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5 月齢四
夜の病院の静寂さは、声を出すことさえ憚られるような空気を張っていた。
アカデミーから搬送されて来た生徒達は、ほぼ無傷だったのですぐ帰されたらしい。イルカを助け喉を痛めた教師一人と、消火で軽い火傷を負った者達が治療をうけていた。イルカは検査の為にオレから引き剥がされ別室へと運ばれて行って、オレは一人で待ち合い室に座っていた。イルカを残して帰るなど考えもしなかった。
治療室のひとつから漏れて来た声は、先程の教師とその仲間だった。聞こえて来る会話はイルカに関してだったが、オレは我慢の限界を越えそうで、チャクラを押さえる事だけに集中していた。
…こいつらは、やはりイルカを狙っていたのだ。オレがイルカを多分処女だと思っていたように、こいつらもそこに目を付けていたのか。
オレは歯を食いしばり、ぎりと音がするまで噛み締めれば微かに血の味がした。唇が震える。
男は昼間、倉庫でイルカを犯すつもりだったらしい。そこへ生徒達が悪戯しに行ったという訳か。
あのガキどもはある意味イルカの恩人となるのだから、殺人予定リストから外しとかなきゃな、それにガキが死んで泣くイルカなんか見たくないし。
そしてこいつらは、リスト筆頭に格上げになったのだ。絶対許してやるものか。オレの手の中では小さな雷の渦が音を立てて青く光っている。こんなになるまで我慢できるオレってすごいねえと、人ごとのように呟くと、オレは両手でそれをひっそりと潰した。
イルカは大事をとって一晩を病院で過ごす事となった。何もなければ明日の朝帰れると云うので、下忍の子ども達をダシにして迎えに来る約束を取り付けた。ただひとつの不満と不安はその男も泊まる事になった、という点だったが病院という場所柄そうそう行動に出る事もないだろう。
朝、オレはかなり早起きして病院に行ったのだが、イルカは病室にいなかった。何事かと気を張り巡らせば、クソ野郎の部屋にいるではないか。そっと窺うと、男のベッドの脇に立ち笑うイルカがいた。昨日はお礼も言えなくて、と頭を下げるイルカに、当たり前の事だと男はイルカの手を握り締めた。君の方が大変だったからと、いやらしい目付きでイルカの体を舐め回す。
――今此処で殺すぞ。
男は、おもむろにオレの事を言い出した。
女にだらし無い、人を人とも思わない、任務以外は興味ない、果ては遊ばれてすぐ捨てられるから近付くなと迄言われるオレってどうなのよ、と溜息が出る。しかしイルカはきっぱりと悪口は嫌いですと、オレを信じると言ってくれた。
それを合図に迎えに来ましたと部屋に入り、男の目の前でイルカの肩を抱き、そろそろナルト達が来るからと言えばイルカは慌てて戻ろうと走り出した。くそっという声と舌打ちが後ろから聞こえて、これはめった刺しかなとオレは考えた。
退院はしたがイルカを一人にしたくなくてサクラに面倒を見させ、残る二人に修業をつけてやった。日没近くまで夢中になったなんて久し振りで気持ちが良く、そしてイルカの家では温かい夕食の匂いが待っていた。
しかし部屋の真ん中に置かれた薔薇の花束が目を引き、オレの足は玄関から動かなかった。サクラがうっとりと言う。イルカ先生を助けてくれた人がね、さっきお見舞いに来てくれたの。
イルカは照れたようにサクラを軽く叩き、恥ずかしいから止めてと俯く顔が一瞬でもあいつの事を考えるのかと、オレは嫉妬で焼き尽くされる感覚に殺しに通じる快感さえ覚えていた。
まだ早い夜の細い月は、今日はまた少しだけ太っていた。オレ達を見送りにアパートの前まで出たイルカは傾いた月を見て、カカシ先生の目は笑うとあんな感じですね、と優しく首を傾げた。月を見る度思い出してしまいます、と無意識にだろうがオレを誘うような上目使いの表情がまた色っぽい。
おやすみなさいと言って、無理矢理イルカから遠ざかるように歩き出すのは辛かった。
イルカの視界から消えたと確認して、オレはイルカを狙うクソ野郎の元へ向かった。
野郎の体なんて、例え死体でも触りたくなんかないと思ったが、これですっきりした。大門の外へ放り投げると、そいつがイルカに贈った薔薇も一輪、手向けに投げてやった。
ではもう一人の仲間も暴漢に襲われたようにでも見せて、再起不能にしてやるかね。命があるだけでも有り難いと思ってもらわなくちゃねぇ。
ああなんて楽しいんだろうねえ、ここ数日殺しの任務がなかったからホントさっぱりしたよ。このムカつきを全部あいつにぶつけたもんだから、死体はちょっと…いや正直かなり酷い事になっちゃったけどね。オレはまた笑いが止まらない程興奮している。一人で抜くのにも慣れて、上手になったと思うのはなんとなくアレだが。
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