赤い着物が靡いて消えた。
着物の主は黒髪の若い男。確か部下達の、アカデミーでの担任だったと思う。
あまり他人を覚えていないオレだから多分、なのだけれど。
ここは極楽通り。天国を見せてくれる店が集まる場所。
けれどオレは天国なんか見たことはない。そこまで夢中になれないからだ。
取り敢えず気持ちいいと思えれば場所だって方法だって気にしない。くわえてもらうだけでも構わない。
女の中に出す理由だってないだろう? 子供が欲しいわけじゃないんだから。
出すものは出しても気の晴れないオレを無視して、極楽通りは今日も賑やかだ。

あれからずっと赤い着物が気になって、いや赤い着物を着ていた男が気になって。
女の着物を兵子帯で着ていたってことは、そういう意味なのだろうか。
この男に間違いはない。受付で見下ろす男はどう見ても男らしい身体に見えるけれど、脱がせてみたらまた違うのかもしれない。
うなじはとても綺麗だ。

そうしてオレは、今日も極楽通りをうろつく。
いた。
今度は柄が違うけれど、やはり真っ赤な着物だった。よく見ればしなやかな動きに絹が纏わりついて、浮かび上がる身体の線は案外細かった。
追う。
逃がすものか。

囲った男は困ったように俯いた。オレに驚いて何故と呟く。
何故。オレにだって解らない。ただあんたがいいと繰り返すだけ。
顔の傷を舐め、身体の傷を舐め、初めて誰かに執着したと男に告げて。
オレのものにしたかったから、小指をあげると言ったら泣いて止められた。
いいのに、あんただけが居ればいいのに。
男が長い髪をくれたときは嬉しくて、代わりに命を差し出した。
呪印を付けたオレの胸と男の手のひらが重なれば、オレは男のものになった。
誰のものにもならないと言っていた男も、泣いて泣いて涙が乾いたあとにオレの呪印を首に受け入れてくれた。

極楽通りの片隅。
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