命名
なかなか名前が決まらなかった。生まれてから半月近くの猶予があるとはいえ、出生届は早く出さなければならない。名前がないのは可哀相だし。
カカシは焦っていた。初めての、自分のこども達の、名前。イルカが命名権を譲ってくれたけれど、こんなに難しいものだなんて思わなかったのだ。
溜息は一日中続く。
「三十七回。」
何だよ、煩いな。とアスマに顔を向ければ、
「此処に来てからの溜め息の回数よ。」
と紅がその向こうから笑う。欝陶しいわね、と。
名前が決まらなくて悩み続け、心此処に在らずという事で任務からも外された。まさか自分でもこんなに自制出来ないとは思わなかったとカカシは落ち込んだが、構わないさと皆は返って喜んでくれた。
名前は親からの最初の贈り物だから、思い切り悩め。愛はこれ以上篭められない、という程注ぎ込め。
人生の先輩達は、町中至る所でカカシに声を掛けてくれる。自宅で産後の休養をとるイルカの為に、体力をつけろと食べ物を持たせるは、数はあった方がいいとこども服をしかもお揃いのを二枚渡すは、と自宅にはお祝いが山積みに為った。
期待されている、とカカシは余計に緊張していた。変な名前は付けられない。占いやらに手を出そうとして、カカシはとうとうイルカに叱られた。
大きくなってこども達に名前を付けた理由を聞かれたら、何て言うんですか。
よしっ、と一晩中徹夜してカカシは漸く満足した名前を考えついた。
先に生まれた白い髪の娘には、はたけミナミ。美しい波飛沫の意味で。
後に生まれた黒い髪の息子には、はたけホナミ。実る稲穂の波の意味で。
共にイルカのように心豊かに育って欲しいと、心からの願いだと、カカシは恥ずかしそうに父親として初の大役を終えて目の下を窪ませて笑った。
初めてその名前を呼んでみれば、生後十日あまりの二人が嬉しそうに微笑んだ、ようだった。
親子四人で帰宅して、カカシはまずイルカにひれ伏してお願いをした。パパと言わせるのだけは、恥ずかし過ぎるのでやめてくれ、と。イルカは笑った。いいですよ、私も恥ずかしいから。
結局、普通にお父さんお母さん、と呼ばせる事にした。でも、この子達が選ぶんですからね。嫌だ、そんな柄じゃない。
そんな平和な日々はすぐに終わりに為ってしまったのは、家庭内第一次大戦の勃発による。―別名育児戦争。
寝る飲む泣く出す、かけることの二。だがイルカには影分身は出来ない。
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