はあ、またさよならだとさ…。
何人目かも数えたくない彼女からの別れの言葉。そして俺は―寝取られ男―と呼ばれている。

そうだな、まずは名乗っておこうか。俺はうみのイルカ、二十代も半ばを越えた忍者養成学校の教師だ。
それでだ、何故俺がそんな不名誉な称号を戴く事を承認しているのかというと。いや承認なんかしてねえ、苦渋の選択の上で受諾してるだけだ。
同じか、うん同じだよな。
俺が寝取られ男とそう呼ばれるからには寝取り男も存在するわけだが、そいつは上忍はたけカカシという、俺には直接関係ない男だ。腹が立つから説明は省くが、皆はこいつの事をよーく知ってるだろう。
俺の、その彼女達は付き合い出して早ければ一週間、遅くとも一ヶ月で俺から去ってあいつの元へ走った。ニャンニャンどころかチューで終わる事が大半だ。
彼女達は必ず最後に、あの人はいつでも何処でもアタシをよく見てくれてアタシだけを好きって言ってくれるのよ、って俺を鼻で笑ってバイバーイなんだよ。
確かに俺は気が利かないけど、だからって彼女達から告白してきたのに、乗り替えるの簡単すぎないか。あー思い出してまた落ち込む。

…で、だ。俺は今、何故かその張本人と居酒屋のカウンターに並んで、肩も触れ合わんばかりに引っ付いて酒を飲んでいる。
くそぉはたけカカシめ、これが謝罪のつもりなのか。奢りだっていうなら力一杯吐くまで飲んでやるからな。

「カカシィ、なんで俺の彼女ばっかり取るんだよお。せっかく告白されたのに右から左へさよおならぁ、ってよお。俺なんか、どうせ俺なんかぁ…。」
あーそんなにべろべろになって、暑いからって脱いで綺麗な肌見せて店中の男誘って。
オレははたけカカシ、この人うみのイルカとは本来関わる事は殆どない。
だけど関わりたくて寝取り男を演じている。
そ、解るでしょ、オレは同性なんだけどこの人が突っ込みたいほど好きでね。何をってオレの息子、暴れん棒のビッグマグナムに決まってるだろ。
あ、イルカから寝取った女達の事はね、まあ脱がしといて後は術で記憶操作ね。オレは大体脇で煙草をふかして暇潰ししてるだけ。
内緒だからね、黙ってないと写輪眼出すよ。

おっとイルカの世話をしないと、色気ばら蒔いてろくでもない奴の毒牙に引っ掛かるところだ。何としてもオレの側に置いておかなきゃね。
「ねえイルカ先生。オレはさ、あんたの大雑把なところが好きだよ。他にはね、権力に媚びず誰でも平等に扱うところ好き。それからね、人の仕事を笑って引き受けるところも好き。嫌いな筈のオレと酒を飲める優しいところ、大好き。あ、昨日雨の中拾った子猫達はどうしてる?」
部下の子達に聞いたよ。
目線も決めた素顔を見せて耳元でイルカを見てたんだ、ってアピールはさりげなくストーカーにならない程度にね。
「あらら、どうしたのオレなんかに抱き着いて。泣いてんの。ごめんオレ、あんたが気になってたんだ。ずっとずっと、…酷い事してごめんなさい。」
なーんてね、人を使って女達を誘導してイルカに告白させてたの、オレ。
「違う、あんたが俺の気を引く為にあんな事をしてただなんて、俺怒ってる筈なのに…」
どうしよう、もう怒れない。
イルカは呟いてオレにしなだれかかる。
散々女達で練習したからね、酒も十分回ってるしオトし方は完璧だろう。どうせイルカも女達にはさよならされ続けて寂しいから、優しくされたらあっという間だぁね。
よしっ、今日はこれでお持ち帰り決定。

「ちょっとそこの中忍、よくもアタシのカカシを寝取ったわね。」
いやいや俺は被害者ですって、入れ替わり立ち替わり何人に説明すれば解ってもらえるんだ。短期間とはいえ俺と付き合ったあんたらなら、俺がそんな事ができないの知ってるだろ。

やたらとオトコが引っ掛かるのは、俺の責任じゃない。
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