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私の叫びと共に枕元の花瓶が割れた。私にしか出来ない術だと常々不思議がられた現象だったが、極度の緊張を強いられる状況下でチャクラが暴発して発動するもので、極稀に鎌鼬のように人間を切り裂くこともあったのだ。
放たれた気は部屋の中の鏡やドアのガラスを粉々に破壊した。私の仕業だと咄嗟に判断して、カカシ先生が私の頭を胸に押さえ込み、私の名を呼び続けた。私の叫びは止まらない。
殺さないで、と叫び続ける自分の声が、涙が止まらない。
全身で暴れる私をベッドに縫い付けるように押さえ込んで、カカシ先生も泣いていた。
全ては俺の責任ですと、叫び謝るカカシ先生に、私は殴り掛かり足を蹴り出した。カカシ先生の脇腹の傷が開き血の匂いがしても、私は止める事が出来ない。
赤ちゃんを殺さないでと喚き続ける、これが私の本当の気持ちだったのだ。カカシ先生と別れて一人で生きようという決意は、考えたくない矛盾する気持ちの、すり替えだったのだ。そして、私はどうする気だったのだろうか。
腕にちくりと痛みが走り、体中の力が抜けていく。怠さに支配され、眠りに落ちるのは鎮静剤の注射のせいか。
私は眠り続けた。いや、正確には睡眠ではなく植物状態に近いものだった。私の意識は沈下し、浮上しつつ、周囲の気配は理解できるのだ。
脳波は意識の覚醒を示しているのに何故と、主治医の声がする。
カカシ先生が私の耳元で聞こえているのでしょう、意識はありますよねと声を掛け、私は答えたいのだが声が出せないどころか瞼すら動かせない自分にパニックを起こす。
脳波が動いたという医師にカカシ先生はやっぱりとうなづいて、私の髪を撫で始めた。
温かい手に私は安心し、脳波は戻ったようだった。
もう朝になりました、とカカシ先生は解り易い説明を始めた。私はやはり注射で眠らされたらしく、しかし何時になっても目覚めないので結局また集中治療室に逆戻りとなり、体中に線が繋がる事になったのだ。しかも今度は脳波をとる機械も増えている。
俺達と貴女を繋ぐのはこの脳波の機械だけなんですね、でも貴女が生きてくれているだけで嬉しいんです、と言われてまた私の脳波が反応したようだ。
お腹の子は元気ですよ。俺は、いえ貴女を心配している者達は何か方法はないかと、ええお腹の子を助ける方法ですね、探し回っています。可能性が出て来たんですよ。
だから、目を覚まして俺を見て下さい。
目を開けたい、声を出したい、カカシ先生を抱き締めたい。どうにもならない自分が悔しくて、気が付くと涙が目尻を伝っていた。
カカシ先生は私の涙を唇で掬い、また無理をさせてしまったと私に謝って。
必ず、貴女もお腹の子も助けます、と言ってカカシ先生は出て行った。
朝と夜、カカシ先生は私に他愛もない事でも話してくれる。時折、進展があったと嬉しそうにこどものように笑う。
一週間後、奈良家の巻物の中から妊娠中の病気に有効な薬剤と術の幾巻かが見つかり、医療忍らが大騒ぎをしていた。
私の主治医は忍び出身ではなかったから、その事に気付かなかったのかもしれない。浮足立つ医師団の元へ、それらはシカマルによって届けられた。
私の枕元で、父親に教えられた薬の効用や作り方などを医師達に説明する声に、明らかな成長を感じて私は思い切り褒めてやりたかった。
先生、オレは元気な先生と討論したいんだ、とシカマルが私の手を少し力を籠めて握った。必ず、先生とお腹の赤ンボ助けてみせっから。
主治医とシカマルは、奈良家の研究室に移動し研究を続けるという。有り難う、私なんかの為に。その日の夜、カカシ先生は息せき切って走って来ると私に縋り付き、助かる方法が見つかったと泣いた。一日も早く貴女と俺の息子を助けたいから、今から行って来ます、と疲れ切った様子なのに私に口づけを落とすと頬を撫で、息子なんですよ、絶対貴女に似た黒髪の可愛い子ですから、と私のお腹に手を当てゆっくり立ち上がった。
カカシ先生は何処に行くのか、方法とはどんな。
入れ違いに息を切ったサクラが入って来て、嬉しそうにまくし立てた。
先生、先生、助かるって、助かるって。
おしゃべり好きのサクラの少し高い声は煩いが、頭の回転が良いので説明上手である。
奈良家の巻物に書いてあったのは、妊娠が継続しがたい場合に、ある物を媒介にして術を発動させること、それを維持する為に薬を服用することであったという。
私のような症例もあったので詳しく調べてみると、その例の人は無事出産したという事で、カカシ先生はその術を掛けられる人物を探しに里の外へ出て行ったのだと判った。ただその人は全く消息が掴めず、ただひたすら自国他国問わず、探し回らなければならないという。
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