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恥ずかしげもなくよく言うわね、と気取ってみたが嬉しさが隠し切れず、下を向いてごまかしたのは恋する女心からだ。
「明日から外だってのに、カカシんとこは今日も任務こなしてたわね。」
紅はふと思い出した先程の、任務終了の報告に来たカカシ班の四人を話題に乗せた。
「休むと困る依頼主だとか言ってたぞ。まあ、あの様子なら明日には差し支えないだろ。」
おごる下忍達の実力を試すために、里の外での任務を決めた。
それからは上忍達がじかに内容を吟味し、同じ城下町にいながらも決して会わないように仕組んだ。同じ町ならば不測の事態にもお互い駆け付けやすいが、知り合いが側にいると判ると気が緩むため存在は知られないようにしておく。
下忍には難しいといっても諜報や行方不明者の捜索だから、アカデミーで習った筈の基礎が身に付いていれば出来るだろう、というのが火影を含む上忍師達の見解だった。
決定事項を言い渡されたイルカは発言権すら持たない中忍の自分に嫌気がさしたが、くよくよしていても仕方ないと、折よく誘われた新作甘味の試食会に気分転換に来てみたのだ。
しかし集まったのはイルカの教師仲間の友達とまたその友達という、殆ど知らない顔ぶれだった。
女とは此処まで図々しくなれるのかと思う程、皆は初対面のイルカに根掘り葉掘り聞いてくる。
「ねえ、イルカって最近上忍の人達と仲いいのよね。」
「ちょっと怖いけど、羨ましいわね。」
やたらと言われるこの言葉にもそろそろ慣れはしたが、正直なところ辟易していた。後には必ず別の言葉が付いてくるのだ。
「はたけ上忍なんかとも親しいんでしょ。ねえ、紹介して欲しいわぁ。」
あまりにもあからさま過ぎると思いながら、イルカは笑って答える。
「私なんか、相手にしてもらってないです。只の仕事上の付き合いです。」
「嘘っ。だって二人で歩いてるの何度も見たわよ。」
いやいやだからって…。と苦笑に変わる。個人的な事は何もない、と言おうとしてイルカは口篭った。個人的な事ばかりだったから。
あれおかしいな、任務とか評定について話した事なんかなかったわ。
一人下を向き黙り込む様子に、皆は言い過ぎたかと顔を合わせてお互いに、あんたのせいよ、あんたが聞けって言うから、と責任をなすり付け合う。
「ああ、でも懇親会がありますし、その時なら、」
「えっ、紹介してくれるの。やった、皆聞いた?」
きゃあ、と上がる声と拍手に驚き、イルカは続きを言えなくなってしまった。
成人の忍びならば誰でも参加出来る、半年に一度の懇親会はほぼ無礼講で、だからその時に自分でどうぞ、と言おうとしたのだが。
いいや、どうせ相手にしてもらえないから、その時は皆諦めてね。ごめんなさい。
眉を寄せてもじもじと所在なげな仕種をするイルカを、隣りの席で笑う者達がいた。
―いいように使われてるとは思ってないわね。
―当たり前じゃない。あんなぼけっとしたの簡単に騙せるわよ。
どうしても上忍に近付きたいからと、イルカの友達になろうと画策した。彼女らは女を武器にした任務を専門とする、という条件で中忍になれたくノ一隊。取り敢えず身分を最低限保証されて、しかし将来の保障が欲しいと玉の輿を狙うが、忍びとして生死を賭ける男達には相手にされない。それも判らないようなあまり良くない集団、と言われているが、イルカは開けっ広げでいい人達じゃないかとこの日思った。赤毛の隊長は隊長なだけあり面倒見が良く、イルカと特に気が合った。
紅はその隊の噂を聞いてはいたが、まさかイルカが利用されているとは思わなかった。そこにはイルカと仲の良い教師もいるし、楽しそうだからと気にも掛けなかった。いや、かえって安心していたのだ。

その懇親会の当日は、また下忍達の査定の日でもあった。
「イルカ、久し振りだな。皆無事に帰って来たぞ。随分心配しただろ、顔に書いてある。」
会議室に一時間も前から詰めていたのでは、どれだけ心配したのかは誰でも判るだろう。
ガイは、会議室の鍵を借りるために記入された使用許可書の時間を受付で見て、時間に厳しい自分より早く来ていたイルカに驚いた。いつも鍵を借りるのはガイだったのだ。
一人部屋の片隅で窓の外の空を眺めるイルカに明るく声を掛け、緊張を解いてやる。
他愛のない天候の話をしている内に、他の三人も相次いで入室してきた。席に着くと、相次いでこどもらの無事をイルカに伝えた。
「ちっとめんどくせー事もあったが、怪我はない。」
「あたしんとこは喧嘩もなかったわよ。」
「…一人先走ったが、何とか出来たから安心してくれ。」

力が抜けた。
しばし放心状態で返す言葉もなく、イルカは四人の顔を一人ずつゆっくりと真意を伺うように見返した。
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