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しかし、ある日イルカが犬を拾ったの、と笑った事で二人のツキアイが発覚した。
アパートでは動物が飼える筈もなく、不思議に思いながらその話しを聞けば内緒、と含み笑いをする。深く追求せずに終わりになったその夕方、上忍師達の受付での話題がまさにその犬の事だったのだ。
いわく、とうとうカカシも飼い犬になったか。首輪を着けて大人しく御主人様に付いて歩いてるぜ。
ほら来た、と扉を振り向くとイルカがカカシと話をしながら入って来た。皆で一斉に、気配を消してさりげなく注目する。
「はい確かに。報告書はお預かり致しましたので、結構ですよ。お疲れ様です、ゆっくりして下さい。」
歩きながら受け取ったイルカは、尻尾を振る大型犬の頭をよしよしと撫でてハウス!と犬小屋を指す飼い主の顔をしていた…と皆は思ったのだった。

まだ七班が帰って来ない。外の木々では、もうすぐ日が落ちるよ早く帰ろう、とわしわしみんみん蝉が煩い。
僅かに身じろぐだけでしたたり落ちる汗を拭きながら、イルカはテストの採点に夢中になっている振り、をしていた。
難しい任務ではない筈だが流石に遅いと積もる不安を振り払うように、紙をめくる手はいつもの倍以上の速さだ。
遠くからバタバタと聞こえる足音はナルトだ、とイルカは顔を上げて受付所の扉を凝視する。
「終わったってばよー!」
泥だらけで笑う顔に安堵し、イルカは肩を大きく上下させた。続いてサクラが汚れた手では顔が拭けないと文句を言いながら、サスケは眉間に深いしわを寄せ口を尖らせながら、イルカの前に立つ。
気温が高く泥は乾き始めたが、歩く事により流れる汗でまた溶けている。
イルカは汗と泥が流れる三人の顔を、まずサクラから拭ってやった。
三人とも怪我はないね、と聞けばサスケが戸口に目をやり、あいつのお陰で助かったからとカカシを見遣る。
え、と俯き壁に寄り掛かるカカシを見れば、三人以上に泥だらけだった。
何があったの。呟きに、顔を上げてイルカを見る。
いえ別に。と微かに笑い、カカシは報告書を持った手をイルカに差し出しながら近寄る。血の臭いがしない事に安心するが、受け取るイルカの手は強張り震えてしまう。しかしその報告を読んで、イルカはばたりと机に突っ伏した。
何があった。周囲の緊張も高まり、イルカを見つめる。
突然の高笑い。立ち上がり、イルカはカカシの手を引いて歩き出した。
「帰りますよ。」
スタスタと立ち去る二人を見送り、扉が閉まる音に皆一斉に正気に戻った。
脱力したままの部下を置いて、採点途中のテストも置いて帰る程の事とは。
サクラが、ベンチの隅に汚れた服を気にしながら腰掛けて、説明を始めた。
つまり捕獲対象の犬に遊ばれて湿地に迷い込み、底無し沼に三人とも足を取られたのだと。同時に三人を抱えて抜け出す為に、カカシはどれだけチャクラを使った事か、と。
湿地は自然公園の中にあり、やたらと術が使えずカカシはかなり苦労しただろう事は、その姿で伺えた。
「でもさ、何でイルカはいきなり帰ったんだろう。」
と隣に座る男が、カカシの提出した報告書を手に取った。はあぁ?
間抜けな声にそれを覗き込めば。
―危険を予測できなかったのは自分の責任だ。怪我がなかったのは、運が良かったからだ。迷惑をかけて申し訳ない。

「あの人、いつもこんな風なのかい。」
尋ねられて、ナルトは大きくうなづいた。
「自分の事は、いつも最後なんだってば。怪我してても、なあんも言わねー事もあるんだよな。」
「そんな時は、俺達がイルカ先生に耳打ちしておく。」
と素っ気なく、しかしイルカ先生、と言う時だけは表情を和らげてサスケが続けた。
「カカシ先生って、意外な程遠慮深いんです。感情表現もすっごい下手だし。でイルカ先生って、自分に向けられる感情には鈍いでしょう?」
と同意を求められて、受付に座る者達は大きくうん、とうなづいた。
だから言わなきゃ解らないんです、とこども達は笑った。
ここ見て下さい、と指さされた報告書の隅には。
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