2 妊娠
くちん、と可愛いくしゃみが聞こえた。アカデミーの職員室で、イルカは鼻を擦っている。
「風邪かなあ、アレルギーかなあ。」
怠い体に気合いを入れるるべく、よしっと拳を握る。そんなイルカにくすりと笑い、
「この間の野外演習からずっとですよね。」
と副担任である新任の若い男が言った。
初めてよこんなに酷いの、と少し赤い鼻と目でイルカは答え、立ち上がった。すうっと血の気が引いて、目の前が暗くなる。あ、と思う間もなく意識を失って、イルカが気付いた時には保健室に寝かされていた。
貧血のようだけど。ちゃんと食べていないでしょう、と聞かれてイルカはうなづいた。だって花粉症が辛くて食欲が無いんだもの、と友達でもある保健医にぶうたれると、イルカの瞼の裏を反し爪の色を見て舌を出させて、鉄分不足じゃ動けないでしょうと、その頬を引っ張った。
検査しときなさい、と紹介状を渡されてイルカは素直にアレルギーを治したいと思った。
今年はいきなりだもんねえ、と一人呟きまたくちん、とくしゃみをしたのだった。
数日後、帰宅の早い日に病院に寄り血液を取られ、また数日後に結果を聞くために予約を入れて、イルカは買い物のために商店街に寄っていた。
カカシによるお持ち帰りからはや二ヶ月が過ぎたが、二人は本当に結婚するための準備を進めていたのだった。しかしアカデミーのある里の中心部からカカシの家までは距離があって通勤出来ないと、今はイルカのアパートにカカシが住みついていた。近くに家を買いましょうかとあっさり言われて、イルカは稼ぎの違いを再認識したのだった。
夕方の商店街に佇み、イルカは今夜の献立を考えていた。静かに後ろから抱き込まれて、イルカは苦しいと文句を言うがカカシは久し振りに帰ったのに労りがないと頬を擦り寄せてくる。
あんたは猫か、とイルカは溜息をつきながらカカシの頭を撫でる。
そのカカシはくん、と鼻を鳴らしてイルカに問う。病院に行って来たの。
消毒液の微かな匂いがよく覆面して判るよなあと感心しながら、イルカは説明する。血を取って来ました、アレルギーの検査です、と。しかし貧血で倒れたことは言えない。それこそ入院だ何だと煩いだろう。
「お帰りなさい。無事でなによりです。」
と笑いかけながら、イルカもカカシの匂いをくん、と嗅ぐ。
血の匂いはしないよね、とカカシと同じ事をしているのにイルカは気付かない。似た者夫婦への道まっしぐら。
さて検査結果が出る日。
イルカはどうせ花粉症だろうと高を括っていた。
しかし、花粉症ではあるが数値は高くないので他の原因を考えた方がいいだろうとカルテを持たされ、イルカは病院の中をさ迷った。
婦人科に着いた時は、イルカも口をへの字にして不機嫌極まりない。此処に用はないんだけどな。
お小水を取って来て下さい、という指示に従って診察を待つ。名前を呼ばれて診察室に入ると、年配の女医に椅子を勧められた。問診して触診して内診して、にっこり笑ってさらりと告げた。
「妊娠ですね、三ヶ月目に入ってますよ。おめでとうございます。」
イルカははい、とうなづいてから目を見張った。
「先生、何と言いましたか。」
女医はカカシとの事は知っていると、籍だけでも早く入れるようにと言う。あのね。くすぐったそうに女医は笑って小声でイルカに囁いた。
「驚いて。双子なのよ。」
驚いた。
イルカはそう呟いた。
だって気が付かなかった。生理が来なかった事さえ忘れていたなんて。アタシって馬鹿。
ううん、カカシ先生と居るだけで幸せで、それだけで良かったから。それ以上のお願いなんかしちゃいけないと思っていたから。だって。
イルカは泣いていた。涙は止まらない。
お父さん、お母さん。アタシ、これ以上ない位幸せです。
とうとう声を上げて泣き出したイルカをぽんぽんと叩いて宥めて、女医は生まれるまで面倒見るから何でも相談してね、と更にイルカを泣かせたのだった。
どうにも泣き止まないイルカの為にカカシを呼んだが、妊娠だと聞いてその足で火影の元に入籍に行ったというのは偉いと。しかも立ち会いの署名人に頼んだとは流石上忍だと、間違った認識でカカシは語られていた。ただ火影が、既成事実が先だとは何事だと怒ったご機嫌取りだったのだが。
くちん、と可愛いくしゃみが聞こえた。アカデミーの職員室で、イルカは鼻を擦っている。
「風邪かなあ、アレルギーかなあ。」
怠い体に気合いを入れるるべく、よしっと拳を握る。そんなイルカにくすりと笑い、
「この間の野外演習からずっとですよね。」
と副担任である新任の若い男が言った。
初めてよこんなに酷いの、と少し赤い鼻と目でイルカは答え、立ち上がった。すうっと血の気が引いて、目の前が暗くなる。あ、と思う間もなく意識を失って、イルカが気付いた時には保健室に寝かされていた。
貧血のようだけど。ちゃんと食べていないでしょう、と聞かれてイルカはうなづいた。だって花粉症が辛くて食欲が無いんだもの、と友達でもある保健医にぶうたれると、イルカの瞼の裏を反し爪の色を見て舌を出させて、鉄分不足じゃ動けないでしょうと、その頬を引っ張った。
検査しときなさい、と紹介状を渡されてイルカは素直にアレルギーを治したいと思った。
今年はいきなりだもんねえ、と一人呟きまたくちん、とくしゃみをしたのだった。
数日後、帰宅の早い日に病院に寄り血液を取られ、また数日後に結果を聞くために予約を入れて、イルカは買い物のために商店街に寄っていた。
カカシによるお持ち帰りからはや二ヶ月が過ぎたが、二人は本当に結婚するための準備を進めていたのだった。しかしアカデミーのある里の中心部からカカシの家までは距離があって通勤出来ないと、今はイルカのアパートにカカシが住みついていた。近くに家を買いましょうかとあっさり言われて、イルカは稼ぎの違いを再認識したのだった。
夕方の商店街に佇み、イルカは今夜の献立を考えていた。静かに後ろから抱き込まれて、イルカは苦しいと文句を言うがカカシは久し振りに帰ったのに労りがないと頬を擦り寄せてくる。
あんたは猫か、とイルカは溜息をつきながらカカシの頭を撫でる。
そのカカシはくん、と鼻を鳴らしてイルカに問う。病院に行って来たの。
消毒液の微かな匂いがよく覆面して判るよなあと感心しながら、イルカは説明する。血を取って来ました、アレルギーの検査です、と。しかし貧血で倒れたことは言えない。それこそ入院だ何だと煩いだろう。
「お帰りなさい。無事でなによりです。」
と笑いかけながら、イルカもカカシの匂いをくん、と嗅ぐ。
血の匂いはしないよね、とカカシと同じ事をしているのにイルカは気付かない。似た者夫婦への道まっしぐら。
さて検査結果が出る日。
イルカはどうせ花粉症だろうと高を括っていた。
しかし、花粉症ではあるが数値は高くないので他の原因を考えた方がいいだろうとカルテを持たされ、イルカは病院の中をさ迷った。
婦人科に着いた時は、イルカも口をへの字にして不機嫌極まりない。此処に用はないんだけどな。
お小水を取って来て下さい、という指示に従って診察を待つ。名前を呼ばれて診察室に入ると、年配の女医に椅子を勧められた。問診して触診して内診して、にっこり笑ってさらりと告げた。
「妊娠ですね、三ヶ月目に入ってますよ。おめでとうございます。」
イルカははい、とうなづいてから目を見張った。
「先生、何と言いましたか。」
女医はカカシとの事は知っていると、籍だけでも早く入れるようにと言う。あのね。くすぐったそうに女医は笑って小声でイルカに囁いた。
「驚いて。双子なのよ。」
驚いた。
イルカはそう呟いた。
だって気が付かなかった。生理が来なかった事さえ忘れていたなんて。アタシって馬鹿。
ううん、カカシ先生と居るだけで幸せで、それだけで良かったから。それ以上のお願いなんかしちゃいけないと思っていたから。だって。
イルカは泣いていた。涙は止まらない。
お父さん、お母さん。アタシ、これ以上ない位幸せです。
とうとう声を上げて泣き出したイルカをぽんぽんと叩いて宥めて、女医は生まれるまで面倒見るから何でも相談してね、と更にイルカを泣かせたのだった。
どうにも泣き止まないイルカの為にカカシを呼んだが、妊娠だと聞いてその足で火影の元に入籍に行ったというのは偉いと。しかも立ち会いの署名人に頼んだとは流石上忍だと、間違った認識でカカシは語られていた。ただ火影が、既成事実が先だとは何事だと怒ったご機嫌取りだったのだが。
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