「いやだ、何でイルカ先生に会いに行っちゃいけないんだってばよ。」
カカシの耳元で、まだ声変わり前の少年の大声が響き渡る。どこの駄々っ子だよ、と両手で耳を塞ぎながらひと通り言わせて、カカシはまた喚かれてはたまらんと一歩後ろに下がり駄目だ、と重ねて言った。誰も躾けてやらんのかね、と苛々する。
「ナルト、修業が始まったばかりの今、イルカ先生に会ってどうするつもりなんだ?」
のんびりした低い声はナルトを落ち着かせるようだが口調は逆に追い込むもので、確たる理由もないナルトには勿論反論の余地などまるでない。イルカにも暫く会わないと告げられて、まるで家族か恋人のようにあれだけ親密にしていたのだから、ナルトの衝撃はいかほどのものかと同情できるが。
ぐっと詰まって唇を噛むとナルトは地面を見詰め、しかし一瞬ののちには顔を上げ、カカシを睨み付けて口を開いた。
「何も…。ただ会いたいだけだってばよ。」
ふう、とカカシは力を抜いた。その食らい付き方、お前は恋する乙女かと言いたいところだ。
「イルカ先生に最後に会ったのは、一週間くらい前だろう?」
と言いながら、それまで毎日会っていたのにいきなり一週間会えなくなったら…やっぱり寂しいだろうなぁ、とカカシは頬を掻いた。
うーん、と首を傾げ腕を組み、目の前の薄汚れた金髪の少年を見て、その後ろでちょっと期待しているような少女と、はすに構えながらも話は聞いている生意気な少年を順に見てから、息を吐いてカカシは両手を上げた。
「解った、報告書は皆で出しに行こうか。」
今日は下忍としての初任務だった。私用ではなるべく会わないようにと言っておいたために、イルカはナルトを避けていたが、受付ならば逃げようがないだろう。夕方のこの時間にはイルカが必ず受付所にいると知っているから、ナルトはカカシと一緒に任務報告書を出したいと言ったのだ。
やったぁ、と叫びながら走り出すナルトと共に、サスケとサクラもカカシを置いて走り出した。
それをゆっくり追いかけながら、イルカ先生は本当に特別な存在なんだねぇ、とカカシが先日のイルカを思い出し今までにない笑顔を見せた事は、誰も知らない。
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