4

4 結納
カカシとイルカの結婚報告の件は、箝口令が敷かれていたにも係わらず、その日の内に忍び全てに伝わった。当然だ、忍びである。
そして、二人に対する風当たりも強いものとなった。
イルカには、カカシに懸想する女達からの妬みと嫌がらせが。
カカシには、忍びとして最高の地位を持ち、更に火影のお気に入りを手に入れて怖いもの無しになるという嫉妬で。
受付のイルカの元には毎日違う女が現れ、あたしの家には今でも泊まっていくのよとか、お腹にはカカシの子がいるのよとか、結婚しようって指輪をくれたのよとか、言いたい放題であった。
はあ、と気の無い返事を返せば女達も調子に乗るもので、殆どはただの妄想に過ぎなかったのだが。本当に付き合ったという者もいたが、『上忍のカカシの女』という名前が欲しかったにすぎず、そんな関係は幾日ももたなかったのは当たり前だ。
たとえ嘘でも半月も続けばイルカも我慢の限度を越える。精神的には強いと自負していたが、とうとう授業中に倒れた。
カカシは一人浮かれていた自分を恥じた。飛び飛びに里を離れる任務をこなしていたから、イルカの状態に気付くのは無理な話ではあっただろうが、それでも予想出来た事だったのに、と悔やまれた。大丈夫ですよ、と青い顔をして笑うだけのイルカだったから余計に辛かったのだ。
勿論カカシの元へも、引っ切り無しに女達が押しかけていた。イルカに取られるのは惜しいと。そう、隣の芝生は青いどころかきらきら光るのである。しかしカカシにはイルカしか見えないから、どんな美女でも芋か南瓜であった。
それよりも、名声も実力も手の内にあるカカシが、火影のお気に入りでそこそこ可愛く忍びとしても腕の立つイルカを手に入れたとなれば、おめでとう、との声ばかりでは無い事に困った。
危険な任務の時に、組んでくれる者がいない。また、組んでもカカシなら一人でやれるだろうと手を抜かれる。感情があるんだから仕方ないけど、男の嫉妬も醜いねぇ、と溜息も出るものだ。
イルカは倒れてからも平常通りに授業をこなし、受付にも座っていた。カカシも言い訳一つせず、一人で黙々と任務をこなしていた。
イルカやカカシの友人達もそれなりに気を使い、頭も手も使い、二人を庇ってくれた。せめて二人だけの時間を少しでも多く作ってやろうと火影に内緒でシフト調整し、果てはカカシの任務の人員構成にまで手を付けて、とうとう火影にばれたりもしたが、口頭注意だけで終わったのは火影にも思うところがあったのである。
改めてカカシとイルカの親しい仲間達を呼び出して言うことには。
二人の気持ちを確かめたかったのだ、と。辛いだろうが黙って見守るだけにしろと言われ抗議はしたのだが、やはり誰もが二人には幸せになって欲しいと、身の安全は保証すると断言されて渋々従う事にした。
暫くはまだ二人への風当たりは強かったが、任務には真摯に向かうそれぞれに気が付けば味方が増え、そうして二人の努力により騒ぎが漸く収まった頃、火影は先だって呼び出した二人の仲間達を再び呼び出して、ある計画を告げた。
「二人の結納を行いたい。」
ざわ、と空気が動いたと思った途端、火影の執務室はそれこそ蜂の巣を突いたようになった。イルカの同僚で、万歳三唱の音頭を取る者もいる。
「許していただけるのですね。」
と少し震える声で、カカシの仲間の美女が言う。傍らの大男の目も赤い。
「もとより許すも許さないも無い。」
と素っ気なく言って立ち上がり、窓の外を見る振りをする火影の背中が寂しそうに見え、イルカを可愛がってきたその人の心中を思うと、二人には必ず幸せになってもらわなければ、と皆願うばかりだった。
結納には両家の近しい親族が揃わなければならない。しかし二人には親族はいない。
火影は一切を取り仕切る仲人になることから、年若い友人達を双方の親族代理に指名した。木ノ葉の里で家族同然に育って来たのだからと。
そしてつつがなく式は終了し、晴れてカカシとイルカは婚約となったのだった。
イルカの左手の薬指には、小さな緑色の石の付いた指輪が光る。戦闘の伴う任務の時でも外さず、敵に見せ付ける余裕さえあったという。
そして新しいカカシの手甲の、甲を守るプレートにはそれぞれの名前が刻まれていたのを、やはりこれみよがしにひらひらと振っていたのだという。
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