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休暇
「やりぃ!」
夕焼けの中戻った鳥に付けられた返事を読んで、珍しくカカシが拳に力を籠めた。おやじさんは何事かとカカシの顔を見詰め、見られている事に気付いたポーカーフェイスで知られている男は目を泳がせた。
二ヶ月振りに纏まった休暇が取れたのでつい、と小さな声で言い訳しながらカカシは頭を掻いた。小さな部下達の口調が移ったなんて、ちょっと恥ずかしくて言えない。
最初の話の通り、今日の内に搬送を始める。連絡の鳥と同時に犯人達の護送に付く者達も此処へ向かっている筈だから、日が落ちた頃には準備を終えていなければならない。
奥さんとイルカは犯人達の分も握り飯を作り、立つ前に食べさせようとまた空き家に戻ってきた。
「毒なんて入ってませんからね。どうせあなた達、まともに食べてないんでしょ。」
黙って両手に一個ずつ持つ男達の姿が、その言葉に対する返事だった。
その内一人、また一人と暗部と上忍達が到着し始めた。木ノ葉の里で集めると時間が掛かるという事で、近隣にいた任務上がりの者に集合が掛かったらしい。たとえ戦闘になっても出来る自信のある、腕に覚えのつわものだけが顔を揃えた。
カカシはその面子ににやりと口の端で笑った。俺達いい仲間を持ったねぇ、と伸びをしながら聞こえる独り言を言う。
ああん、とそれを聞き咎めた男がドスのきいた声をカカシに向けた。
「どれだけ苦労してお前らの休暇の為に人を集めてやったんだか、全然解ってねえよなぁ。」
どさりと音を立てて腰をおろし、胡座をかいて膝の上に肘をつく。
「アシュマちゃんだあ。」
イルカの側から走って来たミナミがアスマに体当たりするが、大きな体はびくともしない。背中によじ登ろうとする姿は、まるでロッククライミングのようだった。
相変わらず熊だよねぇ、と言うカカシにホナミが口を尖らせて、文法上の間違いはあるけれど意味としては解るし、とイルカに同意を求めた。勉強しすぎよ、と苦笑いをしながらイルカはホナミの頭を撫でて頷いた。
総勢二十名あまり、カカシの信頼する仲間ばかりが顔を揃えた。搬送される男達にほぼ一人ずつ付く計算になる。
こんなにいらないっしょ、と言うカカシにコテツがイルカさんの為です、ときっぱりと言った。
「ご家族でのんびりしていただきたいから、砂の里までも何もせずにごゆっくりお歩きください。」
いや歩かせちゃ駄目だろ、馬とかないのかよ。とイズモが無理を言う。この二人だけはわざわざ里から文字通り飛んで来た、自称イルカの親衛隊である。今や子ども達のお守り兼教育係になっているが、それはそれで良いらしい。
遠い所をありがとうございます、と最高の微笑みでイルカは二人を労った。手渡されたお握りと温かいお茶だけで、イズモとコテツは三日分の書類を片付け通常の半分の時間で走って来た苦労が、綺麗さっぱり記憶から消えてしまった。
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