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十二月 その一
もうすぐ冬休み。忍びの養成所であるアカデミーでも、こども達は年末年始は休みとなる。
休みに入る頃には、他国から入って来た文化であるクリスマスという行事が里全体を賑わす。
本来は救世主の誕生を祝う筈だったのに、いつの間にか家族の間では平和と安泰を祝い、こども達には一年間いい子でいたからと、贈り物をする風習となった。また恋人達の間では愛を確かめ合う日となってしまい、忍びまで尻馬に乗っかっているのだった。

確かに冬の寒い夜にきらびやかな電飾が醸し出すムードは最高だろうなぁ、と受付で年末年始の任務を確認するイルカは溜め息をつく。
誰だってそんな日にはシゴトしたくないからなあ。血まみれで帰って来て、ほら赤い服のサンタクロースだよ、メリークリスマス、なんて冗談じゃない。想像した自分に馬鹿な事を、と身震いする。
でも、カカシ先生はずっと、この日は毎年任務だった。と紙をめくる手が止まる。
切ない思いが胸を締め付けて、イルカはそれを払うかのように顔を上げた。そこへ、
「ようイルカ、悪いがこっち終わったら職員室へ戻ってくれ。クリスマス会議だ。」
と戸口から顔だけ覗かせたアカデミーの同僚職員が、一言放ってまた急いで走り出した。
その背中にイルカは
「ちょうど今終わるから、直ぐ行く。」
と怒鳴るように声を掛けた。走りながらイルカに手を振り、消えていく若い男は今年の進行統括である。

今日は冬休みに入る二週間前の、通称クリスマス会議の日。
最後の日はこども達とのクリスマス会。教室中を手作りの飾りで埋め尽くし、少しばかりのおやつで大騒ぎをして、また来年ねとこども達を家庭に帰す。宗教的な意味合いなど此処には無いが、結構皆楽しみにしてくれているので職員も毎年張り切ってしまう。
今年の出し物は何だろうなぁと、イルカは知らず微笑んでいた。
「忙しそうですね。でも楽しいって顔に書いてありますよ。」
と部下達と報告書を提出に来てやり取りを見ていたカカシが、笑ってイルカに話し掛けた。
昨年まではその中にいたこどもらは、聞かれもしないのにどれだけ楽しいかをカカシに語り出す。
煩いよ、とそれを遮ってイルカは机上を片付けながら立ち上がり、職員室へと向かう。煩いって、だってカカシ先生は知らないから教えてあげるんだってばとまだ騒ぐので、場所をわきまえろと耳を引っ張りながらイルカは歩き出した。
後ろではくくっと小さな笑い声、先生らしいとサクラが言う。
気を利かせたこどもらと別れて、二人で歩く。カカシ先生は呼ばれてらっしゃいませんか、と隣に並ぶカカシに聞けばそれが、と首を傾げてイルカに尋ねてきた。
「オレも協力して欲しいとか言われて、何の事だか解らなかったんですがイルカ先生に聞けと。」
「いや私も知らないんですが、出し物に関係あるんでしょうかね。職員以外の、それも上忍の方にお願いするなんて有り得ないんですが。」
とイルカは恐縮しきって下を向きながら歩く。
取り敢えずご一緒させて下さいと言われ、困ったなぁ、何を頼まれるんだろうという呟きに、私も困るよ、あんまり一緒に居たくないのに。とイルカは頬を染める。
隣を気にしすぎ向こうから人が歩いて来るのに気付かず、イルカは肩を抱かれて危ないですよ、とぐいとカカシに寄せられた。
男の吐息が睫毛に掛かり、イルカは思わず目をつぶる。その顔がカカシを煽るように色っぽく、咄嗟に顔を背け気を付けてと言えば、イルカも慌てて身を離し済みませんと頭を下げた。

あれ以来、必要以上に意識してしまう。先月カカシの家で発熱し、解熱剤を飲ませてもらったら体温が下がりすぎて、一つ布団の中、下着姿で温めてもらったのだ。
何が恥ずかしいって…考えるだけでも、いや考えられない位恥ずかしい。

カカシはまた別の理由で意識してしまう。薬を口移しで飲ませたその唇の感触。抱き込んだ柔らかな体。ずっと好きだった。触れられない位好きだった。触れてしまって、今度は肉欲というおまけが付いてしまったのだが、閉じ込めて平静を装うことにしたのだ。
任務より大変だなあ、と今も歯を食いしばり耐える。自分の片思いと思っているから。

職員室の前で立ち止まると、イルカは扉を開けようとした。手を伸ばすといきなり扉が開いて、遅いと大声で叱られ引っ張り込まれた。
声も出せず反応も出来ず眺めていたら、カカシも腕を掴まれ中へと引かれる。上忍の癖に、と自分でも思ったが一癖どころか十癖もあるような、もしかしたら上忍よりも強い奴らなのだ、此処の教師達は。
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