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「お前の女に手を出して写輪眼で殺されたかねぇよ。」
と笑われて二人は違うとムキになり更に笑われた。本気なんだろとカカシはこっそり耳打ちされて、多分と答える。
「この任務で俺も答えを出すつもりだ。」
「ならば心して掛からなきゃな。」
男達はイルカの頭の上で、決意を籠めた目を交わした。
街中で城を見上げる位置に佇んでいると四人に声が掛けられた。芸が出来るなら小屋に出ないか。
小屋をもつその男は看板に駆け落ちされてカスしかいねえんだ、と少々焦り気味だった。
「ちょっと見せてくれや、良かったら今夜やって欲しい。」
胡散臭いと返事をしないでいると、男はお館様がいらっしゃるんだよ、芸人がいないじゃ済まされないんだ、と泣きそうな顔で城を振り返る。
棚から牡丹餅だ。四人は男の後を付いて歩く。
よかった、芸人らしく見えるって。イルカがほっと息を付くと、肩にカカシの手が置かれた。軽く見せてやりましょう、と言われて忍びである事が変な時に役立つものなんだと笑った。
見世物小屋の芸を見た事があるという上忍がいたので、全てその指示に従う。
イルカを的にして、目隠しをした一人が体に当てないように手元も見えない速さで短剣を投げる。最後に頭に乗せた林檎を貫くのは定番だ。
軽業はイルカがカカシの上で片脚で立ったり逆立ちしたり、投げられて空中回転で降り立ったりと華やかに。
異国の武道の組み手だと男二人で見せた技の、なんと見事で格好の良い事か。
小屋の、親方と呼ばれる男は非常に喜んで、賃金は何割か増しにしてやると言った。
「女はもう少し肌を出してみろ、お館様に気に入られたら側女だ。」
芸人は体も売る事がある。小屋を持たない旅の者は日銭をそうやって稼ぐ方が多いのだ。
イルカもそう思われたのだが、見初められればいい機会だ。躊躇いもせずイルカは下着を脱いだ。
薄い服は体の線をあらわにし、はちきれんばかりの年頃の娘の色気を漂わせている。
カカシは上着をイルカの肩に掛け、やたらと誘われないようにと注意するが、当人はまるで無頓着だ。絶対に守ってやるというカカシの拳は、結果としてこの夜一晩中握られていた。
親方の宣伝がきいたのか、小屋は観客で一杯になった。一段高い桟敷にそのお館様が家来と共に座った。
芸人の話に依ると、位と権利を金で買った成り上がりだという。成る程いやらしい顔だと、四人は眉を寄せた。
小屋がハネた後、イルカ達は近くの茶屋に呼ばれた。芸者の騒ぎに身の置き所がなくイルカはカカシに隠れるように部屋に入ったが、お舘様は自ら手を引いて隣に座らせた。肩を抱かれて姿勢を崩し、イルカはその脂ぎった顔を間近に見る事になった。
明日わしの元へ来い、と酒臭い息で囁かれ腰に手が回る。顔をそむけたそのうなじを舐められ、イルカは気持ち悪さに鳥肌が立ったが笑って頷いた。

悪酔いしたみたい、とイルカは思いながら明るい太陽の下、城へ向かう。
勿論カカシも同行するがその胸中は穏やかではない。お舘様の目的がイルカの体であると明白だからだ。
例えくのいちとして訓練されているとしても、その裸体をあんな親父に晒すのかと思うと、耐えられそうにない自分がいる。
イルカはいざとなったら幻術でも体術でも使いますよ、と笑ってみせたがあんたが喘ぐ姿を見せられる俺の身になってくれ―とも言えず、その前に呼んで下さいとだけ言うとあとはもう黙り込むしかなかった。

品の悪い、広いだけの城の中をやたらと歩かされた。頭の中で組み立てながら、カカシは全体図を小鳥に写し仲間達に送る。
雇われの忍び達はいたが確かに雑魚だ。こうして歩きながらでも殺せる程度だとカカシは思うが、今は人質の捜索に集中しなければならない。
その先がお舘様のお部屋です、と案内する娘はカカシに色目を使い、イルカは過剰に笑って返すカカシが気に入らない。
こんな時にと怒る自分も、カカシに嫉妬させている事には気付かないのだが。
お舘様の部屋もまた広かった。続きの間の襖は開け放たれ、既に布団が敷かれていた。微かに芳香が漂うのを嗅ぎ、イルカは口の動きだけで麻薬だとカカシに教える。
「催淫剤も使われています。かなりきついのですが私には薬があるから大丈夫、一刻も早く人質を探して下さい。こどもを盾に使うなんて、本当に許せません。もしその子がずっと此処にいたとしたら…死んでいてもおかしくはないでしょう。」
え、と瞠目したカカシにイルカは、この城全てに毒が回っていると告げた。
「あまりにも微量なので、土に水が染み込むように徐々に侵されています。先程の娘さんも…。慣れてるカカシさんは全く感じないでしょうが、お舘様という男もかなり侵されています。解毒も効くかどうか、ぎりぎりの範囲です。」
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