番外編
トンボ玉
辛いなあ、と妊娠後期にやはり体中の神経がきりきりと痛み出したイルカは、背中の傷から来ているのは明白だと綱手に怒鳴られ、喧嘩の末に入院させられた。
それでも毎日病室から戦略をたてるためにシカクの元へ通おうとするのには、夫のカカシが入院の度に抜け出して帰宅するのと同じだと笑うしかない。
幸い今のカカシはナルトの修業が主な任務だから、イルカにへばり付くカカシに綱手は寛容だ。というか、ナルトはヤマトに任せてイルカを見張っていろと、孫でも生まれるかのように心配する。
臨月に入り、もう無茶して生まれても育つと言われたが、こういう時に限ってなかなか出てこない。だがイルカがもう今日あたり産まれるかも、と体の異変に気付き朝起きていきなり荷造りを始めて、ことりと押入れの奥から出てきたのはトンボ玉の付いた紐と小刀だった。錦の装飾のきらびやかなひと振りの忍び用小刀に、くるくると巻き付けられて封印の役目をしていた金銀の組み紐。両端にはトンボ玉。
あ、と荷造りを手伝っていたカカシは変なものを見たような抜けた顔をしていた。
懐かしい。思い出した。
小さな子ども達の留守番のお守りを、と四代目からの命令に、何で俺がと渋々行った家で見たものだ。
平和な時代だったからこそ、他里の忍びの侵入を許してはならじと中忍以上での徹底捜索が開始された。
しかし俺はまだほんの子どもで、捜索には加われなかった。
草の忍びは追われる事に気付き、忍びの家の集まる地域に押し入り子どもを人質に取る可能性があるからと、俺が保護を任されたのだ。
その家には普段から入り浸るらしく、十数人の子どもらは留守番に馴れた様子だった。
一軒家の外には至るところに殺傷力のあるえげつないトラップが仕掛けてあるし、からくり屋敷は俺でさえ迷う程面倒な作りになっていた。トイレに辿り着けず漏らした事もあると一人の子どもが笑っていた位だから、大人が詰める必要はないと判断された結果のオレの配置だったのだ。
アカデミーに通う前の子どもらは、流石に不穏な空気に気弱になっていた。だが自分達より幾つか年上なだけの俺が、中忍以上に許されるベストを着ていた事に驚きかつ喜び、俺は質問責めにあった。大人の中で生きていた俺には、こんな状態を収められる筈もない。
俺はその頃既に忍犬を二匹従えていたから、犬達には悪いと思いつつ、興味を逸らすために呼び出した。
自分達より大きな一匹はやはり男の子達の気を引いた。小さなもう一匹は女の子達が代わる代わる膝に抱いていた。
気が紛れて良かったと、最初の一時間で疲れが出た俺は、端でそれを眺めていた。
だが一人の女の子は仲間に加わらず、俺の隣に座ってありがとうとひと言だけ言うと、あとは無言で一緒に仲間達を見ていたのだ。
ああ、と心が揺らぐ。そうだ、それはイルカだったのだ。鼻傷と今と変わらない髪型だったから思い出せた。
その子が背中に装備していたのがこの小刀だった、と思い出した。通常より長めに作られたこれは、当時のイルカが背負うと大人が長刀を背負うのと同じように見えた。
組み紐は、イルカの体に邪魔にならないように小刀を括り付けていた。
まだ使えないだろうに何故背負うのか、と聞いた気がする。にっこりと、しかし子どもらしくない笑顔は忍びの家の子だと思わせるものだった、と僅かに記憶が蘇る。
彼女が何と答えたか、覚えていない。すぐ後で紐の先のトンボ玉の事を話し出したので、誤魔化されたのかもしれない。
トンボ玉は両親からの贈り物だと言わなかったか。
今手に取っているトンボ玉は、俺が贈った物と同じ意匠だ。偶然か。
イルカはもっと早く入院の準備をしておけばよかった、とじわりと体を襲う鈍痛に汗を滲ませた。
懐かしいが、見付けた小刀には今は興味はない。
カカシは生まれた子どもと共に戻ってきたら当時の事を話したいと、押し入れにまたそれをしまい込み、イルカを抱き上げて綱手の待つ病院へ向かった。
トンボ玉
辛いなあ、と妊娠後期にやはり体中の神経がきりきりと痛み出したイルカは、背中の傷から来ているのは明白だと綱手に怒鳴られ、喧嘩の末に入院させられた。
それでも毎日病室から戦略をたてるためにシカクの元へ通おうとするのには、夫のカカシが入院の度に抜け出して帰宅するのと同じだと笑うしかない。
幸い今のカカシはナルトの修業が主な任務だから、イルカにへばり付くカカシに綱手は寛容だ。というか、ナルトはヤマトに任せてイルカを見張っていろと、孫でも生まれるかのように心配する。
臨月に入り、もう無茶して生まれても育つと言われたが、こういう時に限ってなかなか出てこない。だがイルカがもう今日あたり産まれるかも、と体の異変に気付き朝起きていきなり荷造りを始めて、ことりと押入れの奥から出てきたのはトンボ玉の付いた紐と小刀だった。錦の装飾のきらびやかなひと振りの忍び用小刀に、くるくると巻き付けられて封印の役目をしていた金銀の組み紐。両端にはトンボ玉。
あ、と荷造りを手伝っていたカカシは変なものを見たような抜けた顔をしていた。
懐かしい。思い出した。
小さな子ども達の留守番のお守りを、と四代目からの命令に、何で俺がと渋々行った家で見たものだ。
平和な時代だったからこそ、他里の忍びの侵入を許してはならじと中忍以上での徹底捜索が開始された。
しかし俺はまだほんの子どもで、捜索には加われなかった。
草の忍びは追われる事に気付き、忍びの家の集まる地域に押し入り子どもを人質に取る可能性があるからと、俺が保護を任されたのだ。
その家には普段から入り浸るらしく、十数人の子どもらは留守番に馴れた様子だった。
一軒家の外には至るところに殺傷力のあるえげつないトラップが仕掛けてあるし、からくり屋敷は俺でさえ迷う程面倒な作りになっていた。トイレに辿り着けず漏らした事もあると一人の子どもが笑っていた位だから、大人が詰める必要はないと判断された結果のオレの配置だったのだ。
アカデミーに通う前の子どもらは、流石に不穏な空気に気弱になっていた。だが自分達より幾つか年上なだけの俺が、中忍以上に許されるベストを着ていた事に驚きかつ喜び、俺は質問責めにあった。大人の中で生きていた俺には、こんな状態を収められる筈もない。
俺はその頃既に忍犬を二匹従えていたから、犬達には悪いと思いつつ、興味を逸らすために呼び出した。
自分達より大きな一匹はやはり男の子達の気を引いた。小さなもう一匹は女の子達が代わる代わる膝に抱いていた。
気が紛れて良かったと、最初の一時間で疲れが出た俺は、端でそれを眺めていた。
だが一人の女の子は仲間に加わらず、俺の隣に座ってありがとうとひと言だけ言うと、あとは無言で一緒に仲間達を見ていたのだ。
ああ、と心が揺らぐ。そうだ、それはイルカだったのだ。鼻傷と今と変わらない髪型だったから思い出せた。
その子が背中に装備していたのがこの小刀だった、と思い出した。通常より長めに作られたこれは、当時のイルカが背負うと大人が長刀を背負うのと同じように見えた。
組み紐は、イルカの体に邪魔にならないように小刀を括り付けていた。
まだ使えないだろうに何故背負うのか、と聞いた気がする。にっこりと、しかし子どもらしくない笑顔は忍びの家の子だと思わせるものだった、と僅かに記憶が蘇る。
彼女が何と答えたか、覚えていない。すぐ後で紐の先のトンボ玉の事を話し出したので、誤魔化されたのかもしれない。
トンボ玉は両親からの贈り物だと言わなかったか。
今手に取っているトンボ玉は、俺が贈った物と同じ意匠だ。偶然か。
イルカはもっと早く入院の準備をしておけばよかった、とじわりと体を襲う鈍痛に汗を滲ませた。
懐かしいが、見付けた小刀には今は興味はない。
カカシは生まれた子どもと共に戻ってきたら当時の事を話したいと、押し入れにまたそれをしまい込み、イルカを抱き上げて綱手の待つ病院へ向かった。
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