「くそ暑いよな、裸になりてえ。」
怒ったような口調で言い捨てた肉付きの良い男が、袖を捲りベストを脱ぎ額宛ても取る。見ているだけで暑苦しい。
脱いでもいいよなーと誰に了承をとったのか解らないが、周りを気にしながら脱いだ優男はタンクトップになった。彼女のプレゼントを見せびらかしたかったらしいが、暑さで朦朧とし始めたから突っ込む者はいない。ちょっと寂しそうだ。
壊れかけた空調が止まっては動きと、あやふやな動作を繰り返す室内。服の布地が汗の染みを作る程に暑いが、イルカだけは額宛てを外さない。じっとりと額に滲む汗が、額宛ての布に全て染み込んでいるというのに。
誰かが何故外さないんだと何気なく尋ねたが、イルカは両手をそこに当てて顎を引いた。
「いや大丈夫、暑くない。」
人一倍暑がりのイルカが慌てる様子にこれは何かあるだろうと、仲間達はそれを剥ぎ取る為に一歩進んだ。危険を察したイルカは、風とともに室外に逃げた。
「校舎に結界張れ!」
「外に出すな!」
逃げれば追い掛けるのは忍びの習性。そして仕事を放り出しての攻防戦となった。もとよりやるべき事も終わって定時退勤を待つだけの、夏休み指定出勤日の職員室だ。
忍びの技をあれこれ駆使して数時間。多勢に無勢でとうとうイルカは捕まった。
両手両足を拘束されて、イルカも諦めいよいよ額宛てが取られた時。
「あ、なんだこれ。」
「へのへのもへじ?」
「へのへのもへじ…ってどこかで見たよな。」
「あっ、カカシ上忍のマークだ!」
イルカの額の真ん中に、油性マジックでへのへのもへじの顔が描いてあった。
「うるせえ! あの馬鹿が任務前に描いて、ご丁寧にチャクラコーティングまでして行きやがったんだよっ!」
涙目で額を擦りながら喚くイルカに、周囲は静まり返ってそそくさと自分の席に戻った。
「俺がう、浮気するんじゃないかって、マーキングして…あの野郎の方が浮気するんじゃないかって、毛が抜けるほど心配だってのに…。」
大きな独り言が聞こえるぞ、とは誰も言わない。
机に伏せたイルカの耳が真っ赤だなんて、誰も見ていない。
ましてやその相手がくのいち作成イケメンビンゴブックなんて物の筆頭に挙げられながら、忍服のかぎ裂きの補修に海に泳ぐイルカのアップリケが何ヶ所もあるのを自分に色目を使うのに気付かずそのくのいちに自慢しているなんて、知っていても誰もイルカに教えない。
馬鹿っプル万歳。
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