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はじまりの九月 その二
「イルカ先生、あたし達どうしたらいいんですか?カカシ先生がこんなんじゃ任務に行かれません。」
冷たい目でカカシを見遣り、サクラがイルカに言う。自分のせいでもあるとイルカには鼻の傷を掻き、苦笑いして
「取り敢えず受付で簡単な、午前中で終わるようなものを貰っておいで、お前達三人でも出来る事はある筈だから。カカシ先生が何でもなければ途中からでも行ってもらうし、私もお昼までは時間が取れたから見てあげられるかも知れないし。」
と指示を出すと、何か受付で言われたら私の名前を出しなさいとサクラに言い添えて、頑張れよと手を振った。
さてと、と呟きイルカはカカシを見詰めた。寝顔が可愛いんですけど、と思って知らず笑みが零れた。いやこのままじゃいけないんだ、病院に行った方がいいよな。
イルカはカカシの頬に手を当て、耳元に小さめの声を掛ける。普段から声が大きく、煩いと言われているので意識しなければ、カカシを起こすどころかまた気絶させてしまう。
「カカシ先生、起きて下さい。カカシ先生。」
「まだ起きねーかってばよ、カカシ先生。イルカ先生、いつもの猫探しがあったから行ってくるってば、俺達だけで大丈夫だから気にしないでいいぞぉ。」
走って来たナルトが偉いだろうと威張るので、頭を軽く叩いて送り出してやる。

倒れた侭のカカシは身じろぎもしない。
どうしよう…起きないよ。脳震盪起こしたかな、病院に連れてった方がいいよね。でも私には無理だし…。
イルカは自然とカカシの髪に手をやり、その癖はあるが意外に指通りのいい、白銀の髪を梳いていた。カカシも気持ちがいいのか、体の力を抜きイルカに全てを任せたような顔をしている。
ぼーっと覗き込んでいるイルカに声を掛けて来たのは、カカシと仲が良いと言われるアスマだった。
「ようイルカ、何朝からこんなトコで盛ってんだ。」
少し離れた所から、自分は関係ないという態度見え見えのアスマがニヤニヤしている。
「盛っ、見て判りませんか、この状況。」
イルカは少し怒りを含んだ言い方をしながら、赤くなり横を向く。
恥ずかしいけれど実はちょっと嬉しかったりするイルカだったので、心の中を見透かされたような気がして、いつものような軽い反応が出来なかったのだ。
「いやどう見てもイチャパラだろ。おーいカカシ、生きてっかあ。」
とアスマは近付き、足の先でカカシの腹の辺りを突いた。
「なっ何するんですか、カカシ先生頭を打ったみたいだから、病院に連れて行きたいと思ってたのに。」
思わずイルカはカカシの頭を抱き込んで、アスマから庇ってしまった。
「おいおい、よく見てみろ。いびきかいて寝てんだろう? こいつゆうべ個人的に任務が入ってな。俺と飲んでた時に連絡が来て出てったから、一睡もしてねーんじゃないのか。お前も知っての通り、カカシはチャクラが上手く溜まんねえから、すぐ寝ちまうんだよ、何処でもな。」
アスマが二人の側にしゃがみ込み、カカシの鼻を覆面の上から摘んでほらな起きねーだろ、とイルカに笑いかけた。
あーホントだ、と至近距離からカカシを覗き込んだイルカは、カカシの寝息を聞いて肩の力を抜きアスマに顔を向けた。
「じゃあ病院には行かなくていいんでしょうか?」
心配そうに眉を寄せたイルカの肩を叩くとアスマは声を出して笑い、そんな柔なタマかよと一蹴して、暫くは絶対起きないから寝かせる場所を提供してくれと頼まれた。
周囲を見回したイルカは、倉庫と特別教室ばかりのアカデミーの二階にベッドも畳も無い事に思い当たり、首を横に振った。
「あ、でも、内緒なんですけど。」
とイルカは声を潜め、古い巻物だけを収納してある書庫は二人並んで座れる位のソファがあるんですと、アスマに耳打ちした。
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