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十三
媒介は施術者の命だ。
カカシ程の力があれば、寿命を全て使い切る事はないだろうが、半分は賭けだったんだ。先生、アンタの気の持ちようで結果は変わったかもしれねぇんだよ、ああ悪いな、変な事言って。
だがな、アイツを見ていて本当の男だと思ったし、そんな奴が自分の命はいらないと言い出してよ、そこまでカカシを惚れさせたアンタならと、俺は巻物を渡してやったんだぜ。
媒介は施術者の命。
奈良上忍の言葉を繰り返して理解しようと努めたが、言葉は上滑りして意味を為さない。
バイカイハセジュツシャノイノチ。
でな、はっきり言うが、カカシは命を削った。どうせ俺達忍びは長生きできねぇと思っているから、まぁたいした事じゃ無いんだろうが、それでも年単位の命の削り方だ。半端な気持ちじゃ出来やしねえ。
おい先生、泣くなよ。俺が泣かしたみたいじゃねえか。じゃ、また。生まれたら赤ンボの顔見せてくれや。
ドアの閉まる音と共に部屋の中に静寂が戻り、私は押し寄せる様々な感情の波に耐え切れず、声を上げて泣き出してしまった。止まらない。
バイカイハセジュツシャノイノチ。
媒介は施術者の命。
何故カカシ先生は、その事を言ってくれなかったのだろう。それを聞いたら私は。私はきっと、カカシ先生を止めた。
自分の命を差し出してでもお腹の子を助けようと思うのは、父親としての無償の愛か。
ああ私もこの子だけは助けてと、思ったのだ。
カカシ先生は、命を削ってこの子を助けてくれた。だから私はその意志を、この子に伝えなければならない。
この先何が起こっても、私一人になっても、この子は守り育てよう。
生まれる事が許されたこの子を、私は産む事が出来る。この腕に抱いて、幸せを与えたい。いつか見た親子のように。生まれて来てくれるのだから、それだけでいい。
カカシ先生の為にも元気な子を。
思うさま泣いて、疲れて、私は眠くなって来た。意識が沈んでいく中、私の内からまた声が聞こえる。
母さん、父さん、有り難う。ボクは、生まれていいんだね。ボクは。生まれていくよ。
そしてカカシ先生は、チャクラの回復の為、ただ眠り続けた。
私の為に使った力は相当量だったからと、日向様はカカシ先生の様子を見に来てくれた。
今までに無い限界近い程のチャクラの量だったから少々心配でと、ヒナタに無理に連れてこられたように装うが、細めた目尻のシワには慈しみが見えて、私達は支えられて生きているのだと実感する。
眠り続けるのは術の影響では無く、ただ写輪眼の酷使による疲労だという。心配は無いと言われて、また涙が滲む。
カカシ先生が眠り続けて何日たったか。相変わらず私の生徒だった子達は、毎日のように来てくれる。が私の隣のベッドで眠るカカシ先生には目もくれないのが、少し哀しい。
お腹の子は、話し掛けられて動くようになった。私は少し太ったかもしれない。点滴は続けられ、食の細い私が食事を美味しいと思うようになって。
カカシ先生が目を覚ました時には、私はもう何処から見ても妊婦だった。
第一声は、素敵です。
かなり恥ずかしかったけれど、カカシ先生が膨らんできたお腹を撫でると、にゅるりと向きを変えぼこっと蹴られるのが手に伝わって、びっくりして手を離す、その光景が嬉しい。
幸せな、これが普通の家庭なのだろう。この幸せが何時までも続けばいいのに。胸が締め付けられる。
眉を寄せた私を見て、カカシ先生が話し出す。
命を削るというのが、いつどんな風に現れるのかは俺は知りません。何歳まで生きられるなんて事も判りません。明日倒れて死ぬかもしれない。けれど、綱手様は、思いの強さが寿命に反映するやも知れないと言いましてね。
俺は腰が曲がるまで生きますよ。貴女と一緒にね。
大きく温かな手は私のお腹に当てられ、またこどもが動いた。少し蹴りが強く、痛い。
それから、ごめんなさい。この子が、俺の罪を許された証しだと思ってしまいました。俺は狡いんです。
私は俯きかけたカカシ先生の頬に両手を当て正面を向けさせると、笑って言った。
与えられたら与えるものですよ、ね。
その一言で理解出来たのだろう。カカシ先生は、ふわりと私の体に腕を回し、優しく口づける。
ではこれからずっと、俺と俺の息子を宜しく、奥さん。
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