十一月 その一
ナルトとアスマの誕生祝いの翌日から毎日、イルカはカカシの家へ通っていた。今日も辺りを夕闇が包み始め、商店街からは食欲をそそる匂いが漂う。
アカデミーの帰りに自分の夕食を買って、カカシの家に寄るのがこの一週間あまりでイルカの日課となっていた。
あの日、カカシ先生は何故私なんかにこれを渡したんだろうと、今日も又思いながら手の中の鍵を見る。渡された鍵は合い鍵なぞではない、マスターキー。
それに戸惑いながらも、失くしちゃいけないと先日サクラにお土産にと貰った青い二頭の硝子のイルカのキーホルダーを付けた。
チリ、と鳴った鈴の音で玄関の向こうからトトト、という音が聞こえ、ドアを開けるとそこにはちまっとした犬が一匹。嬉しそうに尾を振りイルカを待っていた。
「遅いぞ。三分の遅刻だ。」
ああもう、可愛いったらありゃしない、とイルカは横柄な態度にもかかわらず、その犬にごめんねえと下手に出て甘やかしまくる。
言い訳はいいから早く来いとばかりに先に立ち、奥へ歩くが後ろの左足は力が入らず、軽く引き擦っている。イルカは眉を潜め、聞かされた怪我をした時の状況を思い浮かべてしまった。だがこの忍犬は同情するなとぴしゃりとイルカに言い放ったので、以来一度も話題に上る事はない。この犬はカカシの八匹の忍犬のリーダー格なので尚更だろう、けれど。ほだされやすいイルカは、夜は寂しかろうと夕食を一緒に取る事に決めたのだ。そして朝は出勤前に寄って朝食を共にし、という生活を始めた。当初は犬も殆ど動けなかったので家の中でじっとしていてくれたが、今では外に出たい、つまらないと煩い煩い。
イルカは昼休みにも来なきゃならないのかなぁ、と溜め息をついたがこれから年末に向けて忙しくなるので、朝も夜も時間通りどころか来られるかも怪しいのだ。どうしようかと、悩む時点で既にイルカは決めているのだけれど。
小さな座卓のある、殺風景な居間に落ち着く前にイルカは犬の分の食事を用意し、食卓で共に食べ始める。イルカが今日の出来事を話すと、犬はうんうんと喜んで聞いてくれる。代わりにイルカはカカシの思い出など聞いてやって、一人と一匹は親友になったのだった。カカシが羨ましがる程の。
「カカシ先生はいつ帰ってくるのかな。」
と壁のカレンダーを見上げて、イルカは呟いた。犬はおや、と耳を動かしそっとイルカの様子を窺った。
食後のお茶を啜るイルカは、どこか辛そうな寂しそうな顔をしている。
「どうした、いきなり。」
「だって、私何も聞いてないから…。」
と俯くイルカは不安じゃないのと犬に聞くが、いつもの事さ、と脇で丸くなる忍犬はお前の方が心配なんだろうと笑って
「かなり遠くに行ったようだからな。」
としか言いようがない。確かに何も解らないまま待つのは辛いだろう、と犬は思う。
事実、イルカはいつも仕事に支障をきたす程になるのだ、本人は全く自覚しないままに。それでも今は犬の世話と云うシゴトがあり、気が紛れているからいいのだが。
何かあればワシも口寄せされる筈だ、と慰めに言えばイルカは目を見張り、そうよね、と笑って心から安心したような顔をした。
犬はしまった、と思ったが表情が表れにくい自分の顔に感謝した。イルカは気が付かなかったようだ。カカシが口寄せ出来ると云うならば、別に自分が此処に居る必要もない程に回復している事を。
更に一週間たち、イルカは何かに追われているかのように、仕事と犬の世話に没頭していた。しかし日に何度もカカシの不測の事態を想定し、その度に繰り返し打ち消しもしていた。
そしてカカシの家に行く度に犬は居るけれど本人は居ない、と云う現実がイルカの心配に拍車を掛ける。
とうとうイルカは疲労困憊で、ある晩カカシの家で倒れてしまった。とにかく働き詰めで、忍犬は何度も断ったが、やはりイルカは回数を増やし昼休みにもカカシの家を訪れていたのだ。
「なんか怠いの、風邪引いたかなあ。」
と土気色と言ってもいいような顔をされては、犬もやる瀬ない。
「医者に行った方が良くないか。ワシはもういいから、気にせず…。」
「カカシ先生が私に貴方を頼んだんですから、最後まで居させて下さい。」
と犬の言葉を遮りイルカは懇願した。私は大丈夫、お願いですから。
そんなに意固地にならなくても、と犬は思ったがイルカが居てくれるのは正直嬉しい。イルカの頬にその顔を擦り寄せ、解かったありがとう、とお礼を言った。
ナルトとアスマの誕生祝いの翌日から毎日、イルカはカカシの家へ通っていた。今日も辺りを夕闇が包み始め、商店街からは食欲をそそる匂いが漂う。
アカデミーの帰りに自分の夕食を買って、カカシの家に寄るのがこの一週間あまりでイルカの日課となっていた。
あの日、カカシ先生は何故私なんかにこれを渡したんだろうと、今日も又思いながら手の中の鍵を見る。渡された鍵は合い鍵なぞではない、マスターキー。
それに戸惑いながらも、失くしちゃいけないと先日サクラにお土産にと貰った青い二頭の硝子のイルカのキーホルダーを付けた。
チリ、と鳴った鈴の音で玄関の向こうからトトト、という音が聞こえ、ドアを開けるとそこにはちまっとした犬が一匹。嬉しそうに尾を振りイルカを待っていた。
「遅いぞ。三分の遅刻だ。」
ああもう、可愛いったらありゃしない、とイルカは横柄な態度にもかかわらず、その犬にごめんねえと下手に出て甘やかしまくる。
言い訳はいいから早く来いとばかりに先に立ち、奥へ歩くが後ろの左足は力が入らず、軽く引き擦っている。イルカは眉を潜め、聞かされた怪我をした時の状況を思い浮かべてしまった。だがこの忍犬は同情するなとぴしゃりとイルカに言い放ったので、以来一度も話題に上る事はない。この犬はカカシの八匹の忍犬のリーダー格なので尚更だろう、けれど。ほだされやすいイルカは、夜は寂しかろうと夕食を一緒に取る事に決めたのだ。そして朝は出勤前に寄って朝食を共にし、という生活を始めた。当初は犬も殆ど動けなかったので家の中でじっとしていてくれたが、今では外に出たい、つまらないと煩い煩い。
イルカは昼休みにも来なきゃならないのかなぁ、と溜め息をついたがこれから年末に向けて忙しくなるので、朝も夜も時間通りどころか来られるかも怪しいのだ。どうしようかと、悩む時点で既にイルカは決めているのだけれど。
小さな座卓のある、殺風景な居間に落ち着く前にイルカは犬の分の食事を用意し、食卓で共に食べ始める。イルカが今日の出来事を話すと、犬はうんうんと喜んで聞いてくれる。代わりにイルカはカカシの思い出など聞いてやって、一人と一匹は親友になったのだった。カカシが羨ましがる程の。
「カカシ先生はいつ帰ってくるのかな。」
と壁のカレンダーを見上げて、イルカは呟いた。犬はおや、と耳を動かしそっとイルカの様子を窺った。
食後のお茶を啜るイルカは、どこか辛そうな寂しそうな顔をしている。
「どうした、いきなり。」
「だって、私何も聞いてないから…。」
と俯くイルカは不安じゃないのと犬に聞くが、いつもの事さ、と脇で丸くなる忍犬はお前の方が心配なんだろうと笑って
「かなり遠くに行ったようだからな。」
としか言いようがない。確かに何も解らないまま待つのは辛いだろう、と犬は思う。
事実、イルカはいつも仕事に支障をきたす程になるのだ、本人は全く自覚しないままに。それでも今は犬の世話と云うシゴトがあり、気が紛れているからいいのだが。
何かあればワシも口寄せされる筈だ、と慰めに言えばイルカは目を見張り、そうよね、と笑って心から安心したような顔をした。
犬はしまった、と思ったが表情が表れにくい自分の顔に感謝した。イルカは気が付かなかったようだ。カカシが口寄せ出来ると云うならば、別に自分が此処に居る必要もない程に回復している事を。
更に一週間たち、イルカは何かに追われているかのように、仕事と犬の世話に没頭していた。しかし日に何度もカカシの不測の事態を想定し、その度に繰り返し打ち消しもしていた。
そしてカカシの家に行く度に犬は居るけれど本人は居ない、と云う現実がイルカの心配に拍車を掛ける。
とうとうイルカは疲労困憊で、ある晩カカシの家で倒れてしまった。とにかく働き詰めで、忍犬は何度も断ったが、やはりイルカは回数を増やし昼休みにもカカシの家を訪れていたのだ。
「なんか怠いの、風邪引いたかなあ。」
と土気色と言ってもいいような顔をされては、犬もやる瀬ない。
「医者に行った方が良くないか。ワシはもういいから、気にせず…。」
「カカシ先生が私に貴方を頼んだんですから、最後まで居させて下さい。」
と犬の言葉を遮りイルカは懇願した。私は大丈夫、お願いですから。
そんなに意固地にならなくても、と犬は思ったがイルカが居てくれるのは正直嬉しい。イルカの頬にその顔を擦り寄せ、解かったありがとう、とお礼を言った。
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