5

身なりを整えたイルカを従え、カカシは子どもを抱えて外へと走った。既に仲間達が城の中の忍び達を潰した後のようだ、邪魔は入らない。
流石です、とイルカは微笑んでやはり上忍は違うんですねと感心した。
「何が?」
「経験値の差ですよ。でもそれだけではなく皆さん尊敬します。」
手放しで誉めてくれるのがカカシにはくすぐったい。

城の外で待つ二人の上忍が気絶したままのお館様を地面に転がしているのを見て、カカシも連れて来るのを忘れたと思い出した。犯人若しくは首謀者は、生死に拘わらず連行する事で任務は完了だった。
「カカシはイルカがいりゃいいんだもんなあ。」
いやあ若いもんは血の気が多くていけねぇ。のんびりと煙草を加えたまま、仲間達は伸びをして最後の仕上げをするかとイルカを促す。
何の事やらと首を捻るイルカに、
「どっかーん、だよ。」
と振り付きで説明した。
「お前、罠も専門だろ?」
イルカは思わずうなづいたが、今はそれを知る者は少ない筈だと眉を寄せると、
「オレもいたんだよ、あそこに。」
とにっこりと人好きのする顔が当時を思い出させた。
「あ、忘れていてすみません。」
と慌てて頭を下げたイルカに、カカシもいたぞと告げそうだこいつもと、つまり全員があの時いたのかと気付けば、イルカは恥ずかしいと後ろを向いてしまった。
「私のせいで、皆さんにご迷惑をお掛けして。」
「何の事だよ、あん時ゃお前に助けられたんだから、オレらの命の恩人だろ。」
懐かしい。あの時、この指を痛めたせいで私は教師になる決意をしたのだけれど。
イルカは右手の小指を擦りながら、優しい笑みをその上忍に向けた。と、上忍はイルカの仕草に気付いて煙草を銜えながらカカシを振り向いた。
「言っていいか。」
「えっ、待て、まさかあの事を。」
「なあイルカ。お前を助けた奴が誰か、知ってるか?」
まさかの質問に驚き、イルカは目を泳がせてカカシを見ようとはしない。それが答えかと、二人の上忍はオレ達は邪魔したのか仲人なのかと苦笑した。
「右手、治ってないんだろ。貸してみろ。」
元は医療忍だった一人がイルカの手を取り、はあっと掛け声を掛けた。
小指が白く次に金色に光り出し、熱く痺れる感覚がイルカを僅かに不安に陥れる。
やがてそれも収まり、イルカがじっと小指を見詰めたままでいると。
「握ってみろ。」
言われて恐る恐る右手を握り、イルカは驚きのあまり小指が、と大声を出した。握れる、痛くない。嬉しくてお辞儀をしたままぽろりと涙を溢す。
「ありがとうございます。」
「これで印が組めるだろ、片付けちまおうぜ。」
と男達はイルカの起爆札を城の外壁に何十枚と仕掛け、街に被害が及ばないように出来るだけ大きな結界を張った。
連鎖起爆の罠の応用だ。
イルカは目をつむり、札に籠めたチャクラを全て確認し連結爆破の順番も追ってみた。
「よし。いきます。」
と気合いを入れたところでカカシに後ろから抱き込まれた。
「イルカを無傷で帰すって約束だから、全身全霊を掛けて俺が守る。」
背中に当たるカカシの胸が温かく、イルカは守られているんだと無駄な力が抜けていくのが解った。
印を組む。自由に動く指は、久し振りに組む印を忘れてはいなかった。
最後の一つ、そして一瞬の間。

轟音と共に、豪快に城は崩れ落ちた。
ずん、と地響きが先に来た。
直後の爆風と閃光は結界を突き破り四人を襲ったが、上忍二人は事前に後方へ退いており、風に煽られただけで済んでいた。幸い城は高台にあり、風塵は街へ舞い降りたものの、瓦礫による直接的被害はないようだ。
カカシとイルカは飛ばされそうになりながら、何とか足を踏ん張って持ち堪える。
舞い上がる埃や砂は体中を直撃し、目や鼻や口へと容赦なく侵入する為、カカシはそれから守ろうと小さな結界をイルカにだけ張って抱き込んだ。
やがて砂塵も治まり、辺りは何事もなかったかのように静まり返った。
上忍達が駆け寄りカカシ達に無事か、と話し掛ける。男三人は顔を見合わせて、終わったと満足気な笑いを見せた。
「まだですよ。ここの人達の毒を抜いてからでないと。」
「それは任務外だろ?」
「火影様の許可は得て来ています。」
おいおいと肩を竦める男達に、イルカは有無を言わせない。
「我が儘を申しますが、人の命が掛かっておりますので。」
「アカデミーはどうするんだ。」
という問いに、お忘れですかとにっこりする。
「もうすぐ夏休みですよ。」
イルカの残りの授業は、他の教師達に振り分けられているからと。
人質の子どもを迎えに来ていた、長付きの忍びの娘にイルカは案内を頼んた。
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