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23 月齢二十一
カカシが毒にやられて、戻って来るまで丸一日掛かった。
真夜中に搬送され傷の治療を受け、毒を全て抜かれて病室に戻ったのは金色の朝日が部屋に差し込む頃だった。
幸い毒はカカシには死をもたらす程強くなかったが、チャクラ切れの体には少々耐え難いものだっただろう。その一日の間にカカシの体は毒と闘い、指一本動かせない状態に陥っていたが、飲んだ毒消しは無駄ではなく心臓の拍動を助けるには充分なものだった。
病院へ直ぐさま運ばれたカカシは、当日だけ面会謝絶となった。そして噂は忍びのほぼ全てに伝わっていた。カカシにしては珍しい、と話を聞いた者達は思った。

カカシとイルカの関係を快く思わない者は色ボケなどと後ろ指を指したりもしたが、口に出して言える筈も無い。だが、またイルカへの中傷や誹謗が始まった。
病室の前には、カカシと関係を持った女達が集まっていた。イルカの為にカカシに清算されたが、納得が出来なかった者達である。
今でもイルカさえ居なければ、独占は出来ずともそれなりに上手くやっていけたと思っていたのだ。
カカシと寝た女。それは一流であるカカシが選んだ一流の女、と云う称号だと勘違いしている者達なのである。
女達は結託し、イルカをカカシの側から追いやろうとしていた。カカシが動けない今なら簡単だと浅はかな考えの元に。
面会謝絶の札が掛かっているが、イルカは中にいる。腕の一本でも折ってやろうかと相談している内に、病室からイルカが出て来た。少し離れた廊下の隅で立ち話をしていた女達は、イルカの姿を認めると一斉に黙り目配せし合う。リーダー格と思われる上忍の女が一歩前へと進んで、イルカに言い放つ。あんたがカカシの側に居ていい訳無いでしょ、邪魔だから消えてよ。
何を言っているのだろうと、イルカは首を傾げて女を見詰める。
聞こえてるんでしょ、返事によっては殺してあげる、と段々声が大きくなるのでイルカは眉を寄せて、カカシ先生が起きちゃうから黙りなさい、と睨み返す。すっとイルカの側に寄るのはカカシの大きな忍犬だ。ねぇお前も煩いと思うよねぇ、と首に腕を回しその毛並みに頬を擦り寄せてうっすら笑う。
そして此処から先は女同士の攻防と為った。
上忍の女の脇にもう一人立ち、イルカに向かって腕を組み値踏みするようにじろじろ見ては、垢抜けない野暮ったい小娘だ こと、と吐き捨てるように言って鼻で笑った。
カカシ先生は私を選んでくれました、と相手の目を見るイルカの表情からは何も読み取れない。動揺するかと思っていたのに、と囁き合って案外したたかかも、と更に言い募る。
あんたなんか直ぐに飽きられるんだからね、カカシの摘み食いは有名なんだから、と言われるカカシも堪ったものでは無いが。
イルカは笑い顔になり、そうですね、もう飽きちゃったから私の所へ来たんですよね、と嬉しそうだ。
カカシ先生は一生私の側で私だけを見てくれるんです。無邪気を通り越した笑顔に、女達は寒気がして言葉を続けられなかった。
何故カカシは、と別の女が入院の理由を聞いたが、何故だったかしら、でもいいの私が一緒に居られるんだもの、ずっとずっと一緒に居るんだものと本当に嬉しそうなイルカに狂気を感じて、女達は無言のまま立ち竦む。
ねえ私達の邪魔はしないでね、と念を押してイルカは側の犬を撫で続ける。
得体のしれない恐怖が女達を包む。上忍ならばイルカを殺す事など簡単だろうに、手が出せない。
では皆さんお帰りください、本日はお見舞い有り難うございました。と丁寧に頭を下げて、イルカはまた病室に戻った。ドアの外には大きな忍犬が、誰も入れないぞと云うように寝そべった。
諦めて女達は散り散りに帰り始める。もう誰も何も言わない。
一人一人イルカに顔を覚えられた事には気付かなかったようだ。その後、病院に居た女達が全て行方不明になった件にイルカが関わった事は誰も知らない。そんな事、本人も記憶に無い。

イルカはただ眠り続けるカカシの側で、椅子に座りじっとカカシの寝顔を見詰め続けていた。何時間も身じろぎもせず、カカシを愛しそうに幸せそうに見詰め続ける。
ふとカカシが目を覚ますと、ほぼ半分の月が部屋の中の二人を淡く照らし出している。月は雨が近いのか朧に霞み、空気に水分が含まれてかなり冷えて来た事を知る。カカシはぎこちなく腕を持ち上げると、イルカの冷えた頬をそっと撫で、殆ど聞こえないような声でただいま、と微笑んだ。
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