次々と仲間が見つかる。とにかく歩いて逃げてくれるようにと脚の治療だけはしたが、皆立てればまた戦いに出ようと、血だらけで敵に向かう。
止められない。止めてはいけない。
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