3 月齢二
今日は目が覚めると雨が降っていた。薄暗い部屋の中でオレはまたゆうべの事を思い出していた。イルカは自分からオレに向かい、歩き出した。そう自分の意志でね。
枕元の時計は朝と云うには程遠く過ぎた時間を指していたが、この雨ではろくに任務も出来やしないだろうと欠伸をしてゆっくり起き上がった。
昨日の夜一楽で別れる時に、明日は雨が降るというので待ち合わせを受付にしたのだった。クソガキどもは文句たらたらだろうな。あぁ怠い。伸びをして喝を入れると、溜まってるなあと腰を捻る。イルカの為とはいえ、禁欲生活も男としちゃあ辛いもんがある。ついでに熱も冷まそうと雨の中、オレは格好付けて傘もささずに走った。
受付の中は閑散としていた。もう昼時だったから当たり前だが。
オレの姿を見ても三人の子どもらは何も言わない。ソファに座り膝の上に広げているのは弁当だ。買って来たのかと覗き込めば手作りだ。不思議そうなオレの顔にナルトが勝ち誇ったように米粒を飛ばし、イルカの差し入れだと威張った。
そういや、イルカも話を聞いてたんだっけ。わざわざ作って持って来たのか、優しいね。
じっと見ているとナルトは弁当を後ろに隠し、先生にはやんねーと睨んでくる。えー、とちょっと本気でがっかりしていたら、サクラが差し出したのはオレの分らしい。包みの中に小さく畳んだ若草色の紙切れが差し込まれていた。開いてみればイルカの丁寧な女らしい字で、私にはこの位しか出来ませんが他に何かあればおっしゃって下さい、と書いてあった。オレの手元を覗く子どもらにしっしっと手を振り、これはラブレターだよと大事に胸元にしまい込んだ。
イルカはゆうべの事をきちんと覚えていてくれたのだ。付け込む隙を自ら与えてくれたイルカに甘えてしまおう。
ではオレもと弁当を広げると受付の野郎が一人、イルカに言付かっていますとお茶を入れてくれた。ああなんて素晴らしい女だ、やっぱりオレが目を付けただけの事はある。
昼休みは休憩だとアカデミーの鐘に合わせるように言えば、三人は、あのサスケでさえ消えるように走り出して行くではないか。こんな時だけ忍びらしいってどんなもんなんだか、とオレは笑ったね。
あらカカシ、と背中に掛けられた声に振り向けば、知らない女が寄って来る。女はソファの背凭れから近付いてオレの肩に手を掛けた。
不審そうなオレの顔に構わず笑う。キツすぎる香水と濃すぎる化粧に思わずのけ反り近付くんじゃねぇと呟けば、その女は最近あたしの所に来ないじゃない、ねえ溜まってないのとオレの腰に触ろうとする。かっとなって殴り付けようと振り向くと、入り口から顔を覗かせたイルカと目が合った。途端にオレは振り上げた手を止め、畜生と口の中で呟いて女の手を払って立ち上がった。
甘ったるい声でオレを呼ぶ女に、小声で今度声を掛けたら殺すぞと言うと、実際に殺す事はなくとも任務に出られなくする位はやると知ってるのだろう、女は青い顔で飛び出して行った。いつ寝たかも覚えていないが、オレの趣味も酷かったなあと胸糞悪くなる。
気を取り直してイルカを見ると、入り口で立ち止まったまま動かない。白い顔をしてオレを見ようともしない事に気付き、オレは失態だと自分を呪いたくなった。
イルカ先生、と明るく声を掛けるとはっとオレに顔を向けたがすぐに目を逸らして、ナルト達が食べ終わったと職員室にお弁当箱を返しに来たので、と下を向く。カカシ先生も此処で食べていると聞いたので、お口に合うか心配で来てしまいましたと言う言葉はやっと絞り出したようだった。
しかもイルカは今にも逃げ出しそうだ、あの女のせいで。
オレはイルカの腕を掴みソファに座らせ、昼休みが終わるまでねと、離さないように隣りに体を密着させて座った。今食べてたんですけどねあなたが作る物は愛が篭っているからですかね、とても美味しいですよ、と無理矢理笑顔を作りイルカの機嫌を取る自分を、本当によく我慢しているなとオレは思った。
あの女の話はしちゃいけないと本能が囁くので、知らん顔してあなたの手料理を食べてみたいですと、イルカの顔を覗き込んで言った。
毎日居酒屋か、面倒な時は食べませんしね。
え、と聞き返したイルカは、遠慮がちにじゃあ今度ナルトが来る時にお誘いしますと、ほんのり頬を染めた。よしよし、また自分からオレに手を出しちゃったよこの人。
覚えてなくても全ての女達と手は切っとかなきゃならないんだと、オレは今日学習した。殺してでも身を綺麗にしないと、イルカをまた悲しませちまうからなあ。あんな顔は二度とさせるもんかと、馬鹿な自分に誓ってイルカを絡めとる手立てを考える。
今日は目が覚めると雨が降っていた。薄暗い部屋の中でオレはまたゆうべの事を思い出していた。イルカは自分からオレに向かい、歩き出した。そう自分の意志でね。
枕元の時計は朝と云うには程遠く過ぎた時間を指していたが、この雨ではろくに任務も出来やしないだろうと欠伸をしてゆっくり起き上がった。
昨日の夜一楽で別れる時に、明日は雨が降るというので待ち合わせを受付にしたのだった。クソガキどもは文句たらたらだろうな。あぁ怠い。伸びをして喝を入れると、溜まってるなあと腰を捻る。イルカの為とはいえ、禁欲生活も男としちゃあ辛いもんがある。ついでに熱も冷まそうと雨の中、オレは格好付けて傘もささずに走った。
受付の中は閑散としていた。もう昼時だったから当たり前だが。
オレの姿を見ても三人の子どもらは何も言わない。ソファに座り膝の上に広げているのは弁当だ。買って来たのかと覗き込めば手作りだ。不思議そうなオレの顔にナルトが勝ち誇ったように米粒を飛ばし、イルカの差し入れだと威張った。
そういや、イルカも話を聞いてたんだっけ。わざわざ作って持って来たのか、優しいね。
じっと見ているとナルトは弁当を後ろに隠し、先生にはやんねーと睨んでくる。えー、とちょっと本気でがっかりしていたら、サクラが差し出したのはオレの分らしい。包みの中に小さく畳んだ若草色の紙切れが差し込まれていた。開いてみればイルカの丁寧な女らしい字で、私にはこの位しか出来ませんが他に何かあればおっしゃって下さい、と書いてあった。オレの手元を覗く子どもらにしっしっと手を振り、これはラブレターだよと大事に胸元にしまい込んだ。
イルカはゆうべの事をきちんと覚えていてくれたのだ。付け込む隙を自ら与えてくれたイルカに甘えてしまおう。
ではオレもと弁当を広げると受付の野郎が一人、イルカに言付かっていますとお茶を入れてくれた。ああなんて素晴らしい女だ、やっぱりオレが目を付けただけの事はある。
昼休みは休憩だとアカデミーの鐘に合わせるように言えば、三人は、あのサスケでさえ消えるように走り出して行くではないか。こんな時だけ忍びらしいってどんなもんなんだか、とオレは笑ったね。
あらカカシ、と背中に掛けられた声に振り向けば、知らない女が寄って来る。女はソファの背凭れから近付いてオレの肩に手を掛けた。
不審そうなオレの顔に構わず笑う。キツすぎる香水と濃すぎる化粧に思わずのけ反り近付くんじゃねぇと呟けば、その女は最近あたしの所に来ないじゃない、ねえ溜まってないのとオレの腰に触ろうとする。かっとなって殴り付けようと振り向くと、入り口から顔を覗かせたイルカと目が合った。途端にオレは振り上げた手を止め、畜生と口の中で呟いて女の手を払って立ち上がった。
甘ったるい声でオレを呼ぶ女に、小声で今度声を掛けたら殺すぞと言うと、実際に殺す事はなくとも任務に出られなくする位はやると知ってるのだろう、女は青い顔で飛び出して行った。いつ寝たかも覚えていないが、オレの趣味も酷かったなあと胸糞悪くなる。
気を取り直してイルカを見ると、入り口で立ち止まったまま動かない。白い顔をしてオレを見ようともしない事に気付き、オレは失態だと自分を呪いたくなった。
イルカ先生、と明るく声を掛けるとはっとオレに顔を向けたがすぐに目を逸らして、ナルト達が食べ終わったと職員室にお弁当箱を返しに来たので、と下を向く。カカシ先生も此処で食べていると聞いたので、お口に合うか心配で来てしまいましたと言う言葉はやっと絞り出したようだった。
しかもイルカは今にも逃げ出しそうだ、あの女のせいで。
オレはイルカの腕を掴みソファに座らせ、昼休みが終わるまでねと、離さないように隣りに体を密着させて座った。今食べてたんですけどねあなたが作る物は愛が篭っているからですかね、とても美味しいですよ、と無理矢理笑顔を作りイルカの機嫌を取る自分を、本当によく我慢しているなとオレは思った。
あの女の話はしちゃいけないと本能が囁くので、知らん顔してあなたの手料理を食べてみたいですと、イルカの顔を覗き込んで言った。
毎日居酒屋か、面倒な時は食べませんしね。
え、と聞き返したイルカは、遠慮がちにじゃあ今度ナルトが来る時にお誘いしますと、ほんのり頬を染めた。よしよし、また自分からオレに手を出しちゃったよこの人。
覚えてなくても全ての女達と手は切っとかなきゃならないんだと、オレは今日学習した。殺してでも身を綺麗にしないと、イルカをまた悲しませちまうからなあ。あんな顔は二度とさせるもんかと、馬鹿な自分に誓ってイルカを絡めとる手立てを考える。
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