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十七
今日は月に一度の、下忍のこども達の査定の日である。査定をするのはイルカでそれを元に評定をするのは上忍師達だが、イルカの評価によりこども達の将来が決まる、と言える程重要だと思っている。
査定の時には、ひとつずつの積み重ねが大切だよ、とイルカは必ず言う。その意味が理解出来るようになってきたナルトは、以前より確実に状況判断が早く的確になり、失敗が少なくなった。
そんな風に各班がお互いの短所を補い、長所を生かせるようになるまで半年近く。 長いような短いような、半年。
そろそろ私もお役御免かな。
根拠はないが、なんとなく判ってしまった。近い内に中忍選抜試験を行うと発表され上忍師達の様子をうかがっていると、実戦に重点を置くつもりだと気付いたのだ。
今なら、彼らは中忍になれるかもしれない。
「二ヶ月後だ。」
にやりと火影は笑った。
受からなくても構わんぞ、と上忍師達とイルカに言う。
そうですね何事も経験です、と笑って返す彼らはやはりこども達を受験させるつもりなのか。イルカの眉間に皺が寄る。
「そんなに心配ですか、イルカ先生。」
ぼうっとしていたらしい。カカシがいつものように首を傾げて、イルカの顔を覗きこんでいた。
「え、いえ、そんな事は。」
カカシの視線からのがれるようにうつむいて、床を見る。自分がどうこう言える立場ではないと承知しているから。
ガイの班の子達は一年先に卒業して充分修行しているから心配ないが、ナルトは、いや他の子達もまだ―。
「あんまり心配しすぎると白髪が出るわよ。あら、肌荒れと小じわの方が先だわね。」
紅がイルカの目尻を引っ張り頬をつねって、こわばった顔をほぐそうとしてくれる。無理に笑おうとしたが、涙が溜まってきたのが判りイルカはぐいぐいと手の甲で目をこすった。
「アホか、お前は。なんか他にあんだろ、心配事。」
アスマのごつくて大きな手がイルカの頭に置かれた。小さな頃から我慢する癖のあるイルカを見守ってきたアスマには、お見通しだった。けれどその理由は言えない。
ないもん、と首を振る自分を子どものままだと思いながらも、アスマや紅に甘えてすねた態度を取ってしまう。
久し振りに相手してやろうか、とアスマに促されてイルカは校庭に出た。いきなりアスマの脚がイルカの顔の横に飛んだ。イルカは後ろにのけ反ってよけるとそのまま両手を地面に着き、ひらりと一回転。間をおかずにアスマの攻撃が次から次へと繰り出される。手刀、正拳突き、回し蹴り。イルカはよけて受けて反撃し、双方怪我もいとわずという真剣勝負だった。
慌ててカカシが止めに入ろうとして、ガイに先をはばまれた。いつもの事さ、と落ち着いている濃い顔が憎らしいとカカシはもう一度止めるために歩き出すが強く腕を掴まれ、あれがイルカのためのストレス発散方法なのだからと聞かされ驚いた。
「あいつは内に溜めてしまうだろう? 誰にも言えないならせめて暴れて汗にすればいいんじゃないのかと教えてやったんだが、まあイルカの強いことったらないぞ、凄いだろ。はっはっは。」
ガイの笑い声にカカシの力が抜けた。なんて人なんだろう、と自然に笑いが出た。親しくなって半年たつのに、まるでつかめない性格と行動。突拍子もない所はやはりナルトの慕う人なんだなあ、とカカシはガイに頷いた。
ナルトがアカデミーで狐だ問題児だと散々叩かれていた時は、アスマとガイが毎日のようにイルカの相手をしてやったのだという。ストレス発散と、しかしそれよりナルトへの憎悪がイルカに向けられたら、と二人は思って上忍にもある程度立ち向かえるようにと。
「ちょこっと仕込んだ訳だがな、イルカ自身も自分の強さに気付いていない筈だ。ここ何年も上級任務についていないからな。」
親指を立ててウインクをカカシに飛ばしたガイは、そろそろ終わらせるかと闘う二人に声を掛けた。

時刻は昼寝に最適な頃。今日は四班揃って修行の日と定められたのは、火影によるくだんの話があったからである。上忍師達は中忍選抜試験が正式発表されたなら、下忍達に伝えて受験の意思を確認しなければならない。
後頭部を掻きながら、カカシは猫背を更に丸めて歩き出した。どうすっかなあ、とは意思の確認ではなく既に次の修行についての計画である。
中忍選抜試験をかつての教え子達が受験する。イルカはもう自分の出番はないと悟り、四人に深々と頭を下げて皆をよろしくお願いします、と震える声を抑えて絞り出すように言った。
え、とその声にカカシが立ち止まって振り返った。
「駄目でしょ、最後まで見届けてくれなきゃ。」
「いえ、私は中忍試験までの、」
「ナルトがさあ、イルカ先生に見捨てられたって泣くよ。」
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