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遠くから鐘の音が聞こえ、授業終了なので間もなく来ますと教頭がカカシに告げた。
終了が少しずつずれたらしく、まばらに本や巻物を手にした教師達が戻って来た。イルカを見付けたカカシが声を掛けるより早く、教頭が話し掛けていた。
遠目にイルカの全身を眺める。カカシに比べれば遥かに頼りない、細く小さな体に忍びらしくしなやかな動き。
子猫だな。
口の中で呟いた言葉が気に入った。イルカをそう呼んで、全身を撫でてあげたい。舐め回してオレを突っ込みたい。
あらぬ妄想に下半身がうずき出したが堪える。さあ微笑みを準備して。
漸くイルカがカカシの側にやって来た。丁寧に頭を下げたが、少し不安そうな顔をしていた。
「取って喰うわけじゃありませんから。」
嘘だよ、これから喰うんだよ。
教頭に言った事を再度言うと、自分の指導が悪かったのかとイルカの肩が下がった。
あれれ、そんなつもりじゃなかったんだけど、とカカシは戸惑ったが反って好都合だと思い直す。
優しく懐柔すればいい。飽きるまで、オレなしにいられない位に可愛がってあげよう。
カカシは自分の感情に疎く、恋と言ってはみたものの肉欲に結び付けて考えていた。純粋に心が求めているとは思わなかった。
イルカはカカシとは一線を引き、身分をわきまえた対応は知り合ってひと月どころか、三ヶ月たっても全く変化がなかった。
知り合えば必ず女から関係を求めて来たのに、とカカシのプライドを刺激したのか、いつしかイルカを目が追うようになった。
一度だけ、部下の子ども達を交えてラーメンを食べに行ったがそれだけで。
イルカの人となりを聞いてみると苦労をしていても綺麗な性格で、つけこまれて騙されてばかりだという。それでも恨みも言わず、いつかいい事が纏めてやって来るからと笑う人なのだと、子どもにさえ心配されるのだ。
取り敢えず手に入れてみたい。気に入ったら側に置いて自分専用にするのもいいだろう、と思ったがアスマには言える筈もない。
捨てる事になったら面倒だから、長期任務に逃げるかねえ。

適当に理由を作り出したがこれで暫くは誘えると、カカシは夕飯の約束を取り付けまた待機所に戻った。
アスマは呼び出されて、既に里を離れていた。半月は帰れない、ならば今の内にイルカに手を出してしまいたい。処女の匂いが垂れ流しだもの、いつオレ以外にヤラれちゃうか心配で、とカカシはにやついた。

アカデミー職員の終業時間を定時で上がりイルカが呼びに来るまでの間、カカシは愛読書の主人公にイルカを重ねていた。
「お待たせしました。」
イルカが待機所の扉の外からカカシに声を掛けた。
「いいえ、約束が楽しみで過ぎる時間に気付きませんでした。」
最高にいい人ぶったカカシに、イルカは恥ずかしそうなそぶりを見せた。
何て可愛いんだ、子猫ちゃん。と舌舐めずりをしてカカシは細い肩に手を置いて歩き出した。その手を気にしながらも外せと言い出せないうぶなイルカに、いちいち可愛すぎると肩の手に力が入った。
「今日はもう宜しいのですか。」
待機の事を聞くのか。
「待機も時間が決められているんですよ。オレは昨日の昼から今日の昼までが当番でしたから、お役御免です。」
修業したかったでしょうあいつらには悪かったんですが、これも役目ですからね。と優しい上忍師を演じて。
「それよりさっき教頭先生に何か言われてたようですが、オレが誘ったのは不味かったのではないですか。」
俯いてイルカが顔を染めた。
「いえ、苦言も叱責も受け止めて、きちんと対応しなさいと言われただけです。」
私が悪いのですから、とちらりと上目使いにカカシを見てすみませんとまた頭を下げる。
いいからご飯にしましょ。と小さな背を押して入ったな豪華な作りの個室にえっ、とイルカは入り口で立ち止まった。手を引いて座らせると、カカシに困った目を向けた。
「私、払えません。」
ろくな給料ではないと知っているから此処にしたのだ。恩に着せるつもりで。
「オレが誘ったんだから勿論奢ります。気になるなら、次はイルカ先生が奢ってくれたらいいよ。」
「次はって、」
「だってイルカ先生、子ども達の話が聞きたいでしょ。」
ゆっくり話してあげるよ。と餌を蒔いた。
今日は食事がメインだ。デザートにいただきたいのは子猫ちゃんだけど、まだ我慢出来るよ。
額宛てで左目は隠したままだが顔を晒したカカシにイルカは釘付けで、あまり箸は進まない。
「オレの顔を見たからには逃がさない。」
薄ら笑いの本音にイルカが怯える。
「嘘です、でもイルカ先生には子ども達だけでなく、オレも知って欲しいんですよ。」
あいつら酷い事言うでしょ、と優しい笑顔のカカシにイルカの心は溶けた。
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