「先生どうしたの、オレどこか変?」
少し不安げに自分の身体をあちこち眺めその場でくるりと回るカカシに、逆に非の打ち所がないなんて恥ずかしくて言えない。それでも顔を覗き込まれては、無言でいる事の方がもっと羞恥をかきたてるとイルカは知った。
「いやよくお似合いで、どこの雑誌のモデルかと思う程です。」
頬が熱を持っているのは見れば判るだろう。顔を見られないようにカカシに背を向け、自分の分の着物を持つとイルカは風呂へ行くと告げて俯きながら早足で逃げた。
はぁい、とのんびりした返事。
「風呂好きだってナルトに聞いてるので、あんまり遅いようなら後で見に行きますからね。」
追いかけてくる言葉にそんな事しないでくれ、とイルカは湯船の中に頭まで潜ってしまった。
……何がどうしてこんなに俺は動揺しているんだ。
カカシはのぼせやすいと言っていたから湯温は低めだ。イルカは湯の中で丸くなった。
いい大人だけどこっそり楽しんだっていいじゃないか。
折った脚を胸に押し当て腕を回し、額を膝に着ければプカプカと浮いては沈む繰り返し。何がしたいのかと問われれば困る、しいて言えば動揺を治める為。
浮き沈みで心を無にすれば落ち着いた。髪を洗ってタオルを巻く。
そのまま着物を身に付けカカシの元へと戻ると、頃合いを見計らっていたように小さな冷蔵庫から麦茶を取り出し二つのコップに注いでくれていた。
「戻りました。そんなに長風呂はしていないと思うんですけど。」
「そうですね。へえ、イルカ先生は髪を洗ったらタオルを巻くんですか。」
「あ、いや、」
女の子じゃあるまいし、と風呂屋で会った友人に言われた事を思い出してイルカは乱暴にタオルを外した。
まだ湿る髪が肩まで落ち、重みでバサリと音を立てる。
落ちた前髪を掻き上げれば、カカシが口を開けてイルカを見上げていた。
「すみません、お見苦しいところを。」
「いやいやそうじゃなく、雰囲気が変わりすぎて驚いたんです。」
深緑に薄墨の大きな格子模様が入った綿麻の着物。カカシとほぼ同じ色合いの辛子で波のようにうねった模様の帯を腰骨より少し高めに結んでいる。ウエストのくびれが解り意外と細身なんだという驚きと、着慣れている為か佇まいが美しい。男の着物姿に美しいというのも変だけど、暫く見ていたい気がする。
立ったままの全身をじろじろと遠慮なく見るカカシに、イルカはもういいですかと風呂上がりにほんのり染まった頬を更に赤くさせた。
弾かれたようにカカシは慌てて腰を浮かし、座ってお茶でも飲んでと麦茶を座卓の向かいに置いた。
向かい合わせに座ったが、なんだか少し空気が息詰まる気がする。お互いに視線をコップと相手の顔に行き来させて話題を探していた。
そこへ失礼しますと渡り廊下の襖の向こうからお手伝いさんの声が聞こえ、イルカは無駄に大きな声で返事をした。
夕飯をお持ちしてもと聞かれて床の間の置き時計を見れば、とうに六時を回っていた。外が明るいから時間の経過に気付かなかったのだ。
「カカシ先生、お腹空きましたか?」
「うーんそれほど。でも持ってきてもらったら食べられる気がします。」
「俺もです。あーすみません、夕飯お願いします。」
夕飯には少し早い時間だが、お手伝いさんは夕飯の支度を終えれば帰ってしまうのだ。食器は流しの桶に入れておけば、翌朝お手伝いさんが洗ってくれる。
やがて運ばれた膳はこってりした油物や肉ばかりだった。
「これは三代目とほぼ同じ食事なんですよ。」
イルカの言葉に意外だとカカシが唸った。
「三代目はお年の割に肉料理が好きなんですかね。」
「はい、あの小さなお身体でも毎日鍛えていますから。少食ですけど回数を増やして食べていますね。」
個人的な事までは殆ど知らないから、カカシはイルカの話す三代目火影の日常にへえとかほおとか感嘆詞の相槌しか出ない。面白くないでしょうと聞かれたがカカシは首を横に振る。
「それよりイルカ先生自身の事を話してくれません?」
「カカシ先生が見ている俺が全てだと思いますけど。そう言うご自分こそ秘密ばかりで、人生の殆どはたとえ忍びの同胞でも話せないんでしょう。」
半分は嫌味だ。暗部に自分を値踏みさせた恨みがまだイルカの中に燻っている。内通者と疑われても仕方ないとは理解しているが、里に対して目を掛けてくれた三代目火影に対しては命をもって忠誠を誓える。
イルカの意趣返しを悟ってカカシは申し訳なかったと深く頭を下げた。その顔を上げた時にイルカはぴくりと肩を震わせる。
「あの、俺今気付いたっていうか何を今更なんですけど、カカシ先生素顔ですよね。」
風呂上がりに口布付きのアンダーシャツを着物の下に着るのも格好悪いかと着ることをやめた。
幻術で適当な顔を見せてるわけじゃないと、カカシはイルカの手を取りゆっくり自分の頬から顎へと滑らせた。
少し不安げに自分の身体をあちこち眺めその場でくるりと回るカカシに、逆に非の打ち所がないなんて恥ずかしくて言えない。それでも顔を覗き込まれては、無言でいる事の方がもっと羞恥をかきたてるとイルカは知った。
「いやよくお似合いで、どこの雑誌のモデルかと思う程です。」
頬が熱を持っているのは見れば判るだろう。顔を見られないようにカカシに背を向け、自分の分の着物を持つとイルカは風呂へ行くと告げて俯きながら早足で逃げた。
はぁい、とのんびりした返事。
「風呂好きだってナルトに聞いてるので、あんまり遅いようなら後で見に行きますからね。」
追いかけてくる言葉にそんな事しないでくれ、とイルカは湯船の中に頭まで潜ってしまった。
……何がどうしてこんなに俺は動揺しているんだ。
カカシはのぼせやすいと言っていたから湯温は低めだ。イルカは湯の中で丸くなった。
いい大人だけどこっそり楽しんだっていいじゃないか。
折った脚を胸に押し当て腕を回し、額を膝に着ければプカプカと浮いては沈む繰り返し。何がしたいのかと問われれば困る、しいて言えば動揺を治める為。
浮き沈みで心を無にすれば落ち着いた。髪を洗ってタオルを巻く。
そのまま着物を身に付けカカシの元へと戻ると、頃合いを見計らっていたように小さな冷蔵庫から麦茶を取り出し二つのコップに注いでくれていた。
「戻りました。そんなに長風呂はしていないと思うんですけど。」
「そうですね。へえ、イルカ先生は髪を洗ったらタオルを巻くんですか。」
「あ、いや、」
女の子じゃあるまいし、と風呂屋で会った友人に言われた事を思い出してイルカは乱暴にタオルを外した。
まだ湿る髪が肩まで落ち、重みでバサリと音を立てる。
落ちた前髪を掻き上げれば、カカシが口を開けてイルカを見上げていた。
「すみません、お見苦しいところを。」
「いやいやそうじゃなく、雰囲気が変わりすぎて驚いたんです。」
深緑に薄墨の大きな格子模様が入った綿麻の着物。カカシとほぼ同じ色合いの辛子で波のようにうねった模様の帯を腰骨より少し高めに結んでいる。ウエストのくびれが解り意外と細身なんだという驚きと、着慣れている為か佇まいが美しい。男の着物姿に美しいというのも変だけど、暫く見ていたい気がする。
立ったままの全身をじろじろと遠慮なく見るカカシに、イルカはもういいですかと風呂上がりにほんのり染まった頬を更に赤くさせた。
弾かれたようにカカシは慌てて腰を浮かし、座ってお茶でも飲んでと麦茶を座卓の向かいに置いた。
向かい合わせに座ったが、なんだか少し空気が息詰まる気がする。お互いに視線をコップと相手の顔に行き来させて話題を探していた。
そこへ失礼しますと渡り廊下の襖の向こうからお手伝いさんの声が聞こえ、イルカは無駄に大きな声で返事をした。
夕飯をお持ちしてもと聞かれて床の間の置き時計を見れば、とうに六時を回っていた。外が明るいから時間の経過に気付かなかったのだ。
「カカシ先生、お腹空きましたか?」
「うーんそれほど。でも持ってきてもらったら食べられる気がします。」
「俺もです。あーすみません、夕飯お願いします。」
夕飯には少し早い時間だが、お手伝いさんは夕飯の支度を終えれば帰ってしまうのだ。食器は流しの桶に入れておけば、翌朝お手伝いさんが洗ってくれる。
やがて運ばれた膳はこってりした油物や肉ばかりだった。
「これは三代目とほぼ同じ食事なんですよ。」
イルカの言葉に意外だとカカシが唸った。
「三代目はお年の割に肉料理が好きなんですかね。」
「はい、あの小さなお身体でも毎日鍛えていますから。少食ですけど回数を増やして食べていますね。」
個人的な事までは殆ど知らないから、カカシはイルカの話す三代目火影の日常にへえとかほおとか感嘆詞の相槌しか出ない。面白くないでしょうと聞かれたがカカシは首を横に振る。
「それよりイルカ先生自身の事を話してくれません?」
「カカシ先生が見ている俺が全てだと思いますけど。そう言うご自分こそ秘密ばかりで、人生の殆どはたとえ忍びの同胞でも話せないんでしょう。」
半分は嫌味だ。暗部に自分を値踏みさせた恨みがまだイルカの中に燻っている。内通者と疑われても仕方ないとは理解しているが、里に対して目を掛けてくれた三代目火影に対しては命をもって忠誠を誓える。
イルカの意趣返しを悟ってカカシは申し訳なかったと深く頭を下げた。その顔を上げた時にイルカはぴくりと肩を震わせる。
「あの、俺今気付いたっていうか何を今更なんですけど、カカシ先生素顔ですよね。」
風呂上がりに口布付きのアンダーシャツを着物の下に着るのも格好悪いかと着ることをやめた。
幻術で適当な顔を見せてるわけじゃないと、カカシはイルカの手を取りゆっくり自分の頬から顎へと滑らせた。
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