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六月 その四
前から歩いて来る女がカカシにニヤリと口の端で笑ったのを、素知らぬ顔で通り過ぎた。どこぞの商売女だったか、顔だけは記憶にあるのだが、イルカに心を奪われてからは何処にも行っていない事を思い出した。
その代わり、イルカを抱いた夢で腰が疼いて目が覚めたのは、何度あろうか。熱を放出したいと思えど、誰でも良いとは考えも出来ず。案外繊細だったのだと、自分に笑った。もしかしたら一生このままかもしれないが、それも良かろうと、肩が触れるか触れないかの距離のイルカを盗み見る。
「今の方は。」
気付いていたのか。
「誰だか思い出せないんですがね、別に構いませんよ。」
殊更に他人を強調して、ひと気のない路地に入るとカカシはイルカに左腕を差し出した。ここいらで最近変質者が出るって、聞いてませんか。
はい、こちらは通らないようにしています。と不安げなイルカはどんなに強かろうが、やはり女だ。咄嗟の事に対応しきれないかも、と自覚していた。
離れないで、と腕を取るように言うと、イルカはそっと片手を袖に添えた。それじゃあ掠われます、とカカシはイルカの両手を自分の腕に思いきり回させた。
うちまで離さないでくださいよ。有無を言わせず歩き続ける。これだけでもいいのだと、二人別々に同じ事を思い。
カカシの家の前であ、と顔を見合わせた。
「食べ物何もない。」
「やっぱり。」
乾物の買い置きしてありますから、何とかなります。とイルカが我が家のように言うので、カカシは胸が締め付けられる。
俺のものにしたいと、今更に気付く。火影の言う通りに、名乗りを上げてイルカに求婚していたならば、もしかしたらと。過ぎた事にこだわっても仕方ないが、馬鹿な自分を殴り付けたいと唇を噛みながら、家に入った。
二人きりだと何をするか解らないと、忍犬達を呼び出してわざと楽しげな雰囲気を作った。そんなカカシの気持ちが伝わったのか、イルカも幾分上滑りした様子だった。
それでも、一緒にいたい。決して言えない言葉を、言ってはいけない言葉を心に秘め、一秒を惜しむ二人は自分を抑えるのに夢中で、相手の放つ想いには全く気付かないのだ。落ち着けば判るだろうと、犬達ですら思うのに。
美味しかったです。
おやすみなさい。
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