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十一
こんな難しい人探しなど、カカシ先生のような人でなければ無理なのだろうと、私は純粋に思っていた。この人探しに、カカシ先生の決意が籠められているとは知らなかったのだ。
私はまだ動けない。指一本思い通りにならないまま、ただ時がたつ。私の体なのに、目覚める為のすべを知らない。お腹の子を撫でて遣りたいのに。
私の為に元教え子達は入れ代わり立ち代わり訪れ、話し掛けてくれる。こんな私でも皆の役に立っていたのだと言ってくれる。
女の子達の想像力の逞しさには驚いたけれど。私のお腹の子。どっちに似るんだろうと、それだけで半日語れるなどと、まだまだ夢見る少女達を理解しきれなかった私は、呆れるばかりだった。
私の点滴に、奈良家秘伝の薬が混ぜられた。血行を良くして胎児に栄養を送り込むようにと。成分を聞かされた時には、私は変化の術が上達するかもしれないと思ってしまった。鹿の角、すっぽんの血、牛の睾丸、熊の胆、など他にも動物かも判らないイキモノ。聞かなきゃ良かったと思ったけれど。
引きずるような足取りの、かなり疲労の色の濃い主治医の様子が伺えて、私は何事があったのかと背中が冷えた。
珍しく私の脇の椅子に座って背を丸めた主治医は、カカシ先生から連絡があって直ぐさま奈良、秋道、山中家の当主達が迎えに発ったという。いや、ベテラン上忍達が揃って出迎えるなどとは、国主並みの偉い人なのかと私も緊張する。そして到着次第日向家の当主もこちらへ赴く手筈となれば、動けない私はどうすれば、いやどうしようもないが、どうしようとしか思い付く言葉は無い。
ほっとしたような主治医は、椅子に腰掛けたまま眠り始めたようだ。体が揺れているのが判り、迷惑を掛けている事に心が痛む。
あれから半月はたったか。私もこどもも、こうして生かされている。皆が私達の為に、動いてくれている。有り難う。
心が満たされ、温かく感じて、私はゆっくり眠りにつく。
人の気配で目が覚めた。複数の、しかもこんなに重く鋭い気配は上忍達のものだろうか。
カカシ先生の声が聞こえた。只今戻りました。顔色もいいし、貴女はまた綺麗になりましたね。母親はこどもの為に綺麗になるなんて、狡いですよ、俺の為に綺麗になって下さい。
私の顔は赤く染まっているだろう、この人は段々羞恥を忘れていくのかわざとやっているのか。温かな口づけは無駄に長かった。
カカシ先生は、経緯を説明し始めた。
うちの薬は医者より効くって評判だけど、とシカマルが言い出した事。不可能だと決め付ける前に何故努力をしないと、ナルトがカカシ先生を責めた事。それが始まりだった。
ならば、と取っ掛かりを奈良家に求めた。そしてそれは正解だったのだ。術に依って命を守るという、言ってしまえば簡単なものだったから。但しそれはこどもの父親でなければ発動しないし、効果は得られないのだという。奈良家の巻物には不完全な施術方法しか載っていなかった。
それは医療忍の中でも最高位に立つ、たった一人にしか掛けられないもの、いやその人が完成させた術だったから。
でね、貴女も懐かしいと思う人なんですよ。くすりと含みを持たせた笑みを見せ、カカシ先生は言葉を切った。
綱手様です。
本当に、臓物が口から出るのではと思う程、私は驚いた。懐かしいなんて言葉で片付けられる訳が無い。小さい頃はよく構ってもらった。父母に連れられ、危険の無い任務では誰でも捕まえて遊んでもらったのだが、特に綱手様は私の性格が気に入ったと、こども相手に本気で喧嘩をするような人だったのだ。
ずっと、綱手様の事は思い出さないようにしていた。父母に繋がる思い出が多すぎるからと。
しかし今は、懐かしいと思うだけである。綱手様はお元気でいらっしゃるのだと、心は弾む。
連れて来るつもりで、猪鹿蝶の方々にもお口添えをお願いしたのですが、今更帰れる訳がないとか何とか、頑固に言い張るのでね。と残念がって、カカシ先生は頭を掻いた。
貴女には会いたがっていましたが、俺が悪かったようですね。
カカシ先生は、私とお腹の子の事を話した途端殴り飛ばされたのだと言って、口布をしていて助かったと笑った。
術は難しい印の繰り返しで時間も掛かるが、写輪眼でコピーは出来たから正確に出来れば必ず私達を助ける事が出来ると、言う声が震えている。
俺は、今程写輪眼を持っていて良かったと思う事は無いと、私の手を自分の頬に寄せ呟いた。
本来ならば、と術の発動方法の説明を始めたのは、そこに集まった日向、秋道、奈良、山中家の当主の為であろう。被施術者、つまり術を掛けられる妊婦がいて、施術者、こどもの父親がいる。直接印を組んで術を掛けるのはこの父親だが、印が複雑で長いので、開発者である綱手様を見ながら一緒に印を組まなければならないのだという。
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