六日目
お相手には毎日お会いできていますか。双方に都合がありなかなか叶わないと思いますが顔を見せる、声を聞かせる、など明日以降へ繋げる努力は怠らないようにしましょう。
また同じ事を言いますがそれが大切なのです。
お相手の心にあなたの存在を植え付けあなたが気になって仕方ないと思わせて、後は緩急付けて押していきますよ。
とりあえず今日、良い一日になりますように。
「うん、行ってきますよ。」
カカシの独り言は溜め息で締められた。
仲良くはなれたと思うが、カカシに向けるイルカの感情の質までは判らない。
「おはようございます、七班にできる任務は何かありますか。」
イルカがいると知っていたから、集合場所に子どもらを待たせてこっそり受付に来た。昨日の解散時に、明日の任務はもらってあると嘘をついて。
三人はカカシはまた寝坊だろうと疑いもしない。なんて姑息な大人だろう。
さあイルカに笑い掛ける時も笑い方が過度にならないように家で練習してきたから大丈夫。…だと思う。
「あ、カカシ先生。…お一人ですか。」
ぱっと輝いた顔がカカシの後ろを見てそのまま固まり、括った髪が尻尾のように垂れ下がってイルカががっかりしたのがひと目で判った。
「あー…その、連れてくると五月蝿くてご迷惑になるじゃないですか。」
イルカの隣で三代目がそうだそうだと頷いている。三代目、強力な味方だ感謝します!
「そうですね、もっとカッコいい任務をくれなんて騒ぎますからね。」
誰が、なんて言わなくても通じて目を合わせてくすりと二人は笑った。
「これなんですが、きっと拝命書を見たらつまんねーって叫びますよ。」
でも他のは難しすぎるんですよね、とリストを指で辿るイルカにつられて覗き込んだカカシはこれはと一つを指さした。
どれ、とカカシの手元を見ようと少し身を乗り出したイルカはカカシと額を合わせてしまった。ハチガネがかちっと当たり、二人ははっと顔を上げる。近っ、と驚きのあまり動けない。
「ごごご、ごめんなさい、あの、」
なんとか出たカカシの言葉はみっともない謝罪で、だがイルカはカカシの右目に見入って聞いていなかった。
「綺麗、宝石みたい。」
呟いてまじまじと見続ける。
カカシの右目は眠そうな目付きで判りづらいが、青みがかった濃灰色だ。間近で顔を合わせた事は何度もあるのに気付かなかったが、射し込む陽の光が辺りに反射し瞳は吸い込まれそうな紺碧に輝いている。
「えと、その、イルカ先生。手を外してもらっていいですか。」
がっしりとカカシの両頬を挟んだ自分の両手に気付き、イルカはきゃあと声を上げて勢いよく立ち上がった。がたんと倒れた椅子を直しながら、真っ赤になってイルカはすみませんと頭を下げ続ける。
そのまま顔を覆う布を下げてぶちゅっとしたかったカカシもよく耐えたものだ。内股になり下半身をさっと取った拝命書で隠し、ではとカカシが煙と共に消えた受付は何とも言えない空気に静まりかえって、誰も声を発する事ができなかった。
「…茶でも飲んでくるかの。」
何でもない何も起きなかった、と言いながら三代目がぽてぽてよろよろと去った後は嵐に包まれ、受付は一時閉鎖された。
「お前えぇ!」
「とうとう堕ちたのかあぁ、」
「全てを捨てて追い掛けろぉ、」
「癒しが取られたあぁぁ…、」
何だか解らないが見ていた者達が、任務を拝命に来た忍びすらもイルカを部屋から押し出してカカシを追えと喚くから、イルカは首を傾げながらも子ども達を待たせていると言っていた場所に向かった。
「朝から授業じゃないけど、受付はいいのかしら。」
カカシに会って何をしろと言うのだ。
待てよ、追い掛けろって…。うわ、私凄く失礼な事をしたんだ、だから謝罪で殴られてこいという訳なんだわ。
イルカの足は脇の蟻より遅くなり、時折止まるのは仕方ない。
その頃の受付は屍だらけとなっていて、中断された任務拝命も三代目が執務室に閉じ籠りしくしく泣いている有り様ではどうにもならないと、何処かの飲み屋の『只今誠意をもって仕度中』という木札がドアの外に掛けられた。
「三代目がさ、中でイルカがカカシの毒牙にかかったって呻いてんの聞こえたぜ。」
「イルカが他人に興味を持つなんて珍しいからな、もういいだろ。」
上忍が本気すぎてあんなにみっともないの、初めて見たし。
頑張るカカシの空回りはお見通し。生温い目で―いや暖かい目で見守る彼らはただ見守ろうと、口出ししたいところを我慢していたのだ。
何よりカカシの部下達には仲を取り持つ事はならないと、三代目の命を盾に脅されていたのだから。
今日イルカの出現に慌て蓮田に落ちたカカシは泥塗れでイルカに手を引かれ、アカデミーのシャワーを借りたというオチだ。
お相手には毎日お会いできていますか。双方に都合がありなかなか叶わないと思いますが顔を見せる、声を聞かせる、など明日以降へ繋げる努力は怠らないようにしましょう。
また同じ事を言いますがそれが大切なのです。
お相手の心にあなたの存在を植え付けあなたが気になって仕方ないと思わせて、後は緩急付けて押していきますよ。
とりあえず今日、良い一日になりますように。
「うん、行ってきますよ。」
カカシの独り言は溜め息で締められた。
仲良くはなれたと思うが、カカシに向けるイルカの感情の質までは判らない。
「おはようございます、七班にできる任務は何かありますか。」
イルカがいると知っていたから、集合場所に子どもらを待たせてこっそり受付に来た。昨日の解散時に、明日の任務はもらってあると嘘をついて。
三人はカカシはまた寝坊だろうと疑いもしない。なんて姑息な大人だろう。
さあイルカに笑い掛ける時も笑い方が過度にならないように家で練習してきたから大丈夫。…だと思う。
「あ、カカシ先生。…お一人ですか。」
ぱっと輝いた顔がカカシの後ろを見てそのまま固まり、括った髪が尻尾のように垂れ下がってイルカががっかりしたのがひと目で判った。
「あー…その、連れてくると五月蝿くてご迷惑になるじゃないですか。」
イルカの隣で三代目がそうだそうだと頷いている。三代目、強力な味方だ感謝します!
「そうですね、もっとカッコいい任務をくれなんて騒ぎますからね。」
誰が、なんて言わなくても通じて目を合わせてくすりと二人は笑った。
「これなんですが、きっと拝命書を見たらつまんねーって叫びますよ。」
でも他のは難しすぎるんですよね、とリストを指で辿るイルカにつられて覗き込んだカカシはこれはと一つを指さした。
どれ、とカカシの手元を見ようと少し身を乗り出したイルカはカカシと額を合わせてしまった。ハチガネがかちっと当たり、二人ははっと顔を上げる。近っ、と驚きのあまり動けない。
「ごごご、ごめんなさい、あの、」
なんとか出たカカシの言葉はみっともない謝罪で、だがイルカはカカシの右目に見入って聞いていなかった。
「綺麗、宝石みたい。」
呟いてまじまじと見続ける。
カカシの右目は眠そうな目付きで判りづらいが、青みがかった濃灰色だ。間近で顔を合わせた事は何度もあるのに気付かなかったが、射し込む陽の光が辺りに反射し瞳は吸い込まれそうな紺碧に輝いている。
「えと、その、イルカ先生。手を外してもらっていいですか。」
がっしりとカカシの両頬を挟んだ自分の両手に気付き、イルカはきゃあと声を上げて勢いよく立ち上がった。がたんと倒れた椅子を直しながら、真っ赤になってイルカはすみませんと頭を下げ続ける。
そのまま顔を覆う布を下げてぶちゅっとしたかったカカシもよく耐えたものだ。内股になり下半身をさっと取った拝命書で隠し、ではとカカシが煙と共に消えた受付は何とも言えない空気に静まりかえって、誰も声を発する事ができなかった。
「…茶でも飲んでくるかの。」
何でもない何も起きなかった、と言いながら三代目がぽてぽてよろよろと去った後は嵐に包まれ、受付は一時閉鎖された。
「お前えぇ!」
「とうとう堕ちたのかあぁ、」
「全てを捨てて追い掛けろぉ、」
「癒しが取られたあぁぁ…、」
何だか解らないが見ていた者達が、任務を拝命に来た忍びすらもイルカを部屋から押し出してカカシを追えと喚くから、イルカは首を傾げながらも子ども達を待たせていると言っていた場所に向かった。
「朝から授業じゃないけど、受付はいいのかしら。」
カカシに会って何をしろと言うのだ。
待てよ、追い掛けろって…。うわ、私凄く失礼な事をしたんだ、だから謝罪で殴られてこいという訳なんだわ。
イルカの足は脇の蟻より遅くなり、時折止まるのは仕方ない。
その頃の受付は屍だらけとなっていて、中断された任務拝命も三代目が執務室に閉じ籠りしくしく泣いている有り様ではどうにもならないと、何処かの飲み屋の『只今誠意をもって仕度中』という木札がドアの外に掛けられた。
「三代目がさ、中でイルカがカカシの毒牙にかかったって呻いてんの聞こえたぜ。」
「イルカが他人に興味を持つなんて珍しいからな、もういいだろ。」
上忍が本気すぎてあんなにみっともないの、初めて見たし。
頑張るカカシの空回りはお見通し。生温い目で―いや暖かい目で見守る彼らはただ見守ろうと、口出ししたいところを我慢していたのだ。
何よりカカシの部下達には仲を取り持つ事はならないと、三代目の命を盾に脅されていたのだから。
今日イルカの出現に慌て蓮田に落ちたカカシは泥塗れでイルカに手を引かれ、アカデミーのシャワーを借りたというオチだ。
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