5

5 ふたり
貴女の長い髪がとても好きだったと、耳元で囁かれました。
何故、と。
喉の奥がひりついて、声が出ません。言葉を紡ごうにも唇は震え、涙が邪魔をします。私は首を横に振り続け、違うの違うのと声にならない意味の無い返事を返しました。

貴女を責めている訳じゃ無いんだ。ねえ、泣かないで、俺を見て。
俺は何と馬鹿だったかと、伝える事の重大さを身をもって知ったのだ。今更なのだけれど。
この胸を切り開いてでも伝えたい、俺の想いを。ああ、なんてじれったい。
里の者達に何を言われようと、どんな拷問を受けようと、貴女を失う事に比べたら、何でもない事だ。こんな朱い左目も要らない。お願いだから、わけを聞かせて。

貴方に触れられ抱かれて、閉じ込めようとした私の想いが、体中から溢れてしまいます。
貴方が私以外の女性を抱く事が、私には耐えられそうも無いので、此処から逃げ出そうとしたのです。傷付くのが怖い、意気地無しの私でした。
でも今は誰に何と言われようと、貴方のお側に居たい、命を賭けても離れたくないと思うのは、私の我が儘でしょうか。

うん、俺達は我が儘だね。いいじゃない、一生に一度の最大の我が儘だよ。それが罪だというなら、二人で一生罪を背負っていこう。貴女の手を離さない、決して貴女を一人にさせないから。掠って行くよ、地の果てヘ。

掠って行って下さい、地の果てヘ。貴方から離れないように、私の手を引いて頂けますか。
そうしてまた私は、髪を伸ばす事に致しましょう。
貴方が好きだと言って下さったから、貴方への想いを籠めて。
貴方だけの為に。
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