夜明けまでの任務で一睡もしなかったカカシを眠気が襲う。元々待機所で眠るつもりだったから構わないが。
カカシの部屋で眠ってしまったイルカは夜明け前に帰ったらしく入れ違いで会えず、しかも朝から出勤も確認できず心配でいた。こうして腕の中にいることで安心し、緊張がほどけたのだ。
「あ、鍵返そうと思いましたが今荷物の中なんで。」
いつ会えるか解らないので綱手様にカカシ先生の予定を聞きに行ったら、引き換えに拘束で書類整理を言い付けられてました、と笑うイルカが振り返り、髪紐のトンボ玉が揺れた。
カカシは十二ヶ月表示の年間カレンダーを暫く見つめて、外に目を移した。
「これから行ったり来たりが続きます。日程は全く掴めないので、迷惑でなければ持っていてください。」
一部では効果があると人気のジンクスは、家の鍵を自分の一番大切な人が持つと必ず生きて帰れる、というものだ。カカシが聞いたのは暗部時代だから今は当てにならないが、藁にもすがりたい。
イルカに帰りたい。

数日前、上忍達は綱手に呼ばれていた。
最近平和だったのは嵐の前の静けさだったのか、巨大な何かが動き出す予兆をそこかしこで見付けた。命を預けてもらう事になるだろう、覚悟を決めてくれ、と頭を下げられた。だから。

「でも合鍵なんて、どなたかに勘違いされちゃいますよ。」
明るく言わないで、とカカシは溜め息を付きながらイルカの背に額を寄せた。
「いないよ。」
ピンと張った気が痛い。怒らせたかとイルカは無言のままで待つが、解らないならこのままでいいと、カカシは口の端を上げて笑うだけだった。
大事な人は作りたくないが、ひっそりと一人で想うだけなら迷惑は掛からないだろう。それなのにこの人の元に帰りたい、なんて矛盾だらけだ。
独り言が口をつく。
―死んじゃったら、魂だけでも帰って抱き締めてやれるかな。
イルカも独り言のように返す。
―駄目ね、魂じゃ嫌だな。死んだと言われても信じないし、現場に行って残留思念とか確かめちゃうかなぁ。
―もしも俺が死んだら少しは泣くかな。
―きっと狂って後追いしちゃうよね。
―うーんすぐ忘れて、三食きっちり取って睡眠八時間だよな。
一瞬イルカが息を止め、苦しそうに声を絞り出した。
「生きていられない。」
解らないけどカカシ先生がいなくなるの、怖くてしかたないんです。だから死なないで。
イルカも綱手から聞いたのだ。
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