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子どもらを通しての初対面の挨拶は、うん確かに初対面同士らしかったな。
でもそのうち言ってくれるかな、と思いながら今まで来たしもう今更無理だよなあ、俺から言い出すタイミングも失ったし―と引き擦る脚はちょっと重かった。

さあ行こうか、と門の前で顔を合わせて目的地までの行程を確認し走り出す。皆知った顔だとホッとして、イルカは最後尾に付いたが途端に怒鳴られ肩を竦める。
「今狙われるとしたらあんただイルカ、俺に付け。」
カカシの声に大きく返事をし、イルカはその右後方に位置を変えた。
よし、いいぞ。カカシは自分の感覚的視界に入ったイルカを確認する。いつでも守れるようにと。
ありがとうございます、と聞こえた。
必ず守るから、と呟く自分にカカシは驚く。どうも本音が出ちまうもんだ。
その日一日掛けてその地の近くに辿り着いた。野営で夜を明かしながら、翌日からの相談をする。
走りを合わせてくれたのを知っているからせめて食事をと、イルカは食用の草花を簡単に料理して疲れが取れるようにと願う。滋養と休養を。
交代の見張りからイルカは外された。何故、と言うより早く周辺の草木を見て来いと命令され、それが自分の役目だと知る。土が毒に侵されていないか、麻薬の元の草が生えていないかなどを調べろというのだ。
勘が鈍ったな、と唇を噛み歩き出す。先を読んで言われる前に動くんだよ、自分。
「まぁた一人で。駄目でしょ、俺と一緒でなきゃ。」
カカシが後ろに張り付いて、片手で軽くイルカを抱き込む。突然の行動に振り向いて見上げれば、素顔を晒して笑っている。
久しぶりの素顔だと見詰めれば、ほんのり顔を染めたカカシがイルカから目を逸らした。
「何ですか、何か顔に付いてましたか。」
「いい男っぷりですね。惚れ惚れしちゃいました。」
密着したままでイルカはくすりと笑った。
「緊張をほぐしてくれてありがとうございます。」
するっとカカシの腕からすり抜けると、イルカは正面を向いて頭を下げる。可愛いなあとカカシの目は細められるが、笑いながらもその言葉は厳しい。
「単独行動は厳禁。あんたは俺とペアなんだから、何かあったら俺の責任になるんだよ。気を付けてくれないと、」
迂闊でした、とまた頭を下げようとすると、続く言葉にイルカは鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。
「約束を破る事になるかもしれないでしょ。一緒に帰ろうって。」
阿吽の呼吸は俺とだけでいいんです。この先は俺だけを見て下さい。
任務でなければなんと甘い言葉だろうか、しかしイルカはカカシの自分を守るという決意に一瞬でも気が抜けないと悟り、改めて約束の重さを知った。

どうやって潜入するかで揉めた。普通に忍びらしく夜遅く一気に襲撃すべきだと言われたが、イルカは人質の詳細が解らずにいては動けないと反論した。
―んなもん、行きゃ解るしオレ達は上忍だよ。
―簡単に奪還出来るとは思えません。
―だからお前がいるんだろう。
―はい?
―人質の替わりになれ。
―なんだって、勝手に決めるなよ。
―カカシが口を出す事か、隊長はオレだ。
―ふざけんな、仲間を何だと思ってる。
―大丈夫です、覚悟はしています。
―しかし。
―人質は一般人ですから早く救出しないと。
―お前よく解ってんじゃん、決まりな。
―ならイルカは俺が守る。
―当たり前だろ、オレ達で人質を連れ帰るから後は宜しく。
―敵はどうするんですか。
―ああ、城の忍び達は潜入した時にやるつもりさ。雑魚を雇ったと情報が入ったから、それはオレ達二人で充分だろうよ。
―簡単に言うなよなぁ、人質を取り戻すのそう易々と出来る訳ないだろ。
―カカシらしくないな、女連れが原因か。
―いや、毒を心配してるんだ。お前らがやられたらと思うとな。
―ばっかやろう、お前の連れは専門家じゃねえか、解毒してもらうさ。
―なんか言う事支離滅裂なんですけど、カカシさん。
―ああ、こんな奴らなんだよ、本当は。まあいい加減だけど腕は確かだし、決してイルカを見殺しにする訳じゃない。
―おいおい誉めてんのかけなしてんのか、なあイルカお前も気を付けろ、阿呆が移るぞ。
―…もう充分移ってます、皆さんから。
―言うなあ、これなら大丈夫だよな。

結局どうするのか詳細はうやむやのまま、取り敢えず、旅の途中の流しの芸人という扮装で里に入った。
男三人の希望で、イルカは普通の女性の服を着る。なんだか恥ずかしい、と晒された脚を見て荷物で隠そうとすると、皆が綺麗だからいいじゃないかと言う。生まれて初めてかもしれない、女として見られたのは―と少し嬉しかった。
カカシを見ると、同行する二人にしっしっと手を振り、触るんじゃねえと牽制している。
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